『紅いコーリャン』『さらば、わが愛/覇王別姫』などの撮影監督として知られ、ロバート・アルトマンの『相続人』などハリウッドでも活躍する名カメラマン、クー・チャンウェイ。彼が初めてメガホンをとった映画『孔雀ー我が家の風景ー』は、文化大革命が終わった1977年、中国の田舎町に住む、とある家族の姿を描いた年代記である。静けさの中に力強さを秘めた凛然たるドラマは高い評価を受けて、第55回ベルリン映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞した。

 今回はこの映画の中で、感受性が強く、自由に憧れる長女ウェイホンを演じたチャン・チンチューのインタビューをお届けすることにしたい。中国ではポスト「チャン・ツィイー」の呼び声高く、2007年公開予定のハリウッド映画『ラッシュアワー3』でジャッキー・チェンと共演しているなど、これからの活躍が注目される新進女優である。





■思い入れのある作品なので絶対にやりたかった

今回が初の映画ということでしたが、どうでしたか?

「もともとは女優になりたかったわけではないんです。けれどもこの作品には思い入れがあったので、絶対にこの作品をやりたいと思っていました。そういう意味では、演じるのはプレッシャーでした」

思い入れとはどのようなものだったのでしょうか?

「『孔雀』は中国でもなかなか巡りあえないような名作だということです。過去の4〜5年を見てもそうだし、おそらくこれから何年間か経っても、指何本かには絶対に入るでしょうね。役者が、一生のうちにこういう映画に巡りあえるのは、なかなかないことです。だからとてもラッキーだったと思う。それと私の最初の映画だということも大きいですね」

完成した作品を観て、どう思いましたか?

「この人物は私とはあまり似ていない。私とは距離があるなと思いました。彼女は普段の生活に何の興味もなさそうですよね。自分の夢はあっても、普段の生活がいきいきしてない。でも私はもう少しいきいきしているし、まわりに合わせていると思います」

この映画では食卓が重要なモチーフとして何度も登場しますよね。

「特に映画のあの時代というのは、中国人にとって食べることが特に重要だったわけなんです。とにかく1日3回食べられるようにするために、毎日一生懸命働いていました。
 でも今の中国ではもうそういうことはないですね。私自身も長い間、家族と一緒にご飯を食べてませんし。だからあの時代、家族と一緒にご飯を食べて、お茶碗を洗って、といった団欒の時間というものが、家族にとって大事な時間だったんでしょうね」

ベルリン映画祭の受賞を聞いたとき、どう思いましたか?

「もちろん嬉しかったですよ! 私もそこにいたんですけど、結果が発表される前から、お客さんの反応がすごくよかったので『これは獲るな』と直感していました。だから吉報を待つ、といった感じでしたね』

監督からの具体的な演出はどうだったのでしょうか?

「監督はカメラマン出身ということもあって、どちらかと言えば演出よりは、そうじゃない方に長けている人なんです。ですから具体的にこうやりなさいといった指示はなかったですね。演技に関しては、私たち俳優の方が監督よりも知っていると信頼してくれて、こういう風にやったらどうか、という具合に私たちが演じてみせたのを、監督が選ぶ、といった感じで撮っていきました」

まるでドキュメンタリーのような、本物の家族を見ているような気持ちにさせられましたね。

「撮影の2ヶ月前には、それぞれの役のそれぞれの候補者数人かで、カメラテストをやったり、脚本の読み合わせをしていました。そんな中で監督がしっくりくる組み合わせを選んで作り上げた家族なので、よりそういう家族らしさが出たんだと思います」

あなたの役のライバルは何人くらいいたんですか?

「具体的な数は分からないんですが、写真選考の段階で1000人くらいはいたらしいです。もちろん私はそんなに大勢と会ったわけではないですけどね」

日本の作品や役者で影響を受けた人はいますか?

「結構、古い日本映画をいろいろ見るんです。小津安二郎監督の作品も好きだし、『サンダカン八番娼館〜望郷』『幸福の黄色いハンカチ』なども好きです。黒澤監督の映画に出てくる男優さんもすごく素晴らしいと思います。女優なら吉永小百合さんや田中絹代さん、栗原小巻さんも好きです」

目標としている女優像はありますか?

「目標と言うのは特にないですが、いろんな役ができる役者になりたいですね。ただ、役者というものは受身なので、来たものの中からよりいいものを選ぶしかないんですよね。それでもいい作品は少ないので、映画は年に2本に抑えるようにしています」

ポストチャン・ツィイーとの呼び声も高いわけですが、ご自身ではそのように言われることについてはどう思いますか。

「それは私を売りだすためのまわりの戦略の一環なんでしょうから、全然気にしてないです。それと私の出た作品や、デビューのシチュエーションなど、確かに似ている部分はあると思いますけど、それぞれの個性がありますから、やはりそこを見て欲しいですね」

執筆者

壬生智裕

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