これまでに4度、オスカーにノミネートされたマイケル・マンは、1981年の本格的デビュー作『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』から『刑事グラハム/凍りついた欲望』、『ラスト・オブ・モヒカン』、『ヒート』、『インサイダー』、『ALI アリ』 、『コラテラル』、そして人気テレビシリーズを大画面にリメイクした最新作『マイアミ・バイス』まで、スリル満点の映画的なドラマ作りで知られています。テレビシリーズ『ポリス・ストーリー/潜入』、『刑事スタスキー&ハッチ』でキャリアをスタートした後、80年代の伝説的テレビシリーズ『マイアミ・バイス』、そして『クライム・ストーリー』を手がけました。映画監督として大成功を収める一方で、マンは製作者としての手腕でも知られています。彼が製作を手がけた『アビエイター』は、アカデミー賞に11部門でノミネートされました。




−−− 『キングダム−見えざる敵』に製作者として関わるきっかけになったのは?
マイケル・マン: ピーターがきっかけとなって、この映画の製作を引き受けたいと思いました。2003年に彼が私のところに脚本を持ってきたのです。私はピーターが手がけた『Wonderland』のためのパイロット番組を見て以来、彼の作品の大ファンです。私は彼に電話をして、素晴らしいと思う、と伝えました。ピーターの『ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン』を見て彼の才能を知ってから、私たちは親しくなりました。自分でのそのジャンルの映画に携わったことがあれば、ジャンルを超えて理解することができるのです。作品の中に才能を見ることができます。それから、ピーターが私のところに来てくれたのです!

−−− 映画には大変深刻なテーマとアクションが共存していますね。
マイケル・マン:アイデアを得たら、まずはそこで起こるバイオレンスから始まります。それから、その事件を捜査する役目を担った現場のチームに焦点が移ります。この映画では、シカゴやLAで捜査するのではなく、チームはリヤドにいます。そこでは誰も彼らを歓迎していない。私たちは、このチームの日々の経験に観客が親近感を持てるように心がけました。感情面を描いて、ヘッドラインニュースの裏側で何が起きているか、ということを見せたかったのです。ストーリーのこういった要素から着手すれば、あとはもう組織的に、アクションや危険、政治的な陰謀や圧力 のうずまく緊張感あふれる環境に入っていきます。胸が痛む展開だけれど、ストーリーの系統を考えれば、それが自然なことです。

−−−1996年のアル・コバールでの爆弾テロのエピソードを取り入れた以外に、映画の中に真実を織り込んでいますか?
マイケル・マン:ええ、映画の中で、実際に現場の人がどんな風に感じていたのかということを再現しようと試みました。私たちはワシントンに行き、アル・コバールの爆弾テロのあとに現地に最初に到着したFBI法医学技術者にインタビューしました。まず、彼らにとってなにが重要だったのかということがわかりました。それは犯行現場を保全すること、現場がフレッシュなうちに到着すること、爆発物の素性を明らかにすること、それが何か特殊なものであれば大きなヒントになりますからね。彼らが最も恐れるのは現場が物理的に風化すること、それは映画の中でも懸念事項として描きました。そういった任務に従事し、アル・コバールの事件の際にも実際に従事していた人々とピーターは長い時間を過ごして、彼らがどう感じていたかを理解しました。それからジェイミー・フォックスが演じたフルーリーのような法医学専門家が、サウジアラビアのカウンターパートと、違いよりはむしろ共通点を多く持っているということが分かりました。ピーターは実際の事件を取材して、こういう状況を実体験した人々と話をして、その結果をストーリー構成に利用しました。

−−−アル・コバールの事件の後で、5日間の期限付きで派遣されたチームというのは実際にいたのですか?
マイケル・マン:わかりません。アル・コバールに派遣されたチームがいたというのは知っています。それがおそらく5日間か10日間の期限付きだったかもしれませんが、確かなことは知りません。サウジアラビア側から抵抗があったということは事実だと思います。サウジの人々は自分たちの犯罪を自分たちの手で解決し、情報が広まるのを避けたかったでしょう。それに国防省からも抵抗があったでしょうね。彼らは常に司法省と対立していますから。

−−−映画は、観客の予想を裏切るエンディングを迎えますね。
マイケル・マン:そうですね、特にピーターは、ハッピーエンドに逃げ込んで安易な解決を提供する、というのを避けることが重要だと考えていたようです。安易な解決なんてありません。これは困難な問題であり、行き詰ったまま、不完全な形のエンディングを迎えることによって、観客は最近経験した実際の事件をもう一度考えてみることになります。このようなエンディングによって、観客は人間の条件へと立ち戻ることになる。こういった感情面でのつながりこそ、この映画の素晴らしい点だと思っています。

−−−ジェイミー・フォックスを起用したのはなぜですか?
マイケル・マン: ジェイミーが『マイアミ・バイス』で私と組んでいたとき、ピーターが初めて脚本を持ってきて、ジェイミーを起用したいと言ったのです。だから私はジェイミーに脚本を渡しました。私とジェイミーはすばらしい関係を保っています。しかし、もちろん今回はピーターとジェイミーがいい関係を築くことがもっと重要でした。

−−−あなたとピーターとの関係はどうでしたか?
マイケル・マン:: 私は、自分のスタイルを作品に投影して、監督としての権威を強く保持しようとする監督と組んで、製作に携わるのが好きです。監督としての私がそうであるようにね。私に頼ってくるような監督の映画の製作には関わらないでしょうね。強い監督が好きなのです。私とピーターは、撮影初期といくつかの問題が持ち上がったとき、そしてエンディング撮影の際に、コンセプトの面で 緊密に話し合いました。映画作者同士、かなり深く意思疎通ができるので、他の人たちには数週間かかるかもしれないところを、私たちは数分で理解しあえるのです。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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