西暦2057年、太陽の死滅により滅亡の危機にさらされた地球を救う為に8人の乗組員が太陽へと旅立った。太陽に核装置を投下することで再活性化を図る”イカロス計画”を遂行するのだ。
しかし思わぬ事態が発生し、物語は大きく傾いていく。
様々な思いを抱えて向かった宇宙で繰り広げられる予想もしなかった衝撃の数々。
果して彼らの前に立ちはだかるものとは…!?

クルーをまとめるカネダ船長を演じたのは、日本が誇る名優・真田広之。
本作ではキリアン・マーフィを始めとする様々な国の俳優と共演し、その中でも強い存在感を放った。
真田広之の揺ぎ無い力はどこからくるのか。
いま彼が立っている場所から何が見えるのか。
本作について、そしてご自身について伺ってみました。

スタイリスト:勝見宜人
ヘアメイク:高村義彦


——怖いなと思う映画でもありましたが、演じる上で意識されました?
「脚本を読んだ時は、どういう映像になるんだろうっていう未知数の部分が多かったです。僕が出演している部分はわりと普通のドラマでしたが、その後ダニー・ボイル色炸裂なんですよね(笑)。その部分は撮影も見せてもらえなかったので、完成した作品を観るのが楽しみでした。」

——実際にご覧になってどうでした?
「太陽に向かって旅をしながら多国籍の人々が一つになって目的を達成しようとしますよね。そこに立ちはだかるのがエイリアンなどではなく、人間であるというところにテーマを感じました。監督らしく、ただのホラーやサスペンスに止まらないものなんですよね。今まで見たいろんな宇宙モノのテーマが取り込まれつつ、ちゃんと個性がある作品というのが第一印象でした。」

——地球死滅の危機、ということで作品を観ているといろんなことを考えさせられますね。
「特に今の地球の環境問題を意識してしまいますよね。リハーサル中にいろいろな講義を受けたんですが、太陽が死滅したら地球はどうなるのかという授業もあったんですよ。そうなると全ての生命体に未来はないわけですから。近未来に起こりえる恐怖ですね。でも例え太陽が変わりなく光を注いでくれたとしても、このまま地球の環境が変わってしまえば滅びてしまうこともあるんですよね。エンディングでほっとする反面、危機感を持たなければならないと思いました。映画を観た後、何気ない太陽の暖かさだとか、当たり前のようにある自然の恵みは自分たちで守らなきゃいけないという感覚を皆さんに持って帰って欲しいですね。」

——地球が終わる時はどんな感じだと思いますか?
「今後改善される部分もあると思いますが、ここ100年の地球の変化は激しいですよね。そしてこの映画で言ってるように、人類最後の敵は人間なんだという怖さも感じています。核問題も含め、ボタン1つで簡単に地球は消滅してしまう時代ですから。もしかしたら人の手によって・・・ということもあるんじゃないかという不安がありますね。」

——本作に出演されたことによって変わられたところはありますか?
「太陽のありがたさをしみじみと感じます。初日の出をお参りしたり、願いを掛けてみたり・・・ということは日常的にしていましたが、その想いが深まりましたね。あとは当たり前に存在することのありがたさとか。それに作品の中でクルーが宇宙船に乗って飛び立った、というのは僕たちが共同生活を経て作品を作ったというのと精神的に重なりますし、次元は違っても同じ目的を持って、人生のある時間を共に捧げているわけですから。役者はどこかで何かが起こったとしても本望だと思ってやってるわけで。どこかが大きく変わった、というよりはそういったいろんな想いが強まりました。」

——カネダ船長の地球上での設定はあったんでしょうか?
「彼の経歴を1ページくらいでまとめたものを脚本家のアレックスに頂きました。それに基づいて監督や僕の意見を入れて、宇宙に行くまでに至る彼の歴史を作っていったんです。例えば、彼はクルーの中で一番経験豊富な宇宙飛行士だから何度も危険な目にあったことがある。このミッションの危険性を重々承知していて、地球に帰れないことも覚悟している。そして家族はいない。実は仏教徒という設定で数珠をしていたんですよ。カットされちゃったんですが、両親の遺影を飾った仏壇を祭っているシーンがありました。」



——合宿中いろんな映画を見せられたそうですが、監督からの演出はありましたか?
「たくさんの映画を観ましたが、どこを見ろという支持はなかったんですよ。それぞれ自分で感じ取らなくてはならなかったんです。知っておくべきことや体験しておくべきことを合宿中に詰め込んでもらって、同時に役柄のポジションも固めていったんですが、監督はそれを客観的に見ていたんですよ。状況に追い込むことが監督の演出の第一歩だったんじゃないかと思います。そしてそこで起こった化学反応をおもしろがって摘み取ってくれるんですよ。監督は綿密な仕掛け人でありながら、現場における最初の無邪気な観客だったんですね。撮影が始まってからはノーリハーサルでしたよ。”合宿中に出来上がったキャラクターとして生活しているところを撮るから”と言われ、そこで監督は長回しでアングルやレンズを変えたりしながら切り取っていく。こっちはどこからどう撮られても、その人間を生きていればよかったんです。舞台のワークショップのようなリハーサルと、ドキュメンタリーのような現場という両極端な演出で、細かい支持はありませんでした。」

——観た映画の中で印象に残っている作品はありますか?
「宇宙モノは4〜5本観ましたし、撮影当時ロンドンで上映されていた3Dの映画を皆で観に行ったりもしました。宇宙とは全く関係ない作品も観たんですよ。あるミッションを与えられて、ニトロを積んだトラックを目的地まで運ぶというものだったんですが、すごく地味な作品で(笑)。何でこんなもの見せるんだろうって思いましたが、困難を乗り越えてミッションを遂行する男のあり方や緊張感の出し方など、とても参考になりました。大仕掛けにしても迫力が出ないものもあるのに、あんなに単純で何の仕掛けも無い話でも手に汗握って感動できるんだ、って思いましたね。いい見本でした。」

——太陽の光を目の前にして”そこから何が見える?”としきりに問われるシーンがありましたが、あの瞬間、カネダ船長には何が見えたんだと思いますか?
「彼は太陽に対しての思い入れが人一倍強かったんじゃないかと思います。それは宗教における神を越えた万物創生の存在であり、何かを超越してしまった全ての根源である。まるでそこに還っていくかのようなイメージがあります。神に近づくという感覚や、誰も体験したことのないものに触れる瞬間ですからね。恐怖と神聖な気持ちが綯い交ぜになっていたんじゃないでしょうか。もしかしたら燃えてしまう瞬間にはエクスタシーに近いものがあったのかもしれませんね。」

——国際的に活躍されている真田さんから、今の映画界に”何が見えますか?”
「本当に国境がなくなってきましたね。今回のキャストやスタッフにも象徴されていますよね。これからはもっと自由に行き来できる時代に突入すると思います。そういう中で与えられる経験から生まれてくるものは貴重な財産です。それはどんどん増えていくでしょうし、そこに関われる自分でありたいですね。特にアジアの映画人にとっては大きなチャンスですね。アジアの精神性やマーケットを含め、ヨーロッパの人々が門を開いてきてくれているのを肌で感じています。ここが頑張りどころですね!僕達が『日本人と仕事して良かった』という実績を残して、後に続く人達が仕事をしやすい場、行き来しやすい時代を作っていきたいです。」

——真田さんにとって、この作品はどのような作品になりましたか?
「映画に国境なし、と願っていたことがこの映画を通して実感として得られたんですよ。そういう意味では今後の自信にもなりますね。」

——今興味があることって何ですか?
「去年からボディボードを始めました。この作品に参加した後だからなのか、自然に親しみを感じたいという思いが強くなったみたいです。」

——カネダ船長の下の名前はアキラですよね。ダニー・ボイル監督は大友監督の作品のファンだそうですが、関係あるんでしょうか?
「最初の設定では船長はアメリカ人だったんですが、日本人に書き換えられた時点で”カナダ船長”になってたんですよ(笑)。そこから”カネダ”に変えたのは、実は僕のアイデアだったんです。カナダ船長、なんて日本人が聞いた瞬間に覚めちゃいますよね。その辺の気配りも僕の仕事だと思ってたので、提案したんです。」

——今後の展望は?
「今までどおり、未知数のところに身を投じていって発見したり吸収したりしていきたいと思っています。その歓びが大きいんですよ。今のうちに恥をかくことを恐れずに、いろんなところに飛び込んでいきたいんです。日本でもアメリカでもヨーロッパでも。得たものを作品に活かしていきたいですね。触覚に触れてタイミングが合ったものにはどんどん飛び込んでみたいと思っています。自分のスタンスをキープして、インディペンデントから大作まで、役の大小というよりは心がなびくものがあればどんな役でも。むしろ演じたことがない役に挑みたいですね。」

執筆者

umemoto

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