弱冠14歳ながらも大人びた風貌と演技力で映画界の期待を一身に集める成海璃子。今年は本作含めて映画主演作3本が続々と公開される注目の年である。共演は映画初出演となるAKB48の前田敦子。そして石原真理子、石原良純ら個性豊かなキャストが脇を固める。

 監督は名匠、市川準。少女を主人公にした物語に初挑戦するなど、監督のキャリアの中でも新境地を見せている。

 今回はその市川準監督にお話を伺うことにした。





この映画、今までの市川監督の作品に比べると…。

「違和感があった?」

実は少しばかり(笑)。違和感というよりは、市川監督がこういう映画を撮るんだ、という驚きという感じでしたが。

「少女ものということで、作ってる最中も非常に照れ臭かったんですよね。セリフひとつにしても、自分にとってはすごく恥ずかしかったのが正直なところですね」
 
そんな監督がこの映画を撮ろうと腹が決まったのはいつごろだったんですか?

「腹が決まったというか、孫が3歳なんだけど、この子が可愛くてね(笑)。この子を見ていると、これからもいじめの問題は解決されないだろうし、かなりひどい世の中を生きていくのかなと思ったらせつなくなってきたわけです。
 だから物心がついたときに、この子が元気になれるような映画を作りたいと思ったのが引き金でしたね」

お孫さんは女の子で?

「そう。だから余計そう思うんですよね。『今日嫌なことがあっても、明日はいいことがある』という前田(敦子)のセリフがありますよね。そんな陳腐といっていいような言葉が、孫に届いて、元気になったりするような映画を作りたいなと」

そういうことだったんですね。

「だからうちの孫だけでなく、これからの子供たちに届けばいいと思っていたんだけど、意外にも大人が気に入ってくれたんですよね。そういう意味では普遍的なものを作りたいと思っていたし、ツールは変わっても気持ちはそんなに変わるもんじゃないということが基本的に言いたかったわけだから」

携帯のメールが大きなモチーフになってますよね。

「泣いたり笑ったりするような絵文字もいっぱいあるけどね。でも主役ふたりのメールには絵文字を一切入れなかった。
 最終的に自分が分からないことは描きたくないんですよ。メールというよりは、お互い心の中のつぶやきとして考えたかったんで。自分が分かること以外は描くまいということも撮影の直前に腹をくくりましたね。無理をして今を切り取るとか、最先端の映画を作るなんてのは一番僕に似合わないところではあるから(笑)。
 そういうのは捨てないと出発できないですよね。でも設定が新しいからこそ、古びない普遍的な映画になるかどうかが勝負だと思ってましたね」

分からないことは描くまいとおっしゃってましたが、劇中の少女たちは自然で生き生きと描かれていました。そこらへんの秘訣は何なのでしょうか?

「今回、初めてハイビジョンで撮ったんですよ。フィルムだとロールチェンジをだいたい9分くらいで行わなきゃいけないので、そこで撮影が途切れてしまうんですけど、ハイビジョンだと、極端な話、いくらでも回していられる。何テイクでも流れを切らずに撮影が出来るわけです。
 長回しということは撮りっぱなしですからね。動作や仕草も、この子たちが自分で考えざるを得なかったというところはあるかもしれない。それが自然なところを捉えられた理由のひとつかもしれないですね」

マルチ画面など今までの市川作品にはない画面作りがありましたが、これはハイビジョンで撮影したことに関連するわけですか?

「あれは黒沢清監督の『ドッペルゲンガー』が面白かったというところがあるんですよ。技術としてはレトロというかローテクなものだとは思うんだけど。最先端なものじゃないからやりたくなったというか。最先端は自分が一番嫌ってるものだから(笑)。テクニックを押しつけているものでもないし、このごろはCMでもPVでもいろんなところで見るものだから。
 あれをフィルムでやったら、大変な費用がかかるけど、デジタルだと簡単にできる。らしくないかもしれないけど、そういうハイビジョンの利点を生かしてやってみたくなったんですよね」

メールのやりとりがテーマということで、その見せ方にも工夫が必要だったと思います。どのような点に気を付けたのでしょうか?

「すごい単純な決心ですけど、手に持った携帯のアップは一切撮らないということですね。そういうカットはひとつもないはずですし、液晶画面の拡大は映像的にもだらしない気がしますからね」

成海璃子さんはどうでしたか?

「初めて会ったときから、天才的に芝居がうまいと感じましたね。5歳の頃から子役としてやってきて、演技の引き出しがたくさんあって、むしろ器用すぎる。14歳でこんなに器用だと逆に危険なんじゃないかと思うくらい。この年代の子からそういう印象を受けたのは初めてのことだったんで驚きました。だから望遠レンズとかで、なるべく彼女がカメラを意識しないようにしたかった。でも、家でも学校でも演じて生きてきたせつなさというのは寿梨のことでもあるわけですから。ちょっと逆説的になるんだけど、子役として鍛えられたということが寿梨らしかったというね。 日南子は優等生的なヒロインで、前田の素朴さでよかったと思う。キビキビ演じる成海との対比が面白かったと今になって思いましたね」

市川監督というと長回しで対象をジーッと観察するというイメージがあります。そういう意味で、役者役者したタイプはあまり好みではないのかと思ったんですが。

「そう。前田のようなタイプを好んで起用していたね。でも寿梨という役には成海は合ってた気がします。
 ただ本当に正統派の美少女なので、クラスの中で埋没しがちな目立たない子という役がこの子に出来るのか心配だったんだけど、髪の重さとか、ちょっぴり猫背なところがあったんで、うまくいきましたね」

執筆者

壬生智裕

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