ハムレットをモデルに全く新しい復讐劇がフォン・シャオガン監督の手によって生まれた。
それが6月2日公開の映画『女帝[エンペラー]』だ。

中国の華やかな宮廷を舞台に愛と憎しみが交錯する。
復讐を企む王妃を演じるのはアジアの宝石、チャン・ツィイー。
先帝を殺し王位についた新帝は『イノセントワールド—天下無賊—』等でフォン監督お気に入りの俳優グォ・ヨウが演じる。
皇太子役にはフォン監督が惚れこんだダニエル・ウー。

皇帝を殺された王妃は密かに想いを寄せていた皇太子を守るため、新帝との結婚を承諾する。
憎い男の前に抱かれながら王妃は新帝への復讐を誓う。新帝は皇太子暗殺をもくろみ、皇太子は仇討ちを決意する。

欲望、願望、希望、そして絶望。

それぞれが異なる悲哀をスクリーンに映し出す。中国全土で興行成績を次々と塗り替え、中国三大監督の一人でもあるフォン監督。

フォン監督が今まで撮り続けてきた喜劇とは対になる悲劇を描こうとしたその訳とは?




—たくさんの魅力がある映画『女帝[エンペラー]』ですが、主要人物を演じたチャン・ツィイーさん、グォ・ヨウさん、ダニエル・ウーさんの内面的な表現がすばらしかったです。

キャスティングするのにあたって彼らの力量をとても信頼していました。

チャン・ツィイーさんが演じた王妃の役は女性として野心を抱きながら、しかしまた一方では愛をずっと求め続けていた女性。この複雑な神秘的な女性、立体的な女性を見事に演じてくれました。

彼女はどちらかというとアクション女優だというところが世の中の批評としては多いです。
けれども彼女はそういうところを変えたいと思っていたと思います。
彼女は元々中国中央演劇学院出身で演技の基本を学び、しっかりとした基礎のある女優さんです。ですので、アクションより演技派を目指したいところがあったと思います。今作品ではアクションの部分はそんなにもありません。どちらかといえば演技の深い所の心理描写が求められているわけです。それに対して彼女は十分に応えてくれたと思いますね。非常に思い切りが良く、真剣に取り組む人ですばらしい演技を見せてくれました。 

グォ・ヨウさんは私の作品でいつもコメディの映画に出演してくれていました。中国では彼がスクリーンに出てきた瞬間に笑いが起こります。それぐらいコメディの役者として有名です。彼もチャン・ツィイーさんと同じように自分のイメージをがらりと変えたいと思っていました。それで今作品でリーという皇位を簒奪する役を演じてくれました。彼の演技は非常に正確で腹の座った落ち着いた演技でした。この作品で大黒柱のような重石になってくれましたね。

ダニエル・ウーさんのキャスティングですが、とにかくわたしは貴公子の雰囲気が出る人を求めていました。彼のように気品のある役者は居ません。私は彼の低い声が気に入りました。また、顔立ちが憂いを含んでいてしかも男っぽいところがあります。私のイメージにぴったりでした。彼は中国の新しい世代の俳優の中で一番底力があると思います。

—この作品はハムレットを主題にしていますね。今回なぜオリジナルな脚本ではなくてシェイクスピアの、しかもハムレットを選ばれたのでしょうか?

今作品の企画はプロデュースの会社が私のところへ持ち込んだ企画でした。
そのとき私はコメディを主体にして撮ってきてその方向性を変えたいと思っていたところでしたので、魅力的で興味を持ちましたね。
しかし持ち込まれた脚本を私は大幅に変えさせました。製作段階ではハムレットを忘れ新しい中国映画にしようと思ったからです。
撮影のときはハムレットを撮るのではなく、“中国版レディーハムレット”を撮るのだと言いましたね。すべての焦点をチャン・ツィーさんが演じる女帝にあてました。
これまで撮られてきた多くの中国の時代劇とはまったく異なる雰囲気で、ビジュアル的にも全く一線を画したものにしたいと考えていました。私なりの“中国版レディーハムレット”を撮りました。

—今作品は確かに復讐劇ではあるんですけれども、善と悪の境界線があいまいだったところが魅力的だったと思います。それは意識されましたか?

これまで私が取ってきたコメディの中でも悲しくて泣くシーンもあります。喜劇の中にも悲劇があり、逆に悲劇の中にも喜劇がある。それが人間の両面だと思います。善と悪もそこまではっきりしてはいないと考えています。この作品では善と悪のちょうど境界あたりを描きました。なぜならそれぞれの悪にも理由があるからです。

—今後どのような作品を撮っていきたいと思いますか?

私の玄関とも言うべき作品『イノセントワールド—天下無賊—』ではややロマンチックな方向へいったと思うんです。特に今作品ではそういう面が強調されていますね。
現在の最新作もそのような雰囲気を出していくと思います。

執筆者

Hiromi Kato

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