仕事も恋も、自分らしく生きること。

イギリスの文豪サマセット・モームの傑作「劇場」を原作に、華やかな舞台のような一人の女性の人生をスクリーンに映し出した『華麗なる恋の舞台で』。舞台女優であるジュリアが自分らしく生きるために選んだのは、最高の結末。爽やかな感動が吹き抜ける本作では、主人公ジュリアを演じたアネット・ベニング、そしてジェレミー・アイアンズやマイケル・ガンボンといったイギリスを代表する名優達がその魅力を余すところなく披露しているのも必見。

監督はハンガリーの巨匠イシュトヴァン・サボー。1930年代のロンドンで繰り広げられるジュリアの恋や葛藤を見事に描き、これまでになかったような軽やかで美しい作品を誕生させました。楽しく、そして自分らしく生きるヒントが込められている本作について監督にお話を伺いました。




——サマセット・モームと監督の出会いはどんなものだったんですか?また、原作のどのようなところに魅力を感じましたか?
「最初にモームが書いた原作「theater」を読んだのは16歳の頃だったと思います。しかし最初はこの作品に描かれている、とても美しい“軽さ”をどういう風に表現できるのか不安でした。それはクリームみたいな軽さで、そこには人生においての真剣な問題が隠れていました。例えば年を重ねることや成功すること、自分が抱えている悩みに関するためらいだとか、人間関係についての問題、そして人と触れ合うことの必要性などですね。実は小説の中にあるものは、私の今までの作品で描いてきたものとよく似ているんです。でも原作は淡い色彩と優しい音楽で重大なテーマを歌うようなものでした。シュタインが信頼と大胆さをもって私にやらせてくれたので、努力して作ってみました。ジュリアは自分の中で葛藤している一人の人間です。私はこの映画を撮ることで、決してライトなものをやりたかったわけではありません。また、原作は幼少時代のジュリアの物語から始まるのですが、映画にする際には省き、その穴を埋める為にマイケル・ガンボンのキャラクターを入れました。それ以外のセリフは原作のままです。」

——この物語の主人公・ジュリアは女性が憧れるような素晴らしい女性ですが、監督にとってジュリアはどういう存在ですか?
「一番重要なことは、ジュリアはとても才能がある人だということ。そしてその才能を他の人と分け合いたいという必要性とエネルギーを持っていることです。女優であるということはとても素敵なことですが、ジュリアは自分という人間がわからなくなるほどに演技をしていて、息子にまでそれを指摘されてしまう。彼女は皆を喜ばせたいと思っていて、自分の役割を行っているんですね。これはとても大事なことで、実は誰もが普段そういうことをしてる。皆、周りの人間に愛されたいと思っていますから。そういった気持ちは人間の基本的な願いですが、困ったことに問題が生まれてくるんです。例えばその人が誠実であってもプロとしての仕事となると、人に愛されるテクニックを身につけるということになってくる。そうなるとその人の本物の人生や気持ちを忘れがちになってしまうんです。太陽の光を感じたり、親しい人間と触れ合ったりという人間のもっとも大切なものが忘れられて、愛の意味も忘れられてしまうんです。私は自分の人生と向き合った時に何を諦めるのか、というのがジュリアが抱える問題なんだと思っています。彼女の師・ジミーは“観客の拍手を得ることだけが人生の目標だ”と言いますが、大勢の人からもらったエネルギーをそのためだけに使うようになると、非常に危険なことになるんです。」

——キャスティングはどのようにされたんですか?
「私達には非常に優れた舞台女優さんが必要でした。映画の中の舞台のシーンは実際に舞台として撮っていますから。でも大勢のお客さんを目の前にして、迫力も信憑性もある女優さんはなかなかいませんでした。その中でアネット・ベニングは私が初めに希望した方でした。彼女は読み稽古の段階から、既に完璧に役を作ってきました。映画はキャストが命です。この映画では本当に夢のようなキャスティングが叶いました。」

——1930年代のイギリスが舞台でしたが、再現するために撮影監督と美術監督にはどのような指示をされましたか?
「ヨーロッパには30年代の状態がそのまま残っている場所がたくさんあるんです。撮影に使った劇場もブタペストにあるものですし、衣裳もパリやハンガリーやロンドンには30年代のものがおいてある中古のお店があるんですよ。」

——映画はキャスティングが全てだとおっしゃってますが、ご自分が監督として現場にいる時になすべきことは何だと思いますか?
「私が映画監督として尊敬している方々は自分の話をそれぞれのスタイルで語っています。自分では私のスタイルというものがあるのかはわかりませんが、私に映画を作る目的があるとすれば、それは語りたい物語をシンプルに楽しめるものにすることです。そして皆さんに楽しんでもらいたい。俳優は映画においてとても重要で、私は彼らの才能を映画で見せたいと思ってます。そしてそれならば彼らの顔を皆さんに見せたい。なぜなら感情を一番よく伝えられるのが表情ですから。私は彼らの瞳の輝きや微笑みが一番美しく撮れるところに照明があたるように心がけているし、そうすることに夢中になっています。もちろん誤解が無いように物語を伝えることも大事です。秘密を持つ映画というのは多いですが、人間の瞳の中もいろんな秘密はあるんじゃないかと思いますね。」

——ジュリアには年をとることに脅えていますよね。年をとることを恐れずに生きるために大事なことは何だと思いますか?
「若い人たちがどんどん出てきますから、私にも不安に思う気持ちはあります。最初に自分の映画がお客さんに届いた時、とても嬉しかった。それは私が若い言語でしゃべったから。そして当時のお客さんが若かったから。同じハンガリー語を使っていても、年をとるにつれて若い言語は自分の中から抜けていく。言葉は違う意味を持つようになり、若い人たちが何をしゃべっているのかだんだんわからなくなってくるんです。言語は変わるのに、その中に入っていけなくなる。言葉は100%体に伝わってくるのに、わからないんです。皆さんがあと30年生きれば、それがわかると思います。それまで毎日太陽の光を楽しんで生きてください。」

執筆者

umemoto

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