世界中で上映拒否された超問題作、遂に日本上陸。

本作は昨年9月に行われたトロント国際映画祭において最も話題になり、作品への賛否両論巻き起こる中、国際批評家賞を受賞した。全米では10月27日に公開。当初500館以上の劇場で公開予定だったが、圧力により91館での限定公開となった。
一方イタリアでは今年の3月16日に公開。この日はイタリアの元首相アルド・モーロが1978年に誘拐された日(後に死体で発見された)だったこともあり、公開予定劇場の30%が上映を辞退するなど、世界各国で物議をかもしている超問題作。

この問題作をひっさげて来日したガブリエル・レンジ監督にインタビューを行った。




ブッシュ大統領というと、ある種のパブリックイメージがあると思うんですが、この映画ではどこかしたたかな、彼の新しい側面を見たような気がします。

 この映画を作るにあたって、何百時間ものアーカイブやフッテージを見たし、実際に撮影にも行った。それらを通じて感じたことは、彼のカリスマ性だったんだ。
 実際の観客を前にしたときの彼の態度には、非常に人を惹きつけるものがある。まわりにいる人たちの心に残る言葉をかけたり、側近たちに対していかんなくリーダーシップを発揮するなど、いわゆる彼のイメージとはまったく違うものが見えてきた。

『華氏911』などが特に顕著でしたが、世間的にはブッシュを卑下していたような風潮がありました。

 実際に映画をリリースしたあとに、我々の描き方が優しすぎるのではないか。知的に描きすぎているのではないか、とリベラルなプレスに言われたのは確かだね。
 我々が普段、10〜15秒で見るニュース映像などの断面だと、言葉使いなどで失敗することが多くて、そういう意味でまぬけな存在だと思われがちなんだけど、実際とは違うんだ。

それはとても意外でした。

 政治ジャーナリストに話を聞いたときに言っていたのが、彼はそういう側面を利用しているんじゃないか、人々が彼を過小評価している部分を、逆に利用しているのではないかと。それは正しいのかもしれない。
 彼はみんなの隣にいるような人間で、普通のことを話す普通の男だ、というところを演じてアピールしているのかもしれない。それはアメリカ国民に対してもそうだけど、自分の敵に対しても、過小評価されているという世論を利用することで、相手を油断させているような気がするね。

ブッシュが暗殺されるというショッキングなテーマですが、資金的集めにおいて苦労はなかったのでしょうか。

プロデューサー兼脚本家であるサイモン・フィンチがイギリスのチャンネルフォーにこの話を持って行きました。アイディアとして危険だが、それでも魅力があると言ってくれて、全部資金を提供してくれた。でもアメリカで出た反応から推測するに、もしこの映画をアメリカで作ろうと思ったら、資金はアメリカで捻出するのは不可能だったんじゃないかな。

ブッシュが暗殺されるということは何を意味するのでしょうか?

 これは現在のアメリカを描く映画だと思うんだ。実際映画の中で起こっているのは、911の時に我々が見たものと一緒だと思うんだけど、暗殺というものは911のメタファーになっているのではないかな。
 だからブッシュ暗殺の映画というよりも、ブッシュ政権がアメリカの価値観に与えた被害、憲法というものに与えた影響を描いている。テロへの戦いに対する無関心、憲法を無視した状況こそが一番問題なんだ。

こういう映画を作って、アメリカに入るのは不安ではないですか?

毎回不安だよ(笑)。アメリカ合衆国に入るときには、入管に毎回小部屋に連れていかれて尋問されるのではないかという不安がぬぐえないんだけど、今のところはそういうのはないから良かったよ。

執筆者

壬生 智裕

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