人気ミュージカル『テニスの王子様』で人気の斎藤工、相葉弘樹の共演作。幼なじみの男の子に淡い恋心を持つ男子大学生と、血のつながらない兄に恋心を抱く中学3年生の妹。いろいろな形の「スキ」という気持ちを描き出した青春ラブストーリーだ。監督は『村の写真集』の三原光尋。ともすればスキャンダラスになりそうな題材を、爽やかに描き出し、瑞々しい感情を丁寧にすくい取った作品となっている。

 今回は、幼なじみと妹、両方から好かれる主人公、蒼井智和役を演じる斎藤工さんに合同インタビューという形でお話を伺った。話を聞いていて思ったのだが、斎藤さんは相当な映画好きの様子。インタビューの最中は低く響く声でクールに喋っていた斎藤さんだが、話の中身はかなり熱いものになっているので、そこらへんも踏まえてインタビューを読んで欲しい。





この作品の出演の決め手は何だったのでしょうか?

「はっきり言って監督ですね。『村の写真集』とか三原監督の作品が大好きで。監督にお会いして、いろんな話をさせてもらったんですけど、学ぶことが多かったですね」

映画を観ていたときも、今日、実際にお会いしてみても思ったのですが、斎藤さんの低い声がすごく印象的だと思いました。逆に相葉さんは高い声だったので、そのキャスティングが絶妙でしたね。

「確かに昔から高い声ではなかったんですけども。舞台『テニスの王子様』はすごい大人数なんですよ。そこでは、自分の持ち味を出さないと、大勢の中のひとりになってしまうので、僕の個性は生かそうと思って。中学生の話ではあるんですけど、僕はアダルトさというものが持ち味の男だったので、そういうところを意識して役作りをしましたね。そのときに低い音を出す練習をしたんです。標準の喋り方よりも低く出すように練習したら、声域が広がったんですよ」

低くすると音域って広がるんですか。

「広がるんですよ。低い声というのはそれがきっかけなんです。僕も映画が好きなんですが、やっぱり声や音というのはすごく大事な要素ですよね。低い声は武器になるかなと思って意識していたら、自然にこういう喋り方になってます。家でも電話がかかると『お父さんですか?』と言われたりしますから(笑)」

前作が『ボーイズラブ』という作品で、今回が『スキトモ』で。ボーイズラブものが続くのはなぜなんでしょうか?

「この前にやった『ボーイズラブ』という作品は、最初は事務所が反対していたんですよ。でも『ブロークバックマウンテン』とか、そういう同性愛というものが世界的なテーマになってきていていると僕は感じていたんです。今回の『スキトモ』もそうですが、今の時代だから出来た作品というものに関わりたいと思うんです。
 同性愛の役のイメージがつくというのは、実際にあるとは思うんです。でも、それよりも僕は作品で勝負したいと思ってて。映画を観ていない方がどのように判断するかは分からないですが、僕としては一本一本それぞれの作品にベストを尽くすことしか出来ないし、それが役者の仕事だと思っています」

今回のスタッフはどうでしたか?

「僕の父は昔、東北新社で制作をしていたんです。僕は父の影響で映画が好きになって、この世界に入ったんです。父親が真っ先に気付いて驚いていたんですが、今回の芦沢(明子)さんというカメラマンが、父が最も一緒に仕事をしていたカメラマンだったんです。僕が小さいころなんで記憶にないんですけど、父が制作をしていた神戸のミュージアム映像に息子を出していたらしいんですよ。トラックを走りまわる子供として。そういう作品にカメラで芦沢さんが参加していたんですが、縁があったんですね」

芦沢さんとのエピソードを教えてください。

「今回のスタッフは最高のスタッフでした。芦沢さんは女性なんですが、現場では一番男前だったんです。例えば浜辺のシーンでも、海側から撮りたいと。画がよく見えているので、どこから撮ったらいいのかということを常に考えていましたね。ゴムボートを出して、ビショビショになりながら。すごく俳優を尊重してくださって、キレイにカッコよく撮ってあげようという意識がすごい強い方でですね。
 こんな幸せな現場ってあるんだな、と思いましたね。それは芦沢さんに限らず、照明部さんや音声部さんでもそうでした。みんなで一緒に作ろうという意識が共通してありました。それは監督の人間性だと思うんですよね。監督がデタラメでテキトウな人だったら、そこまでの気持ちにもなれないだろうし。今回の三原組というのは、みなさん素晴らしくて、素敵な空気が流れてましたね」







現場での三原監督ってどんな感じでしたか?

「すごく腰の低い方なんですが、モニターのチェックは一回もさせてくれなかったですね。僕はいつもはモニターを見て、次のシーンに生かすヒントを探したりするんですけど、俳優と監督の線引きをしっかりしていたので。これはもう三原監督に委ねるしかない。これが三原さんの秘訣なのかと感じましたね」

それが三原監督の世界になるんですね。

「この作品に入る前、三原監督の『明日はきっと…』に主演をしていた吹石一恵さんに、三原監督について事前に聞いてみたんですよ。そしたら、『本当にうらやましい。最高の時間が過ごせると思うよ』と言ってて。あと女優の西田尚美さんとたまたま手紙のやりとりをしていた時があったんですが、三原監督との仕事はすごく楽しいと。
 とにかく三原さんという監督にみんな惹かれているというのが分かって、僕もすごく楽しみだったんです。で、実際お会いしたら予想通りの人で。話も尽きませんでしたし。役者と監督というのではなくて、人と人として、いい出会いでしたね」

俳優をやっていく意識になったのはいつから?

「実は最初は制作志望だったんですよ。僕の最初の意識としては、映画のエンドロールのどこでもいいから、名前が載るような仕事につきたいなというのがありまして。
 僕、原田芳雄さんが一番好きなんですが、『竜馬暗殺』を観た時に、すごくエグい坂本竜馬を演じていたのが、すごく衝撃だったんですね。それと『Focus』という作品で、浅野忠信さんが壊れていくさまがすごく衝撃的で。もちろん海外の俳優で好きな人はたくさんいたんですけども、日本人の俳優で、これだけ引きつける演技で、自分の色をグッと出せる人たちがいるんだと思って。それがきっかけですね。『学校で学ぶよりも、現場に出るほうが早い』という父の言葉も大きかったですね」

映画が本当にお好きだと思うんですが、好きな映画は?

「いろいろあるんですが、子供の頃に観た『チャップリンの独裁者』の最後の演説シーンが印象に残ってますね。普段は面白いおじさんという印象だったのに、なんでこんなに訴えているんだろうと思ったんです。そのあと演劇を勉強するうえで、チャップリンを見直してみたんですよ。当時、ヒトラー政権のさ中で、チャップリンの首に懸賞金がかけられていたということを知って、最後のシーンはチャップリンの叫びなんですね。こんなアジアの片隅の男の子にその叫びが伝わっているというのがすごいなと思って。それが映画のすごさだなと思って。『チャップリンの独裁者』は、きっかけを与えてくれているなと思いますよね。

 最近だと、『アモーレス・ペロス』というメキシコ映画ですね。あれを観たときには撃ち抜かれましたね。『シティ・オブ・ゴッド』もそうだったんですけど、地球の裏側の話なのに、共通点とか、共感できるものとかもいっぱいあるんですよね。ジャーナリストの知り合いが言ってたんですけど『人間、見た目や言葉は違っても、9割は一緒だよ。同じようなことで泣いたり笑ったりしているんだ』と言ってて。睡眠不足の中、劇場に行ったんですけども、アドレナリンが自分の中から引き出されていくのが分かりました。メキシコ人とか日本人とかいうんじゃなくて、人間の根本を描く映画というのは惹き付けられますね」

今後、共演してみたい監督、俳優さんは?

「たくさんいるんですけど。大人計画の人と、もみくちゃになって作品を作りたい気持ちはありますね。あとは是枝(裕和)監督とか、原田芳雄さんとか。いろいろとこちらで勝手に思ってますが。あとは海外の役者さんと言葉じゃない対決をしたいですね。僕のデビュー作は『時の香り〜リメンバー・ミー〜』という韓国映画のリメイク版だったんですが、『オールドボーイ』のユ・ジテさんがやってた役だったんですよ。その縁で彼が来日したときに対談したんですけども、絶対にいつか一緒に何かを作ろうと言ってもらって。その後、彼がカンヌとかで大きくなったんで、僕も早く追いついて、ユ・ジテさんと同じ空間で一緒にやりたいですね」

執筆者

壬生智裕

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