“ドナウの真珠”とよばれるハンガリーの首都ブダペストにはあちらこちらに悲劇の歴史の傷跡が残されている。そこは20世紀ヨーロッパでもっとも多くの人の血と涙がこぼれた場所。

1956年、ソ連の衛星国として共産主義政権下にあったハンガリーで、市民たちは自由を求める声を上げた。本作は失われた革命とオリンピックの栄光があった1956年を必死に生きた哀しくも美しい恋人たちの物語。

『ミュージックボックス』や『ターミネーター』をプロデュースするハンガリー出身のプロデューサー、アンドリュー・G・ヴァイナが母国への思いを込めて企画し、監督には本作が長編映画2作品目となった期待の若手女性監督クリスティナ・ゴダ、主人公の恋人たちを演じたのはハンガリーを代表し、ハリウッドでも活躍する若手人気スターのイヴァーン・フェニェーとカタ・ドボーといったハンガリー史上最高のスタッフ・キャストが送る映画『君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956』。

本作は、ハンガリーで革命50周年を祝った2006年10月23日に公開され、これまでのすべての映画を上回る最高の動員を記録、また本作は9月5日から9日まで愛知県で行われた“あいち国際女性映画祭”にてあいち国際女性映画祭2007観客賞を受賞している。

作品のプロモーションのため来日した主人公・カルチを演じたイヴァーン・フェニェーさんにお話を聞きました。





—本作に出演が決まったときのお気持ちはどうでしたか?
本当に一番大きな規模の映画で主人公として出演することが出来て嬉しいと思っています。光栄なことに共演したカタと共に1956年のハンガリーのシンボル、また新しい世代にとっての象徴になれてとても嬉しいです。

—この歴史的な意味のある作品に出演するにあたり役作りはしましたか?また演じるにあたり一番気をつけた部分はどこですか?
56年のハンガリーの革命はとても微妙で繊細な問題なので、私たちはそれをどう描いて伝えるかということに気を使わなければいけませんでした。2ヶ月間水球のトレーニングをし、監督とのリハーサルという段階を経ていきました。自分としては、本や映画を沢山観ました。そしてこれまで学校で教えられて無かったディテールは両親や祖父母に聞きました。

—2ヶ月間のトレーニングはどうでしたか?また実際の試合シーンの撮影はどんな様子でしたか?
2ヶ月間の間に1週間に4・5回1時間半ほどのトレーニングを行っていました。実際のハンガリーの代表のチームと一緒にトレーニングに出れて良かったです。凄くいい人たちで、今でも彼らとは友達です。撮影は、ちょっとずるをすることもあって(笑)、ジャンプのシーンで水面下にテーブルを置いてその上に立ちそこからジャンプをしたりしていたんですけど、僕自身は自分でやりたかったので使いませんでしたよ。撮影が始まって10日から20日間のときに水球シーンの撮影がおこなわれて良いウォーミングアップになったし僕自身スポーツが大好きだったのでとっても楽しい時間になりました。

—主人公・カルチは、家族想い、誠実でまっすぐな青年として描かれていますが、イヴァーンさん自身の性格と共通する部分はありますか?
基本的に良く似ていますね。家族想いな所やまっすぐである所はとてもよく似ていると思います。そして人生のゴールというという意味で凄く似ていると思うところは、例えば情熱的な一面です。カルチも僕も一度ゴールを決めるとそれに向かってまっすぐ突き進みます。何か成し遂げたいという情熱的なとことは共通している部分だと思っています。

—共演したカタ・ドボーさんについてお聞きします。本作では強い女性ヴィキを演じていましたが彼女の印象はどうでしたか?
彼女とは16歳ぐらいからの知り合いで同じドラマスタジオに通ったりしていました。
彼女の事はよく知っているので、とてもやりやすかったです。また彼女にとってもそうだったと思います。二人とも楽に話すことが出来ていろんなキャラクターについても話ましたし、とても良い関係だったと思います。本当に二人とも昔の友達という感じでした。

—本作は女性監督とは思えないほど力強い作品でしたが、今までに女性監督の作品に出演したことはありますか?また、女性監督作品はならではな演出はありましたか?
女性監督の作品に出るのは初めてではなかったのですが、基本的に監督とは良い関係が築けていて僕の大好き監督なのですけれども、自分のことを理解してくれるのと同時に厳しいけれども、自分のやりたいようにやらせてくれるし、同じアイディアを共有したりすることで同じ立場に立つ事が出来ていたと思います。性別の違いはなく、その人に才能があるか無いかが重要だと思っています。

—デモのシーンなどはロケ撮影を行ったそうですか、やはり撮影自体は大規模なものだったのでしょうか?
群集のシーンは600人以上の人が集まってとてもエキサイティングなものでした。実際に自分がその場所にいること自体が楽しかったですし、クロスアップで寄ったとしても実際に演技する必要も無いくらいでした。自分たちでその時代を生きた彼らと同じような感覚を共有できたし、スタッフによってとても現実的なバックグラウンドを作り上げて貰いそれを凄く良くいかせたと思います。自分は56年には生まれていませんでしたが、その頃に生きた人たちがどんな気持ちだったかは割りと楽に想像することができました。

—映画に登場する子供から大人までが訴え続けた“自由”。自由がテーマとなった本作ですが、イヴァーンさんが考える本当の自由とは何だと思いますか?
この映画の撮影前、自分はあまり平和に対して考えていませんでした。ずっと平和で生きてきていたし、例えば戦争のニュースを見たとしても自分の家族は平気だからまあ良いかと感じていました。ただこの映画の撮影後からは、自分にとっても平和がどれだけ大切なものかと感じました。平和でいられる人たちは平和を通して、戦いに対して反戦や抑圧をし、自分の意見を述べていくことが大切だと思うのです。そして、色んな立場の人たちを理解して受け入れていくことが大切なことだと思っています。

—今後の活動は?
今回来日して東京という町が好きになったので撮影がしたいです。そして日本を含めた世界中で活躍しインターナショナルにどんどん国境を越えていきたいと考えています。でも自分の故郷はハンガリーであって、ハンガリー人であることは忘れないと思います。

執筆者

大野恵理

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