世界20ヶ国を席巻したホラー映画がディレクターズ・カットで逆輸入公開!

数多くのホラー作品を手がけてきた作家、大石圭。自らの最高傑作と公言する「1303号室」がついに映画化。恐怖は国境を越え海外20ヶ国以上での公開が決定! 日本より先に公開された国では新たな恐怖を求め観客が殺到! 美しい海を見下ろすリゾートマンションの1303号室から若い女性の飛び降り自殺が続発。恐怖の部屋「1303号室」からあなたは逃れられない!!

主人公の真利子役には「ストロベリーショートケイクス」「夕凪の街 桜の園」などに出演し、その演技力に評価が高まる中越典子。出演は映画、TV、舞台と幅広く活躍する古田新太、「tokyo,sora」「クローズドノート」の板谷由夏、「ツィゴイネルワイゼン」「蛇イチゴ」の大谷直子など、近年のホラー作品には珍しく実力派が揃う。

「日本製少年」「富江」シリーズなどの代表作を持ち、海外での評価も高い及川中監督に本作の裏側についてお話を伺った。





この映画は海外資本で作られたと聞いたのですが。

「国際マーケット向けのファンド形式で作られているんですよ。僕が最初に聞いたところによると、スウェーデン、韓国、アメリカの会社とが最初から組んでいたということらしいですね。元々は、ディメンジョンというアメリカの会社があるんですが、ここはホラーなどを手がけていて、『リング』などもこの辺から来ているんですよ。日本のホラーは幸いにして、今は国際的に評価されていますから、その流れで作られたわけです。でも海外資本ということで制作は確かに大変でしたけどね」

アメリカ側の希望ということで、いろいろ言ってきたと思うんですが、具体的に何を言ってきましたか?

「分かりやすく言うと、貞子と伽椰子なんですよ。英語圏の人はいろんなことを言ってくるし、欲張りですよ。確かに相手の望みは最大限聞いてあげたいとは思いますけど、こちらとしては予算のこともあるし、日本の映画独自のやり方もあるわけだから、何でも言うことを聞けばいいわけじゃない。だからやんわりとそらしたり、違う答えを出すことは結構ありましたね。今、貞子と伽椰子と同じことをやっても、みんなが一度観たものだから怖いとは限らない。初めて観たときのあのゾッとする感じはもうないわけですよ。じゃ、どういう怖さがあるんだろうか、という話をしていくと、ズレも当然出てくるわけですよね」

アメリカの怖さと日本の怖さのズレというのは、どこらへんにあるんですか?

「やはり霊ということの捉え方だよね。もちろん『リング』とか『呪怨』というのは面白いし、怖いと思っていますよ。ただ、自分で作るとなると、ちょっと怖さが違ってくるんですよ。ホラーの範疇では、霊的で形容し難いものよりも、分かりやすいモンスターみたいな方が僕は好きなのね。映画で言うと、自分の中では『ローズマリーの赤ちゃん』というのは決定的にあったものだよね。あれはホラーとしか言いようのない怖さだったからね。あとは『エクソシスト』。そこらへんが自分の中での分かりやすい軸としてありますよね。
それと実はパニックホラーの類も好きで。映画で言えば『エイリアン』ですよね。第1作目のリドリー・スコットのやつ。あれはゴシックホラーの宇宙版でしょ。あれは共通言語としてのホラーだと思うんですよ。エイリアンがどこにいるのか分からない。出てきたら最後、やられてしまうという怖さ。あとこれはホラーと言わないかもしれないけど『ジョーズ』だよね。そのへんが自分の中にある、自分の好きなホラーのベースですよ」

それを踏まえて考えて今回の映画を観ると、監督の嗜好が分かるような気がします。

「映画に詳しい人なら、前半はJホラーのオマージュだと気付くんじゃないですかね。僕が怖いと思ったJホラーの名手たちに敬意を表して、自分なりに取り込んでみたつもりです。でも後半は、自分の好きな方へ急激に流れていくわけです。まさに『ジョーズ』とか、そういうところですよね」

ネタばれになるので多くは言いませんが、後半になると、確かにモンスター的な要素が出てきますからね。

「これはちょっと笑い話になってしまうかもしれないんですが、実際に部屋の中のセットをスタジオの中に少し傾けているんですよ。30度くらいかな。クレーンで釣って。最初からそういう風にしてくれと。そうすると上にあるものが下に落ちていく時に、吸い込まれていくように見える。それは『ジョーズ』のオルカ号に敬意を表しているわけですよ。そういうところはまさにアメリカンホラーですよね。
もちろんそれはそんなに安易にやったわけではなく、アメリカ側との数ヶ月に渡るやりとりの中で生まれたものですけどね。こちら側としても、『リング』『呪怨』が世界的にヒットした今、ホラー映画を生みだすことのモチベーションや意味なんかを、自分なりに集約していった結果なんですよ。それは悩んだ。なぜ今、ホラーを作らなければならないのか、というところは。それはあったけど、でも現時点で考えられうる自分なりのホラーの姿、答えはここにあると思います」




先ほど前半はJホラーにオマージュを捧げたとおっしゃってました。もちろんその通りだと思うのですが、僕が観た時の印象としては、逆にハリウッドのホラーのようでもある、と感じたんです。ステディカムのカメラでスムーズに動き回るカメラ、その映像のバックで派手に響き渡るスコアというところで。このあたりのバランスはどうだったんでしょうか?

「あれはアメリカと脚本のやりとりをする中で、オープニングはこういう風にしてくれと具体的に言ってくるわけです。ただそれをそのままやってしまうのはとちょっと違うかなというところはあるので、そのままはやらないんですけどね。そういう意味で、あのオープニングはひとつの折衷案なんですよ。だからバランス良く見えるということは大正解なんですよね」

原作の大石圭さんが関わり方は?

「この間ゆっくり話したんだけど、生きている人間の方が怖いという考え方らしいね。霊とかそういうのはあんまり怖いと思わないと言ってました。大石さんの考えているのは、人間の闇の部分が持つ怖さというところだから、そこが今またホラーをやる上でのひとつの軸になりました」

この映画は及川監督ならでのホラーだなと思いました。ホラーもあるんだけど、ドラマもあるという。

「僕の基本軸はやっぱり映画なんですよね。観客がホラーと聞いたら、怖さを求めて来るというのは分かっていることだから、それをあんまり裏切っちゃいけないなとは思うけど、一方、あまのじゃくな自分は、ここでは違うものがあってもいいでしょとなる。それでも今回はなるべく押さえたつもりですけどね」

でも、元々のテーマが母娘の怨念がテーマになっているわけですから、怖さとドラマ性というのは、上手い具合にブレンドされていたように思いますが。

「やっぱりエンタテインメント映画として観て欲しいというのはありますよね。基本はホラー映画なんだけど、さっき言ったように、いろんな映画の面白さを詰めこんでいるわけです。
そういえば韓国の会社の意見も聞いたんだけど、韓国の会社はよりアメリカ的というか、怖さを具体的にどんどん出してくれ、という意見があったみたい。面白いよね。アジア的だと言いたいところだけど、韓国の感覚はむしろハリウッドに近いんだよね」

たとえば韓国側が追加してくれと言った部分で、採用されたシーンはありますか?

「オープニングのエレベーターの部分で、目のない女が出てきて、という笑い話が出てくるでしょ。あのシーンは最初はなかった。でもいろいろ聞いていくうちに、ああいうのが欲しいんだなというのが分かったから、ああいうビジュアルにしたわけ。ほとんど最終段階の台本にサービスで入れたカットだよね、あそこは」

そうすると、アメリカ側や韓国側も脚本のクレジットも載せられるくらい口を出してきたということなんですか?

「そうは言っても、それほどあちらの意見を全面的に取りいれたわけでもないから。口で説明するのはもどかしいから、書いちゃったというところですよね。とにかくあっちの人が言ってくることの特徴はすべて分かりやすさですよ。人間関係がちょっとでも曖昧だったり、心理が分からなかったり、どうしてこういう行動を取ったのか、ということで説明を求められることが多かったよね。
ラストシーンでヒロインが死ぬか生き残るか、というところはけっこう討論がありましたね」

ネタばれになるので、どちらの結末になったのかはここでは触れませんが、うまい具合にまとまっていたと思います。

「実はもう片方のバージョンも撮っているんですよ。いきなり撮影現場にあっちのプロデューサーが来て、別のエンディングでも撮れませんか、と。そこまで言うなら一応撮っとくかというわけで。その辺はアメリカ方式でしょ。日本のスタッフからは曖昧なんじゃないかと言われました。ラストを決めることで全体の作業方針も決まってくるわけですからね。生き残ると死ぬでは大違いですよ。でも『エイリアン』でもエンディングはいくつかあったらしいですね」

アメリカは何通りか撮影して、試写を観て結末を決めると言いますよね。

「それは確かにいい面もある。でも日本の伝統的な考え方でいくと、まだ馴染まないかな」

とにかく映像が綺麗でしたね。

「出資者が日本だけじゃないということもあって、カメラの移動があったり、動かすというのは、意識してやったところですよね。だからといって、日本の映画とあちらの映画を明確に区別するというものでもないんですけど。あちらはマルチカメラで撮影しているからカットが割れているけど、基本は長回しですからね。日本はある意味、伝統的にカットを割って律儀に撮っていくというのがあるから、一概にどうとは言えない。
 カメラマンはJホラーの名手の喜久村徳章さん。『呪怨』を撮った人だから、そりゃすごいのよ。彼の言ってること、やってることがものすごくよく分かる。だから全幅の信頼でお願いしましたよ。やはり暗さとかトーンを出すのがすごくうまいよね。あれは独特です。この映画はハイビジョン、ソニーのシネアルタのカメラで撮影したんだけど、彼がフィルムで撮ってるのと、全然遜色ないから。いわゆるホラー映画の世界観が活きているんだよね。色の調整のやり方も独特でしたよ。彼はアメリカ側からのリクエストですから。ミスター喜久村に是非とも撮って欲しいと言ってきたような人だからね」

執筆者

壬生智裕

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