2人の映画監督がここにいる。そして2人は小説家としてベストセラーを多く生み出している。デビュー作にして竹内結子主演で映画化された衝撃作『イノセントワールド』、原案だけでなく脚本にも関わった『虹の女神』の“桜井亜美”と、『ZOO』『暗いところで待ち合わせ』『きみにしか聞こえない』の“安達寛高(乙一)”だ。
彼らが小説として作り上げてきた作品が多く映画となっていることからも、二人が自らの手で映像を使ってその世界観を表現しだしたのはすごく自然なことだ。
それぞれが「東京でひとりぼっちの少女」をテーマに<書き下ろし>た珠玉の物語たち。彼らが“映像”で語りはじめた、この「東京小説」が描くのはいったいどんな軌跡なのだろうか。








—桜井亜美監督の『人魚姫と王子』と、安達寛高監督の『立体東京 3D−TOKYO』を2本立てで贈る「東京小説〜乙桜学園祭〜」。どちらも「東京のひとりぼっちの女の子」が描かれていますが、これはお互いに作品を作る前からテーマを決めていたんですか?

桜井:いえ、作品は別々に作っていたんですけど、出来上がってみたら、思いがけず共通テーマがあって。2人とも、自分を照らしてくれる燈台を探しているどこか寂しげな女の子を描いていたんです。これって偶然なんですけど、何かシンクロするものがあったのかもしれませんね。

安達:僕は、もともと3Dが好きだったこともあって。身近にあるデジタルカメラやパソコンで作ることができることも魅力でした。最初は東京の風景を立体にした映像集にしようと思っていたんです。でも、いろんな場所に行くには旅行者が東京をさまよう設定にしよう、と次第に物語の軸ができていって…。滝本竜彦さんたちは飲み会でお願いしたら、出演していただけることになりました。

桜井:東京の街そのものが「生きてる」って鼓動を感じる時があります。街の空に流れる声を感じてしまうっていうか。東京って生き物で、その中にいる人がどう東京に気持ちを持っているかで、大分違う顔をみせる。よそよそしい雰囲気の街ではあるんだけど、いったん好きになって、夜の光のあったかさとか、色の光とかわかりだすと、急に綺麗に見えてきたり。そういうのが今回は表現できたかな、と思います。

—今年の2月に開催された「ゆうばり応援映画祭」でも上映し、お二人とも夕張を訪れて映画祭にも参加されましたね。この時がお客さんの目にふれる初めての上映だったとか。

桜井:そうです。『人魚姫と王子』『立体東京』上映のときには、立ち見までになりました。ゆうばり映画祭はとてもあったかい映画祭でした。夕張っていう街そのものが映画祭とともに歩んできているから、映画を見る目がともて真剣で、深いなって。だからお客さんに初めて見せた場所が夕張でよかったなと思います。あと、会場の喫茶店にあった手作りのお菓子。「みずえのマドレーヌ」とか、作った人の名前が入っていて、そういうの素敵ですよね。夕張みたいに手作りで映画のお祭りを作るっていうのは原点だなあって思って、身が引き締まりました。

安達:僕も、「みんな映画が好きなんだな」と思いました。夕張の喫茶店で、『バベル』はもう見たの?って話し掛けられたことがあって。勝手な想像かもしれないんですけど、東京では『バベル』や『ゴーストライダー』って20代とかが見るものかなあと。夕張のおじさんやおばさんが『バベル』や『ゴーストライダー』の話をしているのを見るのが僕は好きでしたね。」

—お互いの作品の感想を聞かせてください。
桜井:私はとても安達さんらしい作品だなあと思いました。空気感というか、時間の流れ方も、安達さんそのままというか。きっと計算して表現しているんだろうけど、計算していることが観ている側にわからないような…。絶妙なバランスですよね。

安達:僕は『立体東京』で画面の色彩にあまり重きを置いていなかったので、『人魚姫と王子』の画面いっぱいにあふれる色がとてもいいなと思いました。あと、プロのスタッフの方々と一緒に撮られているところも見習わないと、と思っています。自主映画だとスタッフが少ないほうが動きやすい…ということもあって。僕はその方が好きだったりするのですが、それだけでもいけないな、と思いました。

—作品を作る上で、一番気を配ったところは?
桜井:つぐみさん演じるナジュの心情の変化を表現するために、今回は色や絵に気を配りました。最初は尾道幸治さんという撮影の方と、ラストの鮮やかな色彩を強く訴えたいので、そのためにどうしようかって話をして。効果的にするために、最初は色を抑えめにして…とか。あんまりギラギラしてもダメだし、あんまり沈んでしまっても汚いし…。何度も調整してはやり直し、調整してはやり直し…の繰り返しでした。

安達:主人公と都会の風景との距離感を表現する、そういう意図も撮る前はやってみようと思っていたんですけど、実際にやると全滅状態で。都庁を背景にとったシーンとか、六本木ヒルズを舞台に撮ったものも実はあったんですけど。近くで撮ろうとするとフレームに入らなくて、なんとか入るように撮っても、今度はうまく立体映像として浮き上がらなくて…。 ビルがもっている美しさをもっとしっかり撮りたかったっていう気持ちはいまでもありますね。

桜井:謙虚ですね(笑)。並木や高層ビルとヒロインのうつっている映像、とてもきれいでした。

安達:ありがたいです。綺麗にうつっている部分を選んで、完成している感じです。実は大量な没カットがあるんです。

—公開中はイベント<乙桜学園祭>を毎日開催するとか。ということは、桜井さん、安達さんも毎日劇場に?
桜井:そうです。毎晩、私と安達さんが実行委員になって、ゲストも招いて、期間限定の学園祭という楽しいイベントをやっていきたいと思っています。つぐみさん、柏原くんをはじめキャストの方々や古屋兎丸さんも来てくれるので、トークイベントを開催してみたり…。

安達:『立体東京』に出演してくれた、滝本さんや佐藤友哉さんも来てくれます。

桜井:公式パンフレットも学園祭にちなんだものにしたいなと思って。みんなで手書きのイラストや漫画やメッセージを書いて。学園の校則は安達さんが考えて。校歌もあり、学園祭開催の言葉もあります。来た人が高校の学園祭に来たみたいに楽しめて、気軽に入っていけるような仕掛けを考えているので、きっと楽しんでもらえると思います!

執筆者

綿野かおり

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作品紹介「東京小説 人魚姫と王子様」
作品紹介「東京小説 立体東京 3D-TOKYO」
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