薄暗い森にある屋敷にたどり着いたセバスチャン。
”13”の番号を渡され、集団ロシアン・ルーレットに参加させられることに。
負ければ死、勝てば賞金85万ユーロが手に入る。
もうこのゲームを逃れることはできない。
果たして13という数字はセバスチャンに何をもたらすのだろうか・・・?

今、世界中の映画ファンから熱烈な支持を受けている映画『13/ザメッティ』。
白と黒で表現された、繊細かつ大胆な世界が観る者を魅了してやまない。
恐ろしいほどに美しさを感じさせる本作はまさに芸術作品!
隅々に感じられるこだわりがその完成度の高さを物語っている。
ハリウッドリメイクをも自ら手がけるというゲラ・バブルアニ監督にお話を伺いました。



——監督の1番お気に入りのシーンは?
「ピアノのシーンが好きですね。セバスチャンが逃げようとするシーンで、鏡の中に部屋が映るんです。でもこの作品の構図にはすごく力を入れていて、撮影に1日かかったシーンもあるぐらいなんですよ。ですから、他にも気に入ってるカットがたくさんあるんです。」

——モノトーンの映画ですが、カラーという選択肢は監督の中にはなかったのですか?
「今度ハリウッドでリメイクする際にはカラー作品を作ろうと思ってます。本作に関しては最初から白黒と決めていました。このストーリーを考え始めた時から自分の中にあったイメージはすでに白黒だったんです。その後ロケハンをして、いろんな場所の写真を撮ったんですが、それも全部白黒で撮りました。」

——ハリウッドのリメイクではカラーで撮るということですが、気をつけたいことは?
「正直今は具体的には思い描いていません。今回白黒でとても上手く表現できたものを、色を使ってどういうふうに雰囲気を出していくかというのは、僕にとってまさにチャレンジなんです。恐らく現場でいろいろ考えて、いろんなアイデアを詰め込んで作っていくんだと思います。」

——監督はご一家でフランスに移住されたんですよね。グルジア人にとってフランスとはどういった国なんでしょうか?
「実は20世紀初頭から、グルジア人はフランス文化に大きな関心を持っていて、多くの知識人がフランス語を学ぶためにフランスに渡ったそうです。グルジアの文化はフランス文化にものすごく影響を受けていると思います。」

——セバスチャンの家庭は貧しい設定ですよね。彼のように危険を冒してまでお金を得るということはありえるのでしょうか?
「恐らく貧しい国の人達が異国の地で仕事を見つけることは、誰にとっても難しいことです。ゼロから始めなければならないことですから。この設定はストーリーのとても大切な部分なんです。なぜ重要なのかと言うと、家族を支えるためにお金が緊急に必要なんだという切迫感を出せたからなんです。リスクがあってもモチベーションがどれだけ高いかを見せるために、貧しいという設定が必要だったんです。」

——この作品は日本で公開されることで、映画を作る人々にも刺激になると思います。監督はセリフに頼らず映像で物語られていますが、何かアドバイスを頂けますか?
「アドバイスは苦手なんですよ(笑)。映画へのアプローチには2種類あると思います。1つはテクニック重視で、テクニックに頼って作ればいいという方法。もう1つはテクニック+アルファ、つまり自分が考えている感受性というものを表現として映像に表すにはどうすればいいのかを求める作り方です。ですからテクニックを単なる道具として考えるのではなく、いかに自分が表現したいものに技術を上手く引き寄せるのかを考えればいいのだと思います。」

——セバスチャンは家族を守るためにロシアンルーレットに参加しますよね。そして彼の目の前で人がどんどん死んでいく・・・。人の不幸の上に幸せは成り立つと思いますか?
「私がロシアンルーレットのシーンでメタファーとして盛り込みたかったのは、世界では”殺さないまでも他者を排除することによって自分が競争社会の中でのし上がっていける”、”常に他人より自分の方が上手くやることが生きていくための得策なんだ”、という人生の構図が蔓延していますよね。それについて考えを述べているわけではありませんが、それが現実なんだということですね。」

——監督の幼少期に起こった内戦の原体験的なものが作品に影響されていますか?
「どの部分とは言えませんが、生きてきた過去というのは今の自分の構成要素ですよね。映画の中に影響が出ているとすれば、暴力に関するストレートな関係だと思います。それは自分がオブラートに包まれていない暴力を見てきたからだと思いますし、若い時に感じた苦痛だとか辛いことの体験がああいうシーンに間接的に、あるいは直接的に関係しているかなとも思います。」



——セバスチャン役にはオーディションをした上で弟さんを選ばれたそうですが、彼を選ばれた決め手は?
「1番の決め手はやはり演技力ですね。彼にとっては最初の映画主演作ですから。もちろん彼はルックス的にもセバスチャンを演じるに相応しい要素を持っていました。でもそれだけではなくて、よい役者だと見極める必要があったんです。キャスティングの時に発見したことなんですが、彼にはとても穏やかなところがありながら、必要な時にはとても暴力的になれるんですよ。そのような2つの相反する面を共存させながら、それを上手く表現できる。ちゃんと暴力性とイノセンスがバランスを保っていて、彼にはそれを見事に表現できる力があったんです。」

——後半では自分に起きている状況に陶酔しているようにも見えますね。
「確かに一晩でセバスチャンは変わっていくんです。映画ではイノセンスだったものが、それを失っていく過程というものを描いているんですが、そこでいわゆる自己陶酔的なものを感じていたかというと違うのかもしれません。ああいうゲームの中で自分が生きて逃げる唯一の方法が勝つことだったから。生き残る為にとても危険なゲームにのめり込んでいく姿なのではないでしょうか。」

——ギオルギに作品のイメージを伝えるために使った映画があれば教えてください。
「フィーリングで仕事をするので、そのようなことは必要ありませんでした。それは自分達が何を必要としているのかを感じてもらう問題で、僕が何かを提示してそれを模倣してもらうということは望んでなかったんだ。」

——撮影は何日ぐらいだったんでしょうか。
「撮影は6ヶ月でした。ファインダーを覗かないと、どういう構図にしたいのかわからないので前もって絵コンテは書けなかったんですよ。実際に見て決める現場主義なんです。」

——海辺のシーンがとても不思議でした。まさにシュールレアリスムという感じでしたが、どういう風に考えてあのシーンを撮られたんですか?
「確かにあの最初のシークエンスではミステリアスな感じを出したかったんです。あの家は海岸沿いにある中でも唯一20世紀に建てられたもので、まったくリフォームされていない家だったんですね。趣としては幽霊屋敷のような感じもある家で、そんな場所に住んでいる人達も不思議ですよね。撮影は冬だったんですが、遠くの方に馬がいて、それも御伽噺のような不思議な雰囲気を出しています。そしてだんだん悪夢に近づいていく・・・。急展開を見せる為に、少し御伽噺的なものにこだわったんです。こういった方法は古典的な手法というよりは、意外性のある手法だったんですよ。」

——フィルム全体の独特の緊張感を作るためにどういうことをされましたか?
「いろんな要素が融合してあの緊迫感を生み出しているんですよ。役者の演技も、編集の問題も、演出の問題もあります。ただ大事なことは、どの瞬間にカメラをどこに置くかということでした。例えば進行役の人間の震える足を映す方が、ピストルを映すよりももっと観客にとってはストレスフルなことであるかもしれない。あるいはギャンブラーのコートの肩越しに少し見える顔を映すことで緊迫感を与えることができるかもしれない。技術だけではなく、自分が感じることをどう表現すればいいのかを考えた時、どの瞬間にどこに自分の関心を向けていくか感じ取ることを積み重ねて、少しずつテンションを高めていく。そういう作り方が大切なんだと思います。」

——13はよく避けられる数字ですよね。敢えて使われたのは?
「13は単に不幸をもたらすだけの数字ではないんです。確かにアメリカではビルに13階というフロアはないですし、飛行機に13番という席はない。フランスでもテーブルで会食する時に13人というのは絶対にしません。でもフランスのロトでは13というのは幸福をもたらす数字だという考え方もあるんですよ。」

——次回作は?
「リメイクは今年クランクインします。リメイクとは言っても、やはり今回の作品とは違うところをたくさん入れ込んでいくつもりです。その後に予定しているのは書下ろしのスリラーです。日常の現実に根ざした作品になると思います。4分の3ぐらいが夜のシーンで、白黒ではなくカラーで撮ろうと思ってます。」

執筆者

umemoto

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