『死ぬまでにしたい10のこと』から3年。イサベル・コイシェ監督とサラ・ポーリーが再びコンビを組み、新たな感動を生み出した。彼女達は静かに、”生きること”を問いかける・・・。

『あなたになら言える秘密のこと』は心に深い傷を負った一人の女性・ハンナが再び生きること、そして愛することを信じるようになるまでの物語。
突き刺すような痛みも、安らぎも、全てを抱き締めて生きるということ。
この物語を通して、多くの人が感じたことのない悲しみと希望を感じるだろう。

ハンナを演じたのはサラ・ポーリー。秘密を抱えて生きる女性という難しい役を見事に演じきった。女優として世界中で高く評価されているサラは、ハリウッド映画進出後もインディペンデント映画に愛着を持ちつづけ、1999年には監督まで手がけるようになった。女優だけに留まらない彼女の魅力を探ってみた。




——イサベル監督の作品に出演されたのは2度目ですね。感想を聞かせてください。
「本当に楽しかったです。『死ぬまでにしたい10のこと』の時もイサベルといい仕事ができたので、また一緒に映画を作りたいと思ってたんです。今回の内容は前回とは大きく違うものですが、スクリプトを読んだ瞬間にものすごく気に入ったんです。」

——サラさん自身も監督をされていますが、何か影響を受けたところはありますか?
「これまで一緒に仕事をした監督それぞれから、少しずつ違う影響を受けていると思います。でも一番大きな影響を受けたのはイザベルかもしれないですね。彼女とはとても仲がいいんです。」

——女優としてだけではなく、監督としても映画という表現方法を選ばれたのはなぜですか?
「ずっと自分が映画の仕事をしてきたので、自然に映画というものを選んだのだと思います。それに、いくつかある他の芸術と比べてみても、映画は非常に効果的なものだと思います。多くの人にアプローチできるでしょう?そういうところも私にとっては魅力的ですね。」

——女優と監督、それぞれの立場から映画というものを捉えた時に違いはありますか?
「全く違うと思います。女優の時は主観性を、監督の時は客観性を持たなければなりません。だから同じものを見つめたとしても、全く違う考え方をすると思います。」

——”ハンナはサラのために書いた役”と監督がおっしゃってますが、どう思われました?
「ただただ本当に嬉しかったわ!名誉だ、としか言いようがないですね。」

——この映画の舞台になっている油田探掘所は独特の雰囲気をもった場所ですが、実際にあのような場所で撮られたんですか?
「油田探掘所は本物ですが、海の中にあるものではなく、港のすぐ脇に作られた探掘所で撮影されました。すごくシュールなところで、音の感覚が全然違うんです。とても不思議な場所でしたよ。」

——監督はなぜこの場所を舞台にされたんでしょう?
「現世から逃げ出し、孤独や孤立することを好む人達が描かれているからではないでしょうか。ハンナの物語が語られるには相応しい場所だと思います。」

——ハンナを理解するためにいろんな資料を読まれたそうですね。私達がこの物語の背景を知る上で、何かオススメのものはありますか?
「アウシュビッツからの生還者でもある、プリモ・レーヴィという方が書かれた本をお薦めします。極限状態の中でも人間は希望を失わない、ということが書かれています。とても素晴らしい本なんですよ。」

——この作品に出演されたことで毎日生きていることに感謝するようになったとおっしゃってましたが、他にも変わったことはありますか?
「人って暗いところから光の中に出てくると安心しますよね。今回、私はそういうものをすごく感じました。演技をしている時は、とても暗いところにいるんです。その中で緊張感もあったりする。そういったもの全てから解放され、明るいところに出る喜びを改めて感じたんです。」

——この作品ではハンナの気持ちの変化を表す上で、料理も大事なものとして使われています。ハンナが同じものを食べ続けるというのはどういう意味があったのでしょう?
「彼女にとっては人間的な感覚を感じることや、心を動かすこと、つまり生きているという感覚を持つことが過去の辛い経験につながっていくことだったんです。彼女は生きていることを完全にストップさせていました。同じものを食べることで、あらゆる感情を閉じ込めていたのではないでしょうか。」

——階段に座り込んで夢中で食べるシーンがありますね。難しくありませんでした?
「実はイサベルの友人がとても優れたシェフなんです。あれはその方が全部作ってくださった料理で、本当においしかったんです(笑)。でもあのシーンはハンナの感情が大きく揺れ動くシーンだったので、そういう意味では苦労しました。」

#——ハンナが抱えているのは経験した者にしかわからない痛みですが、これから私達にできることって何だと思いますか?
「あのような痛みを抱える人達のためのリハビリ施設はどこの国にも必ずあります。そして絶対お金が足りていないと思うんです。だからもしこの映画を観て少しでも関わりや重みを感じたなら、皆さまに何らかの形で支援をして頂きたいですね。」

——どんなに辛くても、過去とは向き合うべきなんでしょうか。
「過去は忘れられないものです。違うものと摩り替えて、無意識の中に閉じ込めてしまうことはできても絶対に消すことはできない。それなら私はちゃんと過去と一緒に生きて、何でそうなったのかを問いかけ続ける方を選びます。そうすれば答えは出るかもしれないから。向き合い続けることが大事ですよね。」

——人と人との関わりがとても丁寧に描かれていると感じました。サラさん自身が誰かと関わる上で大切にされていることがあれば教えてください。
「その瞬間向き合っていることですね。その一瞬を見逃さない、ということです。誰か大事な人といるなら他の事に気をとられないで、ちゃんと向き合って楽しむことが大事です。」

——サラさんが辛い状況に陥った時、どうやって立ち直りました?
「立ち直る方法は人によって違うと思いますが、私の場合は音楽と詩を読むことです。」

——影響を受けた音楽は何ですか?
「音楽で言えば、ボブ・ディランやジョニ・ミッチェル。あとはテレンス・マリックの映画が大好きです。」

——自分が経験していないもので大事な人が苦しんでいる時どうしますか?
「人を助けるのは他人ではなく、自分です。だから助けられるとは思わない。ただできることは傍にいることと、その人の言いたいことに耳を傾けることなんです。」

——ティム・ロビンスさんと共演した感想を聞かせてください。
「本当に彼は心が広くて、素晴らしい俳優さんです。彼はちゃんと相手と向き合っていました。共演者には気配りして、求めているものをきちっと理解してくれていました。彼からはそういうことを学びました。」

——共演したい俳優さんや、一緒にお仕事したい監督はいますか?
「ホリー・ハントさんですね。彼女にはいろんな意味ですごく勇気があります。彼女自身であり続けるところが素晴らしいと思います。」

——作品選びをする基準は?
「自分が学べる監督かということ、そして自分が観に行きたい映画なのかということですね。」

——インディペンデント映画とハリウッド映画の違いとは?
「決してハリウッド映画を否定しているわけではありませんが、自分にとってのいい映画はほとんどインディペンデント作品なんです。だからこれからもインディペンデント作品への出演を続けると思います。」

——トロントの独特のコミュニティに惹かれているそうですが、どういう魅力があるのか具体的に教えてください。
「トロントは小さな地域が集まった、大きな町です。そしてそこにある多様な文化には、それぞれの個性がちゃんと残っているんです。田舎と大都会の両方が楽しめるところなんです。」

——日本の社会では最近いじめ問題が深刻になっています。カナダではどうなんでしょうか?
「カナダでも同じで、大きな問題になっています。本当に難しい問題で、いろんな要素が絡んでいると思います。実は今、私の姪がいじめにあっているんです。でも9歳の子にそんなの無視しなさい、なんて言っても無理だと思います。私はできるだけ彼女を傷つけないようにしながら、”とりあえずそういう場を避けなさい。いつか時間は過ぎるから・・・”としか言えないんです。」

——監督として映画を撮るとき、どのような視線で撮られるんですか?
「できるだけ客観性を持たなきゃいけないと思うのですが、ある時点で自分の視点も出てくるんです。それを上手く組み合わせてますね。」

——今、興味のあることは何ですか?
「本を読むことと、料理をすることが好きです。本を読むのは、人の頭の中の世界に入り込んで、その人の視点を感じるのが好きだからです。人の頭の中を覗き見した、という感覚がとても好きなんです。料理は、人や自分の面倒をみている感じが好きなんです(笑)。」

——結婚して変わったことはありますか?
「ここまで一人のことを知ってしまって、気持ちを預けてしまって、自分のことをしゃべってしまう。そんな信頼関係が成しえたのが驚きでもあり、気持ちのいいことです。でも人はやっぱり一人だし、そんなに変わるものでもないです。”生まれてから死ぬまで同じ人間だ”という言葉がありますが、それもまた真理だと思います。」

——この映画を観る方々にメッセージをお願いします。
「これは人間がどういうものであるのか、非常によくわかる映画だと思います。美しい一篇の詩のような映画です。」

執筆者

Umemoto

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