新宿駅8番線プラットホームから
54人もの女子高生が一斉に飛び込み自殺を謀った。
それが口火を切り、
都市全体のあちこちで集団自殺が勃発し始めた……

2002年物議を呼んだ園子温監督の衝撃作『自殺サークル』。

断片断片の個人という因子をつなげ「物語らない」恐怖を描いた映画『自殺サークル』だが、これと同時期に監督は論理的に物語を描いた『自殺サークル 完全版』(河出書房新社刊)も執筆している。

『自殺サークル』から5年。小説『自殺サークル 完全版』を原型に描かれた『紀子の食卓』が、9月23日(土)よりK’scinemaで公開される。

主人公・紀子に大きく影響を与えるクミコを演じたつぐみに、映画について語ってもらった。

<ストーリー>
島原紀子(吹石一恵)は、17歳の平凡な女子高生。妹・ユカ(吉高由里子)、新聞記者の父(光石研)、母の4人家族。紀子は田舎でくすぶっている自分や、家族との人間関係に苛立ちを感じていた。そんな中、“廃墟ドットコム”という全国の女の子が集まるサイトを見つけた紀子は、こそで「ミツコ」と名乗り、クミコ(つぐみ)やその他の仲間たちと知り合う。彼女たちとなら何でも分かり合えると感じた紀子は、ある停電の夜、家出して東京に向かう。







—— 『紀子の食卓』の撮影前に『自殺サークル』は観ましたか。
「『自殺サークル』は公開時に観て、”新宿駅が大変なことに……”と衝撃を受けました。(笑)人と人との関係性を描いた作品だと思いました。」

—— その続編ともいえる『紀子の食卓』ですが、脚本を読んだ時の感想は。
「結構分厚い脚本だったのですが、飽きることなく一気に読めました。脚本の段階でこれほど面白いと感じた作品は初めて。園監督の言葉のチョイスが好きで、『ここでそれを言わせるんだ』と、さすが詩人だなと思いました。」

—— 演じたクミコは、つぐみさんから見てどのような人物ですか。
「紀子がとてもリアルに描かれているのに対して、クミコは全く現実味がなく、脚本にも詳しく描かれていません。クミコは他人に『役割』を気付かせる為の人物なので、彼女自身の背景は必要ないと考えて、感情を排除して演じました。クミコに感情が存在したとするなら、『紀子の食卓』を超えた所にあると思います。」

—— クミコを演じる時に監督からは何か言われましたか。
「セリフの語尾などの細かいことは言われましたが、全体的なことについてはありませんでした。」

—— クミコにとって紀子はどういう存在でしょうか。
「『ミツコ』という名前には引っかかっていたと思います。紀子が自分がかつて持っていた『ミツコ』というコードを持とうとしていることに。でも紀子に対して何かをしたいという感情はなかったと思います。」

—— 『紀子の食卓』の中で、自分に一番近いと思うキャラクターはありますか。
「もう少し若い頃なら紀子だと思います。高校生位の時に、少し変わったグループに憧れるというのは良く分かります。それと、紀子が停電になった瞬間に行動に出るシーンがありますが、何かが起こった瞬間に行動を起こすというのも共感できました。」

—— 『あなたはあなたの関係者ですか』という言葉が『自殺サークル』『紀子の食卓』に出てきますが、どのような意味だと思いますか。
「クミコのセリフではないので、記号としてしか受け取っていませんでしたが……。”きちんと自分と関わっていますか”ということなのでは。多分、きちんと自分と関われている人は、あまりいないと思います。」

—— では、つぐみさんは自分と関われていると思いますか。
「関わってないですね。(笑)嫌なことは見ようとしないし、忘れようとしてしまいます。(笑)」

—— 撮影で大変だったことはありますか。
「セーラー服を着たことです。(笑)皆に、『着ちゃったね…』と言われて。(笑)『ごめんなさい!!』という感じでした。でも、普通1作品に必ず1シーンは現場に行きたくないと思うシーンがありますが、この映画は珍しく、辛いシーンは全くありませんでした。すんなり役に入れたし、疑問に思うことも無かった。全てがハマった役でとても演じ易かったです。ただ、本番が始まる直前にセリフが増えたり、『こんな感じでやって』とアドリブを求められるのは少し大変でした。」

—— アドリブは結構多かったのでしょうか。
「この作品はアドリブ合戦でした。ただ、自分のアドリブに相手から反応が返ってくるのは気持ち良かったです。」

—— アドリブで特に印象的なシーンはありますか。
「手塚さん演じる男性に蹴りを入れるシーンですね。あのシーンでは、吹石さんと手塚さんに『恐〜い!』と言われました。(笑)でも、監督には『もっと暴力的に!』と言われ、あのようになってしまいました。(笑)」

—— クミコ役はハマリ役で演じやすかったとのことですが、逆につぐみさんが演じにくい役は。
「『普通』の役が難しいです。以前に30歳位の普通の女性を演じましたが、難しくてどうして良いのか分からなくて。『普通』というのは、人によって違うし、『普通』というバランスを見つけるのが大変で。セリフもあまり無くて、自分ってどんな風に歩いていたっけとか、『これでいいのか!?』と常に考えてしまい、『もっと芝居がしたい!』と思いました。(笑)」

—— つぐみさんは、女優として『演技』をしていますが、クミコにとって『演技』はどのようなものだと思いますか。
「例えば初対面の人に対しては、誰もが演技をしているように、クミコにとって演技は自然なことなのだと思います。クミコの『人には役割があって、それを演じきらなければいけない』というのはとても共感できます。クミコが怒る時というのは、手塚さん演じる男性であれ、紀子であれ、役割を分かっていない人がいる時。久美子が母親に対して怒ったのも、クミコを捨てたからではなく、演技が下手だからです。子供であったであろう人の気持ちを惹きつける演技が何故できないのか。それに対して、あのような『芝居』を始めたと思います。」

—— 吹石さんと、吉高さんと共演してみていかがでしたか。
「吹石さんとは、アドリブで寝転がりながら喋るシーンが楽しかったです。この作品らしいファンタジックなシーンに仕上がっています。それと、紀子がどんどん変わっていく様子が面白いと思います。吉高さんは、映画初出演と思えない程度胸が据わるっていると思いました。」

—— 園監督の新作『エクステ』にも出演していますが、どのようなお話ですか。
「髪の毛のホラーです。栗山千明さんと姉役で、子供を虐待する母親役です。今までにない新しい形のホラーになると思います。」

—— では、最後に『紀子の食卓』を観る人達へメッセージを。
「家族の話なので、誰かしらに感情移入できる話だと思います。幅広い年齢層の人に支持してもらえる作品だと思うので、楽しんで観て下さい。」

執筆者

t.suzuki

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『紀子の食卓』公式HP

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