日本映画史上に残る大ヒットシリーズ『踊る大捜査線』を手がけた本広監督が本当に描きたかったのは”うどん”だった……。

一杯100円足らずのうどんがつむぎ出す人と人との絆。そしてうどんブームの光と影を描いたユースケ・サンタマリア主演作『UDON』がDVDで発売されることになった。共演者も小西真奈美、トータス松本、鈴木京香と豪華な面々が集まっている。

今回は本広監督に、映画のこと、そしてDVDの特典についてお話を伺った。









この映画の企画はどのように進められたのでしょうか?

「今までは職人監督として、提案されたものをいかに面白おかしくするのかということに力を入れてきたわけなんですけど、『踊る大捜査線THE MOVIE』がヒットして、そろそろ自分のやりたいものを出してみたくなったんですよ。
 そんなとき、10年ぶりくらいに帰った故郷では、さぬきうどんブームが押し寄せていて。ちょうど2003年頃でしたけど。しかも子供の頃に食べていたものよりもずっと美味しくなっているんですよね。やたらと県外からも車で来ているようで。
 最初は不思議に思っていたんですけど、だんだん自分たちも月に一回行っては、食べて、取材して、とやってくうちに、これを映画にしてみたらどうだろうと思うようになっていったんですよね。

 当初は香川県にお金を出していただいて、香川県を広めるための映画というので考えていたんですよ。香川県のタレントというのも何人もいますから、その人たちにも声をかけて。自主制作っぽい感じで始めようと思っていました。
 それが企画をすすめていくうちにフジテレビの方々や、東宝の方々にも興味をもっていただくようになって、より具体化してきたんです。やっていくうちにどんどん巨大になっていきまして。そうなると全国の人に分かりやすいようにしなければいけない。だから少しマイルドにしてるんですよ。でも、DVDでは、そのマイルドでなかった部分をチョイスしていこうと考えていますね」

ということは、DVDではディレクターズカットになるわけですか?

「そうです。プレミアムボックスのディスク3に収録しているバージョンというのが、3時間以上に及ぶ、壮大なるバージョンなんですよ。それはもう、映画というよりもテレビのバラエティ番組を見ているような感じになりますよ(笑)。撮影した素材をまるごと全部収録してます。だから、パソコンで言うところのソースを公開している感じなんですよね」

やはりDVDは視野にいれて。

「もちろん劇場でもお客さんはたくさん見てくださるんですけど、DVDでもさらに見たいというコアなファンというのをボクはすごく大事にしてて。そういった人たちに向けていますよね。
 やっぱりボクも好きな映画のことはもっと知りたいんですよ。文献やサントラなんかもそうですし。DVDを買うと特典映像が見れるというのも嬉しいですよね」

この映画でも関連商品が多かったですよね。

「かつて日本映画はグッズを出したらアウトだと言われていたんですよ。ところがその流れを変えたのが『踊る大捜査線THE MOVIE』だったんです。皆さんにそれがビジネスになると思っていただいているみたいで。劇場パンフレットも力をいれて作るようになったし。
 だから実際に邦画の興収が洋画の興収を抜きましたからね。そういう時代なので、映画の撮影時にDVDのことを考えて、DVDチームを作るんですよ。彼らの中で才能のある子たちは、後に映画本編のチームに入るわけですよ」

メイキングって登流門的なところがありますもんね。

「そうですね。センスのいい子にはどんどん撮らせてあげようとしてますね」

本広監督が手がけた舞台『Fabrica[10.0.1]』でもそうでしたけど、若手を引っ張りあげようという意識があるんですか?

「ありますあります! すごくありますね、それ。

 運がある子と才能がある子って別だと思うんですよ。運がいい子ってのは本当に強い星を持っていて、いい事務所に入ったり、いいマネージャーがついたりするんですよね。
 逆に、本当に実力がある子って、意外と事務所が決まってなかったりとか、不運だったり。人柄がいいのに、逆に良すぎちゃっていい人に出会えないというね。だから僕はそういう子たちをピックアップして、スタッフ編成をしてますね。それは舞台でもそうです」

『UDON』にも、監督の舞台に出ていた人たちが出てましたよね。

「そうですね。小劇場の世界ではスターなんですけど、映画業界に来ると新人になってしまうような方々がとても多いので、そういう人たちを連れてきて。
 そういう人たちがいると、いいものを作ろうと一生懸命になってくれるんで、すごくチームワークが良くなるんですよね。ずっと香川県に行って、映画を作るわけじゃないですか。そこでいろいろな亀裂が起きたとしても、それを修復できる人たちですよね。そういう人をいつも選んでますね」

内容もひとつのジャンルにはくくれない、ごった煮のような面白い作りになっていました。

「ボクはもともとテレビのバラエティを手がけてきたディレクターだったんです。たまたま映画が撮れるという流れにのったわけなんですけど、本来好きなのはバラエティなんですよ。切り口が自由ですからね。
 バラエティの構成って面白いですよ。テレビの面白さというのは、古いネタをいかに新しく見せるかという繰り返しなんですよ。新しいタレントと、昔取材したラーメン屋さんを新しく組み合わせて、こういうパッケージで、といった作りにして。これはもうアレンジャーの仕事ですよね。
 それを映画でもやってみようとしたんですよ。今までにありえないような作りの、新しいアプローチの映画にしようと。でも基本は映画なんで、映画のスタッフさんで付いて来れない人は多発しましたね。
 でも、そういう時にはひとこと。『うどんでも食いに行きますか』、と。うどんを食べさせておけば文句は出ない(笑)」

コミュニケーションの基本はうどんだったわけなんですね。

「困ったり、悩んだりした時に 『明日はうどん巡礼に行きますか』と言うとね、みんなニコニコ顔で『監督を信じて付いていきます』となるわけですよ(笑)」

100円くらいでコミュニケーションがとれるなら、安いもんですね。

「そう、手のひらで泳がせるという(笑)。それこそ香川で撮影することのメリットですよね。他にもたとえば、あるロケ地が借りられないとしますよね。そこで『代わりに〇〇というバーがあるから行ってごらん』という指示が出来るわけですよ。
 すごくやりやすかったですね。故郷で映画を撮るというのは、こういうことなんだと思いました。県知事まで協力していただいて……。知事に『どうしてもあそこのうどん屋さんを使いたいんです。特殊な許可をください』と言うと、笑いながらも一生懸命やってくださる。香川県出身のボクだからできた映画だと思います! そういうところも是非とも楽しんで欲しいですね」

#今回は香川県のフィルムコミッションが関わっていたわけですか?

「香川のフィルムコミッションはすごく優秀で、『世界の中心で、愛を叫ぶ』『機関車先生』『ロード88』など、多くの映画が香川県で撮影されているんですよ。『春の雪』もそうですね。あと『サマータイムマシン・ブルース』も全部香川で撮影しましたね。
 行定さんもそうですけど、僕らの世代には何かいいんですよ。昔の風景があちこちに残ってて、海があって、山があって、のどかな感じがあって。そういうのを撮りたい時にはあっちに行くといいですね」

映画ファンは香川に注目というわけですね。

「最近、香川県は映画づいているんで、『さぬき映画祭』というのをやったんですよ。さぬき出身の映画監督って何人かいて、その人たちと新しい才能を探そうということで」

ちなみにさぬき出身の監督とは?

「ボクと同世代の監督で『釣りバカ日誌』の朝原(雄三)監督ですね。あとは大林宣彦監督も意外に深いかかわりがあって。『青春デンデケデケデケ』も香川で撮影した映画なので、実行委員長的な存在で協力してくださってますね。
 あとは、『極道の妻たち』たちを撮った中島貞夫監督もすごく熱を入れてくださって。そういうすごい監督がたくさん集まってます。
 そこでは、若い監督や学生たちが監督たちにプレゼンをするコーナーがあるんですよ。県からいくらいくら出すんで、来年の映画祭のためにそれで映画を撮って欲しいということで、その権利を得るために。
 それはシナリオではなく、映像のコンクールなんで、プレゼン能力もいるんですよ。シナリオがあって、企画書があって、それで本人が来て、中島監督たちの前でプレゼンをするわけですよ。めちゃめちゃ緊張するのに、それでも5人のメンバーが選ばれて。
 そうやってどんどん新しい才能を育てていますよね。だから映画が地方に行くということは、映画界に何かしらの一石を投じているわけなんですよ。そこでひとり選んだやつが今年のROBOT(本広監督の所属する映像会社)に就職することになったんです。お前何やってるんだよ、とか言ってたんですけど(笑)」

いい循環ですね。

「『サマータイムマシン・ブルース』の時も、『UDON』の時も、ボランティアスタッフを募集したんですけど、その中から大学生や女優を目指している子とかが、東京に出てきたりしてますからね。これをきっかけに映像の世界に飛びこんできり。
 オフィシャルホームページも香川県の子が、ウェブ上でメイキングを公開したんですけど、面白かったですね。香川県が面白いことをやっているというのを他府県の人たちが聞きつけて、『うちの若い子を面倒見てくれませんか』といって、北海道から若い男の子がやってきたりとか。
 そうやって、循環していくのがいいですね。僕たちも刺激になるんですよ。20歳くらいの子たちって、みんな自分のデモを持っているんですよ。監督、見てくださいとか言って」

それは偉いですね。

「それを見ると面白いんですよ。なんじゃこいつら、と。ヤバいと思いますね。俺もあと5年の命だ、と(笑)。すごい才能なんですよ。30代の子はそうでもないんですよ。ハードがそんなに進化してないから、ビデオ世代なんだけど、ちょっとぬるいところがある。
 その次のカメラを持った世代ってアウトですよ。もうかなわない。うち(ROBOT)の『タイヨウのうた』を撮った小泉(徳宏)という監督。彼は25歳なんですけど、あいつはもうヤバいです(笑)。お前なんなんだ、この演出!という。僕にはありえない感覚なんですよ。
 だから僕がやれることを今のうちにどんどんやっておかないと。『UDON』ってのは、本当にあせって作りましたね」

執筆者

壬生智裕

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