第16回PFFスカラシップ作品『14歳』。

かつての14歳と、今を生きている14歳。
誰もが生きたあの時代、あの感覚を引き起こす作品が誕生した。
廣末哲万と高橋泉による映像製作ユニット”群青いろ”が贈る、嘘のない痛み。
時に苦しく響く彼らの声は、きっとまっすぐあなたに届く。
『14歳』を目の前にして、何を想いますか…?





——なぜ14歳なんですか?
廣末哲万(以下:廣末)「僕自身、この時期にはいろいろあったんですよ。実感を求めることで内面的にはいろんな感情が燃え上がるけど、未熟な部分を持っているという不安定さがある時期ですよね。とても魅力的だと思いました。」

——14歳という年齢を取り上げている作品は多いですよね。何かご覧になりましたか?
高橋泉(以下:高橋)「印象が強いのは岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』ですね。」

——この作品では外に向って暴力で吐き出す子供は多いのに、自分に凶器を向ける子はいませんでした。それはなぜですか?
高橋:「視覚的には暴力として現われているかもしれませんが、結局はコミュニケーションの取り方がわからないということなんです。この映画ではその方法を模索している人間しか描いてない。もしもコミュニケーションを遮断してしまっていたなら、自分の中に溜め込んじゃって終わってしまう子もいるのかもしれないですね。僕達が作る作品ではコミュニケーションをすごく大事にしているんです。」

——人間はコミュニケーションを取ろうとするところが魅力的ですか?
廣末:「コミュニケーションがあるからこそ、いろんな感覚を刺激できるんですよね。」

——映画を14歳の子達からはどんな反応が返ってくると思いますか?
廣末:「う〜ん・・・『まだ生ぬるい、こんなもんじゃない』って言われてしまうかもしれませんね。実際、もっと厳しい世界を生きてるんだと思いますよ。」

——(廣末さんが演じる)杉野の測量士という仕事はどういうところから生まれたんですか?
高橋:「僕が脚本を書く時は、必ず個人でできる職業を選ぶんですよ。それは孤立している風景を撮りたいからなんです。この作品では、14歳という場所からどんどん離れていっているのかを、距離と時間の関係で表してみようと思ったんです。」

——高橋さんはこの映画を撮る時に14歳という目線に戻るのが難しかったそうですね。
高橋:「難しいと言うより、今のリアルな14歳を描こうとするのは決定的に違うと思ったんです。僕はもう14歳ではないから。あの年頃の独特な熱っていうのは想像の範疇では書けません。だから時代背景などはなしにして、真っさらな感覚だけで書いていきました。デフォルメした部分ももちろんありますが、過去の体験なんかも入れました。」

——昔を思い出すというのは難しくないですか?もどかしかったりしました?
高橋:「結構覚えているもんですよ。相手によって見せる面を変えるなんて器用なことが出来ないから、自分の一面だけでコミュニケーションを取ろうとするところとか。そういう中学校の時の記憶は残ってますね。こういう思い出を不完全燃焼で体の中に溜め込んでいれば、もどかしかったかもしれません。でも僕達はそれを表現として発散しようとしているので、覚えていることが良かったと思います。」

——14歳の頃を忘れてしまった大人を演じてみてどうでしたか?演じながら監督もこなすというのは大変ではありませんでしたか?
廣末:「でも僕は今でもあの頃のことを寝る前なんかに思い出して、熱くなったりもします。演じる上ではまた違うところからアプローチしているんですけどね。僕の場合は監督と俳優を両方やるというのは楽です。イメージしたものをそのまま演れるので。そういうキャクターが一人くらいいれば撮影も楽になりますね。」

——作品中では淡々と話す役が多いですね。ああいう役柄が多いのはわざとなんですか?
廣末:「あんまり感情的な人間ではないですね。大人って自分を作って生きているというイメージがあるんですよ。いろんなものを経て、一番過ごしやすい形で生きているわけですから。杉野にとっては、一番強烈に自分の中に残っている14歳という時期の人間と出会うことで着飾っていたものがはがれていくんです。そして生身でぶつかるようになっていく。」

——この作品を作る上でいろんな情報をリサーチしたりはしていないんですか?
高橋:「香川さんが演じた教師のセリフについては、教師が実際どんな言葉をしゃべっているのかリサーチしました。それ以外はしてないですね。自分たちが覚えていることで作っていったので。でもいつもは脚本の第一項で映画を撮ってしまっていたんですが、今回は練り込みました。何を描きたいのかをよく話し合ったんです。」

——廣末さんと高橋さんのユニットでは片方が監督、脚本という形でこれからも作品を作られるんですか?
廣末:「『鼻唄泥棒』までは断片的なイメージを高橋さんに渡して、脚本にまとめてもらうっていう感じだったんですが、本作からは脚本にも食い込むようになりました。だから完全な分担作業ではないですね。これからはもっとお互いが入り乱れて作っていくのだと思います。」

——14歳に近い子供達が映画の中で演じているわけですが、実際に14歳と触れ合ってみてどうでしたか?
廣末:「彼らとは、たわいのない話をするぐらいでした。でも僕らが描きたいと思っているものを確実に持っていた子達を選びました。オーディションで500人の中から選んだんです。」




——(並木愛枝さんが演じる教師)深津の紙を燃やすという癖が印象的でした。
高橋:「火を燃やしてスっとするということに共感したことがあったんです。ああ、こういうことあるよなって。いつかどこかで使いたいなと思ってたんです。」

——題材はどうやって決めるんですか?
高橋:「感覚的には14歳をいつか取り上げたいなと思ってましたね。例えば今は滑稽さとか、人間が真剣すぎて逆に笑っちゃうというようなものはやってますね。笑わせようとはしてないんですけど、日常でもあるようなものをやってます。知り合いから聞いたものを取り入れたりもしていますね。」

——深津は救われないように見えました。
高橋:「彼女自身、器用じゃないから救われないですよね。実は脚本段階では若干救われるような設定だったんですが、廣末君の意見でラストシーンを少し短くしたんです。脚本段階では紙の上のことなので嘘をついちゃうことがあるんです。実際にやってみたら、やっぱりラストで救われてしまうと嘘になってしまうことに気付きました。救われて欲しい気持ちはありましたけど。」

——セリフの一つ一つがとても痛かったです。どうやって生まれたものなんですか?
高橋:「最初からキャラクター設定はしないんです。ぼんやりしたイメージに話させていくうちに動いていくんですね。登場人物がしゃべっちゃったからセリフがある、みたいな感じなんです。」

——湧き上がるものをお二人で作品にしているということですが、それを映像という作品にしたキッカケなどはありますか?
廣末:「お互い映像に興味があったんだと思います。タイミングですね。たまたま高橋さんと知り合って、カメラを持っていて。高橋さんには小説を書く才能があって、僕は演じることができた。それがキッカケですね。それでやってみたらしっくりきたんです。この映画というものを最初に選んで、とてもラッキーだと思います。」

——普段から自分の引き出しを増やすためにしていることってありますか?
高橋:「日常を生きていて、人への小さなつまずきが多いんですね。そんな時、公園に行って座ってたりするんです。そういうのが引き出しになっていってるんじゃないかと思いますね。自分で感じたんだから嘘じゃないだろうって思うんです。」

——今後の活動については?
高橋:「作ることに関しては邪魔されたくないですね。廣末くんがよく言ってるんですが、『作り続けていれば誰か振り向くんじゃないか』って思うんです。」

——これから映画を作る方や『14歳』をご覧になる方にメッセージをお願いします。
廣末:「いろんな人が寄ってくると思いますが(笑)、やりたいことがきちんと自分の中にあれば迷うことなく突き進んでいってくれれば、いい作品が作れると思います。」
高橋:「同意(笑)。作って、としか言いようがないですね。作り続けないと何にもならない。どこかで受賞して動きを止めてしまう人が多いのが現状ですが、声をかけてもらうのを待っていてもしょうがないです。とにかく作り続けて、人を振り向かせる作品を作って欲しいですね。」

執筆者

Tomoko Umemoto

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