『パルプ・フィクション』『交渉人』『スター・ウォーズなど、俳優として様々な顔を持つサミュエル・L・ジャクソン自らが惚れ込み製作総指揮と主人公の声の出演を買って出たジャパニメーション『アフロサムライ』がついにスクリーンに登場!

監督は『攻殻機動隊』の作画監督としても知られる木崎文智、アニメーション制作は「GANTZ」「巌窟王」「ブレイブ・ストーリー」のアーティスト集団・GONZO。また音楽界の創造性を刺激し続けるヒップホップアーティスト・RZAが音楽を手がけた。

今回は時代を超越した今まで誰も見たことのないサイバーアクション・時代劇を生み出した原作者の岡崎能士氏にお話を伺った。










アフロサムライという風変わりなキャラクターはどのように生まれたのでしょうか?

「元々は大学のときに描いていた落書きなんですよね。ちょうど『ソウルトレイン』の再放送がやっていた時で。アフロヘアがすごくカッコいいなと思って。それと同時に僕、時代劇も好きなんですよ。じゃハチマキもつけてみて、サムライにしてみようか、なんて感じで出来あがったのがアフロサムライですね」

アフロサムライは元々マンガだったと聞きました。

「大学を卒業して、イラストレーターの仕事を始めたんですが、駆け出しだと好きなものが描けないんですよ。仕事ですからね。そんなときはイラストレーター仲間と呑んで、クサクサしていたわけですが(笑)。そんなときに自費出版で、お金を出してでも自分の出したいものを出そうよと。そこにアフロのマンガを描いて出したんです」

そのミニコミ誌の流通は少なかったらしいですね。

「それが最初は200部しか出していないんですよ。この本も2000年くらいに休刊したので、今はまた一から『アフロサムライ』を描き直しているところです。来年くらいには出せるかなという感じですが」

その200部しか流通してない本が、なぜこんな大きな話に膨らんでしまったのでしょうか?

「それを話すと少し長くなるんですが(笑)。もともと誰にも文句を言わせない。自分の描きたいことだけを描くということで始めたんです。でもこのキャラクターは気に入っていたんで、売れなくてもとりあえず一生描き続けていけば何とかなるかもよなんて言ってたんですよ。
 そしたらちょうど2002年くらいにフィギュアブームがあって、アフロのフィギュアを出そうという話になったんですよ。その頃お世話になっていた「トウキョウトラッシュ」というウェブサイトの山口さんが、若手のアーティストのフィギュアを出そうという企画を出してくれて、その中にアフロもなぜか入ってたんです。
2000個くらい作ったはずなんですけど、それが売れたよ、なんて話はその後も聞くこともなく(笑)。でも僕もおもちゃ好きなので嬉しいな、なんて、ひとりで喜んでいたんですよ」

アフロサムライの制作会社であるGONZOと出会うのは?

「それからまた何年か経ってですね。GONZOの人に会って、何か一緒にやりましょうという話になったんですよ。ただアフロサムライだと、あまりにも振り切れすぎだから、先にいろいろ作って、どんどん名前を売っていきましょうとか言ってたんです。そのときに僕がGONZOの人にフィギュアを一体あげたんです。
ちょうどアメリカのGONZOのエリック・カルデランというのが、それを見て、これはすごい、絶対にアメリカで売れるよ、なんて話になったんですが、それからまたしばらくは特に何も動きはなく」

かなりの紆余曲折があったわけですね。

「その後、1分くらいのパイロット版を作りました。そこでエリックがアメリカでそのDVDをあちこちにばらまいんて、宣伝したんですよ。それがなぜかサミュエルのエージェントまでいって。サミュエルが、これは俺がやると、その場でサミュエルがエリックの自宅に電話してきたらしいんですよ。エリックは大喜びですよ。その勢いで国際電話がうちにかかってきたんですけど。ちょっと気に入って、いいねと言ってくれただけだろうけど、良かったねなんて他人事のように言ってたんですけど、サミュエルが入ることになって、企画が急発進したところがありますね」

それが企画が動く推進力だったわけですね。その後、サミュエルさんに直接お会いになったそうですね。

「ハリウッドスターだし、怖いんだろうなと思って、かなり緊張してたんです。でも最初に会った時の彼の格好が、『・スターウォーズ エピソード2』の帽子をかぶっていて、『子連れ狼』のTシャツを着ていたんです。もうアフロサムライそのまんまだなと思って。この世界観は僕の好きなものばかりですから。ウワーッと。この人分かってる、この人なら任せられると思いました。すごくいい人でしたしね」

彼も日本映画について相当詳しいらしいですからね。

「確かに時代劇や日本映画について、相当詳しかったですね。何か言えば、反応があるし。それDVD持ってるよ、とか。それ日本でもDVDが出てないんだけど、なんてものでもよく知ってて。本当に詳しかったですね」

彼が入ったことによって、注入されたものといえば?

「基本的には僕が考えた話の通りにいってるんですが、サミュエルはベッドシーン、つまり濡れ場を入れろと。アフロがゲイに見えるからということなんですね。それは結構早い段階から言ってました。
それならということで、こちらもやりますよと。アニメのスタッフも相当気合を入れて、上がりもすごく早かったらしいんですよ(笑)。相当楽しんでいたらしいですね。
ただ、アフロの声をということだったんですが、アフロはあまり喋らないので、どうしようかと。そしたらニンジャニンジャの声もやってもらえることになって」

じゃ、あの道化のようなニンジャニンジャというキャラクターはサミュエルさん作り上げたんですか?

「『ジャッキー・ブラウン』のあのキャラクターが好きで、ニンジャのキャラクターはそれをイメージして描いていたところがあるんですよ。そこで、『ジャッキーブラウン』のキャラでお願いしますと言ったら、いいよ、と。嬉しかったですね」

ところで岡崎さんは、『踊る大捜査線』『UDON』などで可愛らしいキャラクターイラストを描かれています。それらと『アフロサムライ』とは非常にかけ離れたスタイルだと思うのですが、ご自身の作風というのはどう考えていらっしゃいますか?

「アフロのタッチは、すごく僕の好きな感じなんですけど、イラストレーターとしては、この絵ではお金にならないだろうなというのがあったわけです。イラストの仕事をする時は可愛らしいキャラクターを描いているわけですが、こちらはこちらで非常に楽しいわけです。仕事用、プライベート用と分かれていたのが、アフロの方も仕事になっちゃったんで、結構戸惑っているんですよ。むしろメインになっちゃったなと思って。
アフロがメインどころに来てしまったので、始めて会う人にも、もっと怖い人かと思ってましたとかたまに言われちゃうんですよ。全然そんなことないのに。でもね、このタッチはすごく好きなので、どんどんこれを詰めてやっていきたいと思ったんですけどね。でも最近はこういう血生臭いのばかり描いているんで、今度は可愛いものが描きたくなってきているんですけどね」

アメリカのテレビで放送されて、反響が大きかったそうですが、それを聞いた時はどう思いました?

「最初に聞いたときは、監督も含めて、へえ、といった感じだったんです。でも実際にニューヨークに行って監督と並んでサイン会をさせてもらったときに初めてファンの人に会って。もっとアニメ好きな人がたくさん来るのかなと思っていたんですけど、意外なことに黒人の若い男の子が多かったんですよ。年をとった人も来てましたね。彼らの息子や孫が出てきて、オヤジはアニメは観ないんだけど、これだけは観るんだよと言いながら。話を聞くと、今まで黒人のヒーローっていなかったんだというんですよ」

何かいそうな気がしましたが、意外ですね。

「僕もそう思ったんですけど、でもよく考えたら『ブレイド』だって黒人だけど、バンパイヤですからね。黒人にとっての純粋なヒーローがなかったから、待っていたんだよと言われて。僕、日本人なんですけど、なんて恐縮しちゃったんですけど(笑)。最初はアメリカに持っていったら、怒られるんじゃないかと思っていたんですよ。歴史的にもいろいろと大変だったわけじゃないですか。日本人に俺らのつらさがわかってたまるかと。そこらへんはちゃんと喜んでもらえて。それは意外だったし、嬉しかったですね」

執筆者

壬生智裕

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=46003