この『Life』という映画では、目に見えるはずのない時間というものが、はっきりとその形を現している。若い芸術家たちが集う”工場”にしても、その”工場”の外にある東京にしても、全く違った速度で時間が流れていて、そこに住む登場人物たちそれぞれもまた、皆違った時間の中で生きている。太陽と同じ時間、迫りくる死までの短い時間、大きな喪失がもたらした動かない時間。時間という実体のないそれが、まるで人と一緒に呼吸をしているかのように、その鼓動はすべて違った顔を見せていく。

そんな、ひとりひとりの生活の中でそれぞれに流れる時間を、実に真摯な姿勢で丁寧に汲み取っていったのは、佐々木紳監督。彼の劇場デビュー作となる『Life』を語った。







——この物語は、主人公の勇(綾野剛)が勤める“工場”の中と、外にある東京の2つの世界で構成されていると思うんです。まず、”工場”とはどういった場所なんですか?

「“工場”のシーンを撮影した場所は埼玉県本庄市です。私の所属している大学院がそこにあるのですが、そもそもこの『Life』は本庄市で映画を作ろうという試みから始まりました。そこから色々考えていって、舞台をふたつ用意しようと。というのは本庄市だけで撮影しても良かったのですが、私は東京に暮らしているので東京で感じていることもあった。それを対比とか比較するわけではなくて、ふたつの情景として置くことで何かが浮かんでくることを期待したのです。何が浮かんできたのかは是非劇場でご覧頂くとして(笑)、東京では同窓会だったり事件が起きますが、“工場”では事件のようなことは起きない。主人公が映画の冒頭でロウソクとジャガイモを物々交換したりしている。通常だと私たちはお金で物を売ったり買ったりしているわけですが、そうではなく、物々交換してみたりそれをおすそわけしてみたり、そういった事が日常的に行われていて、それが許される。そういう人たちが集まっている場所です」

——考えていく作業は、どういったものだったんでしょうか?

「私の住んでいる東京から、大学院のある本庄まで通うのに長い時間電車に乗っていたのですが、だんだんと景色が変わっていくんですね。それを見ながら考えていたので、ふたつの舞台設定をするというアイデアが生まれたのかもしれません」

——“工場”の外と中で決定的に違うものって、時間の流れ方だと思うんです。そういった独特の時間の中に、勇が自分の身を置いた理由はなんだったのでしょうか?

「たぶん、彼はキャンドルの炎そのものに魅せられている。私たちは電気に頼って、暖をとるのにも電気を使いますが、そもそも私たちの歴史は、炎を獲得したときからスタートした。その炎の温かさであったり、明るすぎない明るさ。そして炎って揺れますよね。周りの環境に応じて揺れる。それはとても抽象的な言い方になってしまうと思うんですが、東京のほうで私たちが行っているような生活にはない要素ですよね。そのようなことに勇は惹かれていったんです。
これは具体的には映画の中に登場していないんですが、物語の中で、勇は同窓会のために東京に行くとき、ディーゼルのローカルな電車で出発して帰ってくるんですよ。ディーゼルにした理由は、ロケーション的な面もありますけど、電気で動いていないというのがひとつの魅力でした。ディーゼル独特の速度と、振動と、音。それらに包まれて戻ってくるんです。その戻ってくる間に、勇の中でも何かが刻々と変化をしていく。その時間の中で変化について調整をしているのですね」

——勇を始め、物語に出てくる人物たちの中にはそれぞれの時間が流れていて、それが特徴的に描かれていますよね。

「勇の親友である武(忍成修吾)の時間は限られていて、それは近い将来止まるだろうということがわかっている。茜(岡本奈月)という少女の時間は、タマキという恋人を亡くしたことで生きているが止まっている。タマキは止まってしまった。勇は自分なりの速度で生きている。何か人にとって決定的なことが起きたときに、時間の流れというものは大きく変化すると思うんです。今まで自分が生きてきた時間と速度が、止まっているかのようにゆっくりになってしまったり、今まで生きてきた時間の速度は何か違うのではないかと思って、違う態度をとったり違う生活を始めてみたり。そのリアクションというのは人様々だと思うんです。勇にもおそらくそうゆうことがあった。茜にもあった。勇は、茜に会ったときに共感めいたものが発生したと思うんです。トンネルで2人が出会って、勇は引っ張られるように彼女に協力していくわけですが、その中で彼に生じた動機というものは、もしかしたら勇が“工場”に移ったときのきっかけに似ているのかもしれない」

——監督が、そこまで時間にこだわるのはなぜですか?

「こだわりと言ってしまうと少し語弊があるかもしれませんが、映画を撮っているときには時間の流れというものを強く意識しています。映画を観てくれる人が時間の流れというものを感じられるように撮りたい。その時間の流れというのは現場の流れだったり、役者さんたちが出す流れだったり、テンションだったりということだと思うんです。決して、あれがゆっくりだとか、あれが全うな時間の流れなんだという風には考えていないんです。
時間の流れって映画の一番の特徴だと思うんです。時間を撮るということ。だから、“時間が流れた”っていう瞬間をカットとして撮れたらとても素敵ですよね」

執筆者

林田健二

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