売れない女優のいづみが一発逆転、有名になるために、カーリングでオリンピック出場を目指すことにする。コーチは元韓国代表のカーリング選手。しかし、ふたりの仲は険悪。それというのも彼が韓国のトップスターにそっくりだったために、いづみがスキャンダル狙いで近づいたという最悪の出会いをしたためだ。しかもメンバーはカーリングなどやったこともない素人ばかり。この無謀な夢に賭けるいづみたちの奮闘の行方は?

 主演は吹石一恵。これまで演じてきたような芯の強い女性の役や、清楚な役などとはうって変わって、本作ではマイペースでワガママ、直進型のヒロインをコミカルに演じて、新境地を見せている。共演には『ハチミツとクローバー』『8月のクリスマス』の関めぐみ、『バッシング』の占部房子など、若手実力派が顔を揃えた。

 韓流ラブコメを思わせるような、どこか突き抜けたドラマをまとめあげたのは、『櫻の園』など、魅力的な女性を描くことに定評のある中原俊監督。さっそく監督のインタビューをお届けすることにしよう。




●コメディエンヌ的な吹石もなかなかいいですよ(笑)

吹石さんのキャラクターがすごいですね。

「これは女性3人で脚本を作ったんですよ。こんな性格の悪い女の子なのが、驚きでもあり、逆に言うとやりやすいかなと思ってね。でも、これじゃあんまりだから、ここは可愛くしようよ、という提案は逆に僕の方からもしたんだけどね。これは女性に恨みがあるのか、それともキミらの性格なのかと話をしながらね(笑)」

それをあの吹石さんがやるというのが驚きですよね。

「コメディエンヌ的なところを引き出せたかな。そういう吹石もなかなかいいですよ(笑)。育ちがいいのか、あれだけ嫌味なことを言ってても、嫌味じゃないしね」

キャスティングはどのように決まったのですか?

「キャスティングって監督がするんでしょ、とよく言われるんだけど、なかなかそうもいかないことも多いんだよね(笑)。でもこのキャスティングは、わりと僕の好みでやらせていただいた。関めぐみ、吹石一恵、この背の高い2人の迫力も好きだったしね」

カーリングの衣装にミニスカートというのは珍しいのでは?

「最初の脚本からミニスカートと書いてあったんだけど、最初は僕もおかしいだろうと思っていたの。でも、カーリングの本をいろいろ読んでいく中で、カナダの有名なスキップの人がミニスカートを履いていたのを発見したんですよ。それでいいのか、と思って。吹石演じるいづみのキャラクターからいくと当然ミニスカートになるわけなんだね。
 だけど、撮影の直前に送られてきた衣装を見たら、『ちょっとすごすぎない?』と思ったんだよね。でも『監督がそう言いました』というから、犯人は監督だということで、チラリズムを狙ったのかと疑われてますが(笑)。僕は下はスパッツでいいんじゃないかと言ったんだけど、『それだと可愛くないですよ』と衣装さんとケンカになったりして。お前が言っているんじゃないかという話ですよね(笑)」

ピンクの衣装が白い氷の色に映えますよね。

「それはすごくいいことなのね。この氷が最高のレフ板になるんですよ。だから彼女たちが投げている顔がとても美しく写るわけ。それと目が遠くの一点を見つめているというのも、魅力的になるわけ。だからカーリングをやると女性は美しく見えるんですよ(笑)」

カーリングはお好きだったんですか?

「長野オリンピックでずっと見ていたんだけど。でもそれ以降見るチャンスがないわけですよ。撮影の準備をするのに勉強材料がない。結局カナダからカーリングの試合のビデオを取り寄せて勉強してたのね。ところがやってる最中にトリノオリンピックでしょ。それで人気になっちゃってね」

追い風ですね。

「でも、どうせカーリングなんて誰も知らないだろうと思って、適当に話を作っていたわけ(笑)。だからそれを全部作り直さなければいけないわけでね。カーリングというのは得点ボードを見れば、だいたいどういう試合だったのかが分かるわけですよ。だから全部の試合を想定しなくてはいけない。それを組み立てていたら、結構パズルでね。助監督やカーリング協会の人も巻き込んで頭を付き合わせながら大変でしたけど、面白かったですね」




●カーリングを知りたい人はまずこの映画を見ることですね

カーリングが分からなくても、この映画は楽しめますね。

「そう、ルールが分かりやすいでしょ。なんとなく投げている感じも分かるでしょ。カーリングを知りたい人はまずこの映画を見ることですね。3月に世界選手権もありますから(笑)」

CGは使っているんですか?

「いや、CGを使えば簡単なんだけどね。ここまで来たらCGを使うのをやめようかと。やっぱり音だけじゃごまかしきれない、微妙な音が違うね。結局そういうので苦労してましたよ。何度も何度もやり直したりしてね。まあ、ビデオだからフィルム代はかからないけどさ(笑)」

この作品はどことなく韓流ドラマのラブコメのようなイメージがしたんですが、狙いは?

「僕はあまり韓流ドラマは見てなくてね。これをやるときにキム・スンウさんの『ホテリアー』を観たの。そのときは、正直『うーん、これは?』と思ってたんだけど、この人はものすごく幅の広い人なんだね。で、クランクイン直前に観た『人生逆転』というのが『これは俺が撮ろうとしている映画に近いな』と思ったわけ。あれは傑作だね、あ、この映画も傑作ですよ(笑)。
 だから似ているのかもしれませんね。はじけているというか、突拍子もないというか。細かいところを考えずにやる。それは主人公がこういう人だから出来るんですけどね」

『素敵な夜、ボクにください』というタイトルは?

「これはコマーシャルのシーンの中にあった言葉だけど。題名も決まっていない段階から、脚本に書いてあったの。そこからいきなり題名にしたのね。最初聞いたときは、なぜそんな題名にと思ったんだけどね。
 実はこれをまともに韓国語に訳すと相当エッチな言葉になっちゃうらしいという。なんせ映画史上最悪な出会いをしたふたりですからね(笑)」

執筆者

壬生智裕

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