第二次大戦末期、ドイツ東部の都市ドレスデンという美しい街があった。敵国同士の男女がドレスデンで恋に落ちるが、その街は連合軍によって爆撃にあい無残な廃墟となる。
『ドレスデン、運命の日』は映画史上初ドレスデン爆撃を本格的に描いた作品だ。この映画で注目すべきはそのリアリズムで、ドイツとイギリス双方の視点を盛り込んだストーリーで描かれ、空爆のシーンには記録映像やCG技術も使用されている。

この複雑な題材を誠実に映画化したのは『トンネル』のローランド・ズゾ・リヒター監督だ。



—ドレスデン爆撃がこの映画によって初めて語れていますね。戦後60年なぜ一度もこの出来事が映画の題材にのぼらなかったと思いますか?

「ドイツ人にとってずっと戦争映画は罪の意識と対自してきた。被害者としてのドイツ人を盛り込むのは罪の意識とドレスデンへの感情の難しい問題だった。60年という歳月がたち、初めて若い人達のために色々な描写が可能になった。戦争を知らない若者にどういうことが自分の国であったか伝えたかった。」

—ユダヤ人、ドイツ人、イギリス人、と複眼的描かれている狙いは?

「ひとつだけの意見ではなくドレスデンを描写したかった。さまざまな悲劇を描きたかったんだ。人生で計画していたものが一瞬にして無になったものがドレスデン爆撃だった。人間はいかに悲惨で劣悪であろうと前を向いて歩いて行くもの。その大事さが確認される人間を描こうと3人のラブストーリーを作った。」

—物語のラストはドキュメンタリー調ですね。

「自分達で撮影しておいた材料として落成式典を映画本体とは違うタッチで語られるべきもの、エピローグとして映画の演出とは距離を置いて描きました。」

—空爆シーンはとても生々しかったです。監督が撮影中危ない目に合ったことは?

「直接的に俳優に分かるように実際にセットを燃やした。どういう状況かを役者が体感すれば、リアルに反応せざるをえない。実際の撮影スタッフ、我々にも体感が求められた。健康が害されないギリギリのところまでやりぬきました。恐怖を描くために空襲の音を撮影している部屋の隣でものすごい出力で音を出しました。振動が体に伝わり、音をリアルに感じると「これは映画の撮影だ」とわかっていても、皆様々な反応をしました。防空壕の“たえられない”感情を大事にしました。撮っている側も撮られている側も撮影後は足がガクガクして立っていられなかったんですよ。」

—原爆を投下された日本での公開が4月中旬となります。公開を控えた今の気持ちを教えてください。

「この映画で善悪を分化できないと思っています。ドイツが戦争を始め、様々な空爆をしてきた。戦争自体がいかに無意味なことなのか。そこに生きる人々にとって、意味のないことだ。原爆を投下された日本に置き換えても同じことが言えると思います。」

執筆者

加藤容美

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『トンネル』

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