『東京・オブ・ザ・デッド – 3日』『サイクル』など、デジタルムービーを意欲的に発表し続ける鬼才、山本政志監督の最新作『聴かれた女』がいよいよ公開。ホラー、サスペンスに続いて監督が選んだ題材は何とエロス! 執拗に脅迫電話をかけてくる存在と、得体の知れない恐怖に怯える女。そしてそのすべての様子を隣の部屋から盗聴している男。この不思議な三角関係を、キッチュに描いた山本監督の新境地となっている。

そこで今回は、山本政志監督と主演女優である蒼井そらさんとの対談をお届けすることにしよう。







監督から見た女優、蒼井そらの魅力とは?

山本政志監督(以下、山) 「映画的な芝居が出来るということ。それが一番だよね。芝居が臭くならないというか。わざとらしいことをやらないというのかな。でも他の作品ではやってたけどな」
蒼井そら(以下、蒼) 「(笑)」
「これが芝居だって勘違いして、やり始めるととんでもないことになっちゃうんだよ。実生活で絶対にないような挙動と言動を見せつけられて。俺、愕然としたことがあるからね」

逆に蒼井さんから見た監督とは?

「何も言わなかったというか、自由にやらせてくれたというか。だから最初は悩んだんですよ。型にはまって、セリフはセリフで表現して。そういうのじゃないと芝居じゃないと思っていたところがあったので。
 逆にどうすればいいのか分からなかったんで。『何か言ってくださーい!』という感じでした〈笑)」

それは自由にやらせるのが山本流演出ということで?

「要は相手の持ち味を引きだすんだよ。俳優のキャラと脚本上のキャラをどれだけ一致させるかというね。でもそれは強制じゃないから。催眠術かイリュージョンの世界だよね(笑)」
「でも映像を見て、すごく引きだされたんだなと思いましたね。逆に素の自分が出ていて恥ずかしいですね」
「どうしても芝居は第三者に見てもらわないと客観視できないからね。だんだん不安になってくるもんだけど。でもまあ、いいんだよ。俺が分かれば。そこで俺が『大丈夫だよ』とか言ってもバカバカしいしね」
「それ気持ち悪いですね(笑)」

監督がエロティックな映画を撮るのは珍しいと思ったんですが。

「珍しいよね。ただ、脱ぐ脱がないとかいうよりも、普通にしゃべっているとか、そういうエロの方が俺は好きだね。ひとりで壁ごしにオナニーをするとかね。ああいう見せないエロ、みたいなところが撮影していくうちに面白いなと思って。
 でもやっぱりエロは難しい。デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』のカラミとかエロいじゃん。ああいうの観ると、デヴィッド・リンチはエッチだと思うよね」

劇中に、主人公のリョウが妄想する皐月が登場していましたよね。別の女優さんが皐月を演じていて、そこにそらさんの声をアフレコしていたわけですが、大変だったそうですね。

「これね、実はもうワンバージョン撮っているんだよ。前半に妄想上の皐月が出てくるでしょ。それを、そら本人が演じているバージョン(『聴かれた女の見られた夜』、2月24日[土]よりポレポレ東中野にてオールナイト限定特別公開。)があるんだよ」

え、あるんですか?

「そうそうあるの。つまり妄想上の皐月のシーンを先に撮るでしょ。あっちはあっちでゆるやかな演出でやっているわけ。で、そのまんまの芝居を、そらと彼氏役の加藤君とで撮影したの。これは面白いよ。セットはまったく同じ部屋だしね。かなり不思議な感じだよ、ぴったりシンクロさせているからセリフも間も一緒なんだよね。あれはかなりの腕前だよ」
「難しかったですよ。言葉にもその人のクセがあるから」
「セリフをまんま言わせたから。だって、先行してるのは向こうの方でしょ。本当は別に合わせなくてもいいんだけど」
「芝居の直前にメモをしてましたからね。何て言ってるんだろ、とか言って」
「モニターつけてな。だからそのバージョンが一番大変だったんだよ。で、二番目に大変だったのがアフレコしていく作業だったわけ。あの時間でよく出来たなと思うもんな。無理だと思ったもん」
「こんなややこしいことなしなきゃ良かったって(笑)」
「それ本当はDVDでマルチでやりたいんだよ。それが一番面白いと思う。想像のサツキとリアル皐月の各々のシーンが互いに乗り換えられるような…。今技術的な面も含めて検討しているDVDは、また違った楽しみ方ができると思うよ。」

「何回も見ると思います。頭の中で理解したくて」

それはまさにデジタルならではですね。

「デジタルの特性として、そういう風にやると面白いよね。デジタルだとそういう寄り道ができるから」

今後、蒼井さんもいろいろと活躍されると思います。監督から蒼井さんに女優としてやっていくためのアドバイスはありますか?

「そうだね。いろいろやっていったらいいと思うんだよね。自信を持ってさ。能力はあるんだから」
「実は芝居はどうも自信がなくて」
「そらはけっこう悩んだりするんだよね。全然悩む必要がないのに。思い上がった方がいいんだよ。すっげえあたし、みたいなさ」
「あたし天才、みたいな(笑)」
「だからさ、やる前から出来たという風に考えるといいんだよ。ちょっと気が早いかなと言われるような。そうすればすごいよ。ただ、そこまでいくと、病院行くかどっちかという話だけどな(笑)」

山本監督との出会いはどうでした? 女優という道の中で。

「新しいものを見させてもらったという感じがしますね。やっぱり今まで型にはまっていたところもあるんで。今回はナチュラルで普通の女の子の役だったから、今度は奇抜な、ジャンキーな役をやってみたいと思います」

監督の映画ってそういう映画多いですもんね。

「本当にな。ろくな奴じゃねえもんな(笑)」
「ちょっとおかしくなる役がいいですよね」

監督も役者として出演していましたよね。

「全然出るなんて知らなくて。現場でも出るとは言ってましたけど、どうせまた嘘をついているんだろうなと思ってましたから(笑)」

最初から出ることになっていたんですか?

「うん、最初からね。変なキャラといったら俺かなと思ってね」
「驚きましたね。『監督、これが自然な芝居というものなんですね』、と勉強になりました(笑)」

執筆者

壬生智裕

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