日本映画界に、新たな鬼才監督が誕生していたことを知っているだろうか。柿本ケンサク、24歳。『colors』『スリーピングフラワー』など、彼の映し出す世界観は、24歳という若さだからこその美しさをもち、24歳という若さからは想像できないほどの強いメッセージを持っている。本来、映画が持っていたもの、時代の変遷の中でも映画だけは忘れてはいけなかったものを、誰よりも大事にしようとする柿本ケンサク。その彼に、最新作『バウムクーヘン』の東葛国際映画祭2006での上映直後にインタビューした。

現在はまだ公開未定のこの作品。しかし、その映画のクオリティーは、柿本監督の最新作を心待ちにしていた僕の期待を決して裏切らなかった。公開が未定の作品でのインタビューは、これまでにあまり例をみないが、2007年、そしてこれからの映画界における期待の監督として、このインタビューをお送りしたい。

柿本ケンサク、『バウムクーヘン』『colors』そして、『映画』を語る。



“僕はやっぱり、救われない映画はつくりたくない”

—この『バウムクーヘン』を撮ろうと決めたのはいつ頃ですか?
「『colors』が終わるころに、インターネット映画の企画を出してくれって言われたんです。だったら、『colors』の3人(マメ山田、山本浩史、本多章一)が兄弟だったらおもしろいなっていう思い付きから始まって。それから恋愛の話にしようとか、タイトルは“バウムクーヘン”って響きがいいから、それにしようとか(笑)。単純に3兄弟の話だけでもおもしろいかなと思ったけど、考えていくうちに弱いなと思ったので、“バウムクーヘン”だしグルグルさせちゃおうよってなって。そこからいろんなアイデアが出ていったんです。だから、だんだんですかね。1年くらいかけて作っていきました」

—『ドラゴンボール』のオマージュみたいなものがありましたね。かなりウケました(笑)
「『ドラゴンボール』は世界共通なんですよね。スリランカ行ってたときに、バスに『ドラゴンボール』の悟空のシールが貼ってあったんです。これは使ってよかった(笑)」

—『ドラゴンボール』みたいな、いわゆるオマージュみたいなものが、柿本監督の場合かっこつけてなくていいですよね(笑)
「かっこつけすぎない感じっていうのは狙ってるんです。嫌味ったらしくなるのは嫌だから。たぶん、いい男といい女の恋愛はみんなたくさん見てるじゃないですか。だから、とりあえずそれはやめようって、最初に脚本を書いてるメンバーで決めていた。・・・・・でも、女の子はきれいな人撮りたいじゃないですか(笑)。そういう自分の欲とのバランスですよね(笑)」

—『バウムクーヘン』は今までにも増して明るい結末になっていましたが、それもひとつのテーマだったんですか?
「これは僕の言葉じゃなくて誰か映画監督が言っていたことなんですが—2つのビルが建っていてそこに飛行機が突っ込んでいく映画を、以前はみんな見たがっていた。でも、もう今の時代は、メディアとか文化とか情報を発信する方の人も、2つのビルがあったら、引き返していくような、突っ込みそうになるけど引き返して何にも起こらないような映画をそろそろみんなつくっていかなきゃいけないんじゃないか。そういうことを言っていたんです。確かにそうだなって思った。ぼくがついてた中野裕之さんもすごくピースな人で、自分もそういったピースなものがすごく好きになった。そういう諸々含めてありえないくらいハッピーに終わるものがあってもいいじゃんっていう気持ちなんです。バカなことを積み重ねて、ハッピーになれば。
で、僕はやっぱり、救われない映画はつくりたくない。それはそれを作る人がいるし。僕は見終わったあとに、例えばデートしている人だったら、そのカップルの距離がちょっと縮んだりとか、2人が手をつなぐような、そういう映画を作りたい人なんです。だからいつも笑ってつくっていたい」

“僕はメディアに携わる人だから、メディアの中でそういうことを言っていきたい”

—『colors』で高野八誠さんが演じた役と、『バウムクーヘン』で本多章一さんが演じた役が同じ様なことを考えている気がしたんですが、それは監督自身の考えに一番近いものがあるからなんでしょうか?
「『colors』は僕の哲学的なことを全部詰めたようなものなんです。『colors』は全部自分。高野くんみたいな悪い面もムラジュン(村上淳)みたいなやつも、全部自分の中のことを会話させた。僕はもう何が伝えたいかっていうのが根底にあるから、やっぱり繋がるものはあるかもしれないですね」

—柿本監督のブログで、「『colors』でのマメ山田さんが核を言う部分が、言いすぎだとときどき言われる。でも、そんなこと言っている場合じゃない」って書いていますよね。あれはどういった意味なんですか?
「これも僕の言葉じゃなくて中野さんの言葉なんですけど—もうみんなが何かやんないとやばい時期なんですって。僕もそう思う。今はこういう風に日本っていう守られた世界にいるけど、病気だってなんだって悪くなってから体に出るじゃないですか。植物とか生き物って全部そうだから。夜な夜な光パンパン焚いたりとか、エネルギーを出しまくっている世の中で、植物がすごくストレスを感じている。で、今は葉をつけてるけど悪くなってから枯れる。手遅れになってから枯れる。そろそろちゃんと動かないと・・・・。“〜しようよ”って言っている場合じゃなくて、もう、“しなきゃ”枯れちゃう。そういうことがいろいろ世の中にたくさんあって。・・・結局、みんな想像できてないんですよね。」

—原因って何だと思いますか?
「何なんでしょうね。でも全部含めて、僕も、メディアも悪い。でも、僕はメディアに携わる人だから、メディアの中でそういうことを言っていきたい。そのためなら、つらいこともやりたいし。こんなに外国にいけるのは日本人だけだよって、卑屈なことを言われても僕は外国に行って、行けるんだから行って、自分にできることはやりたい。
誰のせいって言うか、必然的な流れだと思うんです。でも、そろそろそれに気づける時代だとも思う。インターネットっていうのがあって、自分で情報をキャッチできる時代。今がそういう時代の境目にあるから、変えるのは自分らの仕事だと思うんです。だから必然的に僕はやらなければいけない。って、硬いことを言えば思っちゃう(笑)」

“映画では自分のことをやりたい”

—(笑)。映画ってそういうことができるメディアだと思うんですが、今の映画というメディアをどう感じていますか?
「映画自体もよってますね。すごいよってる。やっぱお金たくさんだしてもらうと、映画もそこの宣伝をたくさんしなきゃいけないっていう広告だから。だから僕は、お金をだしてもらうときに、これやらないとか初めから言ったり、ここまでは取り入れるとか言ってるんです。でも、自分がこうやってちっちゃいところで頑張っていけば、いつか繋がることだと思う。だから甘い蜜は吸わないように気をつけてますね」

—いろんな映画監督の方が、監督として身を売る部分を持たなければいけないとおっしゃっています。柿本監督はどう考えていますか?
「僕はすごくそれよくわかって。だから僕は身を売る部分は、他のところで作ってる。PV、CMとか、他に映像たくさんやってるし、それをやりたい人だから。なんでもやりたいんです。もう、CMで嫌というほど自分を売る。その中でもちろん全力を尽くしますけど、そっちで身を売るから、映画では自分のことをやりたい。
もちろん流れの中で映画のフィールドでも売らなきゃいけないこともあると思うんですよ。なるべくやりたくはないけど、より多くのメッセージを送っていきたいから。例えば『colors』のことを2個くらい上のステージでやりたいとするじゃないですか。この映画ってものすごいお金が要る。でも、今はたぶんできない。お金ないし、知名度もあんまりないから・・・。だからもしかしたら『colors』みたいなやつを5個も7個もやってそこにいくのかもしれない。わかんないけど1発、売るもの全部売っちゃってそこにいくのかもしれない。そんな風にビジョン的にはいろんな方法があって。いろいろ考えられますね。結局はエンタテインメントだから、ある意味ありなのかもしれないし。・・・葛藤はいろいろあるけど、トータルで想像したときにいい方法を選ぼうと思う。
バランスですよね。自分が撮る映画のバランスとか、伝えたいことのバランス。これが言いたいから多少嫌な部分があったとしても、究極にはそこがゴールだと思ったら全然頼れちゃう」

—これもブログの話なんですが、『colors』は映画界に小さな隕石をほおったと書いていますよね。
「単純に、あんな映画ないじゃないですか。あんな冒険、お金たくさん出してもらったらできないでしょ(笑)。やってみろよ、みたいな気持ちもあるし。本当にいろんな人が協力してくれたし。僕みたいな年齢の人が撮るっていうのもない。それもたぶん一個の隕石だと思う。結構、特別な作品ですよね・・・売れてないですけど(笑)」

—ほんと、いい映画なんですけどね(笑)
「僕もそう思うんですけどね(笑)。でも、下から行こうって思うんですよ」

執筆者

林田健二

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