これまでにこんな日本映画があっただろうか?

謎の生命体に体を乗っ取られた人間は”ネクロボーグ”へと変化し、自らの命が果てるまでスプラッター・バトルを繰り広げる・・・。
主人公のヨウジとサチコはお互いの存在を気にかけながらも近づくことはなかったのだが、ある晩、上司に絡まれていたサチコを守ろうとしたことがキッカケで2人は強く惹かれあっていく。しかし謎の生命体がサチコの体を乗っ取り、サチコはネクロボーグに。記憶を吸収されてしまった愛しい人を助けるために、ヨウジは立ち上がる・・・。

”スプラッター・ホラー”、”ダーク・ヒーロー”、”ラブストーリー”一言でジャンルを語ることのできない映画が『MEATBALL MACHINE ミートボールマシン』なのだ。東京国際ファンタスティック映画祭2005を初めとして各国の映画祭で上映され、高い支持を受けてきた本作だが、その描写が過激すぎたためか日本での一般公開は一時見送られていた。

しかし熱くなってきた日本映画界がこのような作品をみすみす逃すはずがない。とうとう今秋に公開が決定し、本作を観る機会が私たちに訪れた。日本映画の新境地を開いたとも言える本作を見逃すわけにはいかない!

そんな『MEATBALL MACHINE ミートボールマシン』で完全なるネクロボーグへと変化を遂げたヒロイン・サチコを演じた河井青葉さんにお話を伺いました。





——こういうジャンルの映画に出るのは勇気がいりましたか?
「最初はオーディションで監督との面接があったんですけど、その時いただいた台本ではあそこまですごい描写はなくて。アクションがあって、正体不明の生命体に乗っ取られて・・というところは書いてあったんですけど、そんなに激しいものだとは思ってなかったんです。実際にやってみて、ここまでやるのか!って思いました(笑)。」

——それを知った時に抵抗はなかったんですか?
「意外となかったですね。むしろここまで思い切ってやってる方がいいなと思いました。めったにできないことですし。」

——スプラッターは得意ですか?
「結構大丈夫ですね。じわじわ精神的に苦しいようなものはちょっとダメですけど、こういう感じの映画は大丈夫です。」

——アクションも代役なしで全てご自身でやられたと聞きましたが、こだわりがあったんですか?
「現場に入ってその場でアクション監督の方に振りなどを教えていただいてやりました。現場でアイデアが出て変わっていった部分もありました。もっとやりたかったです!やっぱりまだ経験がなくて初心者だったので思うように動けませんでした。ああいう衣装を着ていたので動きが制限されてしまうんですよ。だから自分が思う以上に動かないと動きを見せることができなかったんです。でも私がパンチすると相手の役者さんが飛んでいってくれるので、本当に激しい戦いをやっているように見えたんじゃないかと思います(笑)。出来上がりを見て満足していますよ。」

——衣装が重くて暑くて、夏の撮影がすごく大変だったそうですね。火炎放射器まで出てきましたし(笑)。
「火炎放射器は逆に熱さを感じませんでした。あの衣装を着ていたから火との距離が取れたんです。でも夏場は体温調節ができなくなりましたね。体力が落ちるからって頑張ってたくさん食べてました。ちょっとアクションシーンがあると、後ろを開けてコールドスプレーをシューってやってもらったんですが、それをやってもらうと少し楽になりましたね。それの繰り返しでずっとやってたので結構大変でした。アクションシーンのメインを2日間で撮ったので、ホントに集中してやってましたね。」

——ご自身が着る衣装を初めて見た時はどう思いましたか?
「ビックリしました(笑)。衣装合わせの時って普通は洋服がハンガーにいくつかかかっているんですけど、今回のは洋服じゃないものがいっぱい並んでいて(笑)。”着る”っていう感覚なのかどうかもわからないんですけど、これをどうするんだろうって思いました。これを実際私がつけるのかなって。意外と着た感じはすごくフィットしていて冬場は暖かくてよかったですよ(笑)。」

——目の装着シーンがとても痛そうで怖かったです・・。
「やっぱり!そうですよね。あの両目についてるのは撮影の前半後半合わせて2週間ぐらいの半分以上はずっとつけてました。朝、現場に行くとあれをつけて1日中そのままで。つけると結構暗いので、はずすと”世界ってこんなに明るかったんだ〜”って思いましたね(笑)。十字の部分がメッシュ素材になっているのでそこから見えるんですけど、見える範囲も限られていたんです。」

——顔があまり映らないことに抵抗はありませんでした?
「もうちょっと映るかなとは思っていたので、出来上がったら意外と映ってなかったって感じですね(笑)。でもあんまり気にしてないです。舞台挨拶の時なんかに自分で全部アクションもやりましたって言おうとは思ってます(笑)。」

——女性としてこの映画をどういうモノだと受け止めていますか?
「アクション・スプラッター・ダークヒーローにラブストーリーも少し入ってる映画ですよね。結構残酷なシーンもあるので、スプラッターみたいに血が出るものが苦手な人はどう見るのかなって心配になったりもします。でも前半のヨウジとサチコがまだ人間でいる時の出会いのシーンとか、体は変わっても愛はちゃんとそこにあるところといったドラマの部分がちゃんとあるので、スプラッターが苦手な方でもちょっと頑張ってその部分を観て欲しいですね。伝わるものがあるんじゃないかなって思います。」

——サチコとヨウジはどっちが苦しいんだろうってずっと考えてました。
「私だったらやっぱりヨウジの方が苦しいんだろうなって思いますね。ヨウジは体が半分自分のモノではなくなっていく恐怖の中で、好きな人を殺さないといけない。サチコは好きだったことを忘れちゃっててホントに残酷に攻撃してきますが、やっぱりどんな状況でも好きな人を殺すってなかなかできないですよね。」

——人間のサチコのシーンと、乗っ取られてしまった後のサチコは全然違うと思いますが、演じられる上で気をつけられたことはありますか?
「変わってしまってからはサチコ自身の感情がないので、無表情でやってくださいと言われていたんですが、それが意外と難しかったですね。思いっきり憎しみを持って戦っていると思うので、クールに無表情に戦うというのがなかなかできなくて。表情を常にクールにしているのは難しかったです。あとは動きと顔の見えてる部分が少ないので、その部分だけでお芝居するのが結構難しかったですね。」

——普段はどこに力を入れて演技されてるんですか?
「気持ちで自然に動くように集中しているんですが、目はやっぱり一番感情が出るというか。”笑う”でも例えば口元が笑ってるのに目だけ笑ってないようにして変化をつけられたりしますし。目は意識しなくても奥の方でお芝居をしているんです。だから目が見えてない状態で最初はどうすればいいのかわからなくて、試行錯誤でやってました。」

——スーツを着てアクションものをやる役者さんはよく一度やるとハマると言いますが、どうですか?
「ハマりますね(笑)。またすぐああいう撮影がありますよって言われたら、どうしようかなって思うかもしれませんが、嫌だったとか辛かったとかいう記憶よりも、いい経験したな、楽しかったなっていう方が多いので、またもしお話がきたらやってみたいですね。」

——アクションでは思いっきりやらせてもらえたんですか?
「寸止めはすごく難しくて。思いっきり当てていいからって言われた時は思いっきり当てました(笑)。でも殴る感覚は快感とかいう気持ちを感じる余裕はなかったです。とにかくアクションシーンの時はいっぱいいっぱいだったので、ホントに無我夢中でがむしゃらにやってました。」

——トレーニングとかされました?
「普段はジョギングとか簡単な筋トレとかはやっているんですが、やっぱり全然足らなくて。特に腕と首が筋肉痛になりましたね。着てるモノ自体はすごく安定感があって、どの部分もバランス良くできていたので負担がどこかに片寄ることはなかったんですよ。変身した初日は動きづらさが気になってはいましたが、だんだん気にならなくなってきました。感覚がネクロボーグになってきたのかなって(笑)。」

——あんなに血のりが出てくる映画なんて初めてですよね。
「初めてです(笑)。血のりを2トンも使う映画なんて、たぶん他にはないですよね。自慢できますね(笑)。血のりが雨みたいに降ってくるシーンがあるんですけど、綺麗だなあって思いながら見てました。血でもいろんな血があるんだなあって思いましたね。」

——血のりを浴びてホントに真っ赤になってましたが、どんな気分でした?
「夏場だったので血のりの雨はすごく涼しかったんです。あの時の現場ってホントに変な感覚で、半分ネクロボーグになってたような感覚というか。今考えるとすごく大変だったよなって思うことはいっぱいあるんですが、当時は全然気になりませんでした。それは現場がホントに楽しくて、いい空気で、雄大監督が皆のことをすごく引っ張ってくれていたのがすごく心地よかったからなんだと思いますね。」

——この作品は多くの映画祭で上映されていますよね。青葉さんは、東京国際ファンタスティック映画祭とゆうばり国際ファンタスティック映画祭に行かれてますが、観客の反応を見てどうでしたか?
「快感の一言ですね。東京の劇場には子供の頃から母親とよく映画を見に行ってたんですが、あの大きいスクリーンで、あんなにお客さんが入るところで上映されるというのはホントに感動しましたし、舞台挨拶にも立たせていただいて嬉しかったです。舞台に立つとすごく緊張するんですが、あの時は変な自分が出てきて快感でした。アドレナリンが出てくる感じでしたね(笑)。ゆうばりの方は町全体がお祭りみたいな感じで盛り上がっていて、あったかい映画祭だと感じました。」

——では今回劇場公開されることについてはどう感じてますか?
「ああいう過激なシーンがある映画が劇場公開できるのかなって不安に思ってたりもしたんですが、ほっとしました。今までこういう日本映画はなかったんじゃないかと思います。いろんな要素が詰まっていて、何かを越えちゃったような映画なので、いろんな人に見てもらいたいと思っています。」

執筆者

umemoto

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