“まだまだ草刈も頑張っているな、と思わせたいんですよ”『0093 女王陛下の草刈正雄』主演の草刈正雄インタビュー
俳優の草刈正雄はスパイだった!? 「女王陛下の草刈正雄」が愛と平和と愛娘を救うため、バナナを手に悪に挑む!
1974年『沖田総司』、1980年『復活の日』、1982年『汚れた英雄』……そして2007年。いまだかつてない草刈正雄が我々の前に姿を現す! 俳優・草刈正雄は世を忍ぶ仮の姿。彼の正体はシークレット・エージェント『0093 女王陛下の草刈正雄』だった!敵はIT社会に蹂躙する現代のメディア王。洗脳によって世界を支配しようとする魔の手は、草刈正雄とその愛する家族にもアフぃぃーっと忍び寄っていた。もう後戻りはできない。愛する娘と日本の平和を守るため、草刈正雄が立ち上がる!
今回は、長い役者人生において最もおバカな戦いに繰り出した俳優、草刈正雄にインタビューを敢行した。
草刈正雄さんにお会いできるなんて本当に光栄です。
こういった取材も久々なんでね。緊張するよね。
皆さんこの映画を観ると驚くと思うんですが、このタイトルを聞いたとき、どう思いました?
そりゃもう嬉しいですよ。久々の主演で、しかも『裸の銃を持つ男』とか、この手のコメディ映画は大好きですからね。周りも信頼できる『ケータイ刑事』のスタッフだし。僕のためにこの映画を作ってくれたというのは、本当に感謝感謝、宝物ですよ。
『ケータイ刑事』を観ていた人ならワンクッションあって、いよいよ来たか、といった感じかもしれませんが、世間的にはあの草刈さんがコテコテのコメディを? と思うかもしれません。躊躇はなかったんでしょうか?
僕は若いときから、いい意味で人を驚かせたいとか、裏切りたいとかいうことは常々あったんです。若いころに主演していた『プロハンター』とか『華麗なる刑事』なんかもそうでしたからね。あれもちっとも華麗なんかじゃなくて、ずっこけた刑事でしたけど。あの頃はショーケンにしても優作さんにしても、遊んでいるようなスタンスのドラマが流行ってましたからね。ああいう中で僕もやらせてもらって、いろんな人の芝居に刺激されたりしたわけですよ。
その頃から二枚目というレッテルを貼られるよりも、そこから外れたいという欲求がたくさんあったわけです。そこから『ケータイ刑事』が出たときは驚きましたよ。新しいドラマが出たなという新鮮さがあってね。
そしたらこの映画のオファーが来たもので、もう二つ返事で『やらせてください!』と言いました。
『裸の銃〜』も、レスリー・ニールセンが真面目な顔でふざけたことをするのが面白かったわけですよね。
そういうのは日本では皆無じゃないですか。僕らの年代でこういうことが出来るのは希望が持てますよね。最近ではお父さん役とかしか回ってこないですからね。これからは高齢化社会だしね。草刈も頑張っているな、と思われたいですよ。これをきっかけに、50代、60代の俳優にもスポットライトを当てて欲しいですよね。ましてや『裸の銃〜』のレスリー・ニールセンだっていい年でしょ。
白髪ですしね。
そうそう。俺だって出来るのにな、と思っていたんですよ。この年でそういったものをやりたいなと思っていたから、本当に宝物。ありがたいですね。
この映画でも草刈さんが真面目な顔でおかしなことをしていて。それがおかしいんですよね。
僕もね、ほとんど何もしてなかったんですよ。監督もすごいアイディアマンだし、台本もすごく完璧。センスのいいギャグが散りばめられていましたからね。僕が変に小細工しなくてもいいんですよ。だからただそこにいればいいかなと思っていました。
ということは、アドリブはそんなに?
まあ、ちょこちょことは入れてましたけど(笑)。でも、基本的にはそのままにしていましたね。
そういう意味では、監督なり脚本家なりが考える草刈正雄像ということなんですか?
そうかもしれません。脚本の加藤淳也さんとも長い付き合いですからね。だから2人の愛情を感じますよ。草刈正雄にこういうことをさせたいということでね。
草刈さんから見た篠崎監督とは?
映画が好きで、俳優さんのことが好きで、本当に信頼してくれますね。だから僕らも温かい気持ちになれるし、頑張れる。非常に愛情たっぷりの監督でしたよ。映画作りということに関してもね。
オープニングは色っぽいラブシーンでしたね。
嬉しいよね。この年になって、ああいう若い娘とラブシーンが出来るのはね(笑)。この調子で第2弾、第3弾と作っていってね。脚本家の加藤さんも、監督の篠崎さんも次も作りたいと意気込んでましたね。
エンディングに次作の予告編が挿入されていますからね。これは次もやるぞ、という宣言ととってもいいわけですよね。
そうなるといいですね(笑)。
スパイ映画は当然お好きだったと思いますけど、どんなスパイ映画が好きでしたか?
ガキの頃から鉄砲ごっことか、そういうのをやっていましたからね。そういうところから繋がってきますよね。そして、僕が青年になると『007』が始まると。それからちょっとずっこけたスパイものの『それゆけ!スマート』とか、『スパイ大作戦』とかね。スパイものが全盛だったわけですよ。結局俳優になっても、そういう憧れは自分の延長線上にいつもありましたよね。
当然、本作は007にオマージュというか、パロディというか…。
まあ、訳分からないけどね(笑)。スパイを演じたのは初めてだったわけですから。
ジェームズ・ボンドのまんまですからね。たとえば穴の中から銃を撃つ有名なカットとか。
全然関係ないんだけどね。何が女王陛下なのかよく分からないし(笑)。
主題歌のバックでシルエットの人物が出てくるシークエンスも007ですよね。あそこのシルエットは草刈さんなんですか?
そう。あれは自分ですよ。ああいうセンスは監督のアイディアでね。『ミスター・ビーン』のようなギャグをたっぷり入れられて、大満足でしたよ。撮影自体は短かったんですけどね。10日くらいで全部撮影したんですけど、みんな楽しんでいたしね。カメラマンなんて笑いをこらえて震えてましたよ(笑)。
楽しい現場ということは、アイディアも次々と湧いてくるんでしょうね。俳優自らがスローモーションを再現するシーンが面白かったですね。あのアイディアは?
あれは脚本の段階でありました。加藤さんのアイディアですね。ナイフがゆっくりとくるくる飛んでる中で、周りにいる人が妙なことをしている。そこの音楽が妙で、非常に印象に残りますよね。
スローモーションだからゆっくり喋るじゃないですか。
あーーぶーなーいーー、ってね(笑)。こんないい年をした大人たちがバカなことを一生懸命やっていてね。
主題歌もご自身で。
本当に歌まで歌わせてもらってね。草刈正雄のオンパレード。本当に感謝してますよ。
今、『スキヤキウェスタン・ジャンゴ』とかありますよね。僕らが20年前、30年前にいろいろ想像していたことが実現してきているんですよ。
自分がスパイだったらとか、日本人の俳優が西部劇をやったら面白いだろうなとか。30年前くらいは若い俳優たちが話しあってたんですよ。もちろんその時は映画会社も全然相手にしてくれなかったんですけどね。
でも想像はいろいろと広がっていたわけですね。
俳優だからいろいろやりたいと思うじゃないですか。洋画に憧れたりしてね。でも当時は日本人が西部劇をやるなんてありえないなと諦めたりしていましたからね。今はいい時代だなと思いますよ。僕ら世代の俳優も忘れないで欲しいんですけどね(笑)。
では最後に観客の皆さんにメッセージを。
こうやって草刈正雄のためにみんなが集まってくれるなんてね、僕は本当に幸せものですよ。こんな映画は珍しいですよ。冗談抜きで、これを撮影している時に死んでもいいと思いましたから。でも続編を作るためには、まだ死んじゃいけないんですけどね(笑)。
執筆者
壬生 智裕