釜山国際映画祭から始まった、釜山オールロケによる青春活劇ムービー!

釜山国際映画祭現地の熱狂をそのまま取り込んだドキュメンタリータッチの映像。一方ではリアルな釜山の人々の生活が垣間見えるとともに、右も左も分からず言葉も通じない国での少年の孤独が滲み出す…。そしてそこから生まれる束の間の恋心と挫折。甘く、そしてほろ苦い青春映画が生まれた。

主演は、『美しい夏キリシマ』で鮮烈なデビューを飾り、『17歳の風景』『子宮の記憶』などに主演した注目の俳優・柄本佑。主人公クリハラを自然体で演じている。そして個性的な日本人女性ヨーコ役には、『月とチェリー』『闇打つ心臓』、大ヒットTVドラマ『時効警察』など話題作への出演が相次ぐ江口のりこ。

監督は、井筒和幸、崔洋一、石井隆、李相日など、名だたる作品の助監督を務めてきた武正晴。本作が第1回劇場用長編監督作品となる。自身が以前、プサン映画祭に行った時のエピソードを元にしたと話す本作について、インタビューを行った。







キャスティングが絶妙ですね。

この映画は、柄本佑、江口のり子という若くて素晴らしい俳優、そして脇を固める人たちに注目してもらいたいですからね。
キャスティングですが、もともと柄本佑主役で撮りたいという話になっていたんですよ。僕も彼のことは知っていましたしね。
それで女優をどうしようかという話になりまして。劇中に土に埋められるシーンがありましたけど、土に埋められても、文句を言わない女優って誰なんだろうと思ったときに、江口のり子の顔が浮かんだんですよ。

江口さんって元々色っぽい女優さんだと思うんですが、この映画では今までとは違う一面が出ていたように思います。

最初の衣装合わせで江口さんに会ったときに、今までと違う江口のり子を見せるから、なんて冗談で言ってたんですよ。髪型も変えよう、衣装も変えよう、と言ったときに、『こんなにいっぱい着替えさせてもらったのは初めてやわ』と言ってましたね。江口のり子ファンにはたまらない作りにしてやるからな、なんて言ってたんですけど。でも、あの子の可愛い部分というのを追えば、主人公の心理も追えるのかなとは思ってましたね。

カメラマンとして柄本さんの名前もクレジットにありました。

撮影では一緒に2度韓国に行っていて、映画祭の撮影のときは、3日間行っていたんですが、彼はフルでカメラを回してましたからね。そういうのは彼も好きだから、どんどん撮ってもらいました。

彼の撮った映像で採用されたのは?

街の映像や劇中の食べ物などはちゃんと使ってますね。

カメラマンとしては、監督のクレジットもありました。

撮影が終わってスタッフは帰っていったんですが、さすがにここまで来たら、もう少しカメラを回して撮っておこうと思ったんですよ。何か起きないかなと思って、最後まで残っていたら、ちょうど映画祭の看板を撤去するところが撮れたんですよ。

あのシーンは祭りの終わりといった感じで、ものすごくせつない感じが出てました。

あれは自分でもよくやったと思いました(笑)。本当に偶然ですからね。

あのあたりは監督の心情というのも出ていたんでしょうか。

確かに寂しい気持ちにはなりましたよね。脚本家の窪田さんが撮ってきたものを見て、それでシナリオを直してくれたんです。海外ロケなんていつもトラブルが多いんですけど、今回は何のトラブルもなかったですね。うまいものを食べながら、幸せな気持ちで撮影が終わりました。

脇のキャスティングも良かったですね。特に驚いたのが前田綾花さん。最後にクレジットで出てくるまで彼女だとは分かりませんでした。

ずっと寝てるだけの人というのは、いろんな映画で出てきますけど、そういうのは前からずっとやってみたかったんですよ。本当はあの最初のシーンはもっと長かったんですよ。つまり、光石さんが可哀想なこいつのために、おみやげ買ってきてやれよと言ったら、ガバッと起きあがって、それ以外にも何々ね、と言って、またガバッと寝る。それを見て、柄本佑がまた嫌な気持ちになって、回想が終わるというようなオチなんですよ。
これは確かに面白いんだけど、編集の時に、長くなっちゃうんで切りたいなと思って。でもこれ、前田綾花だと分からないよな、と思ったんで、最後のクレジットの時に名前を入れなきゃと思ったわけなんです。

あれはあれでおいしい役ですよね。

意外に難しいですからね、あの役は。前田さんだけでなく、今回は皆さん、お芝居がうまくて、ナチュラルな芝居が出来る職人たちにお願いしたんですよ。時間もなかったですし、こっちは新人監督ですからね(笑)。

宿屋のおばちゃんと柄本さんのやりとりがすごく良かったです。

あのおばちゃんは、本物の現地の宿屋の人なんですよ。実際に映画行け、映画行けと命令口調だったし(笑)。どこか佑君も、おばちゃんに負けてるところがあるんですよ。時々とんでもないことを言うんで、彼もプッと笑い出すときがあって。でも、芝居は意外と的確にやってましたよ。時々、とんでもないNGを出したりもしてましたけど。アドリブで時々変なことを言うんですよ。

やはり宿の管理人だから、日本語を覚えるんですかね。

そうですね。あと、佑の言うことを反復したりするんですよ。最後に、帰れ、帰れ、と言うじゃないですか。で、最後に佑がアドリブでバイバイとか言ったら、バイバイって言い返すんですよ。それがおかしくて(笑)。突発的に言ったことに対して、リアクションをとるのって、意外と役者さんは出来ないんですよ。あのおばちゃんは常日頃、いろんな人と顔を付き合わせているから自然なんですよね。
言ったことに返すという、ごく当たり前のことなんですけど、それが面白いんですよね。多分バイバイの意味も分かってないと思うんだけど。だからおばちゃんといるときは何が出るか、毎回楽しみにしてましたね。本当にあのおばちゃんに頼んで良かったですね。

執筆者

壬生 智裕

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=45028