“3枚目”のヒーロー伝『スーパースター★カム・サヨン』 主演イ・ボムス、インタビュー
「夢を諦めない」一見ありきたりなテーマを持った『スーパースター★カム・サヨン』が、同じテーマを持つ他のどの映画よりも感動的で、どの映画よりも説得力があるのは、2つの大きな理由があるからだと僕は思う。1つ目は、カム・サヨンという主人公が実在の人物で、僕らとなんら変わりのない普通の人間であること。2つ目は、これが最も大きな理由であるのだけれど、主演がイ・ボムスという俳優であるということだ。カム・サヨンというどこにでもいそうな3枚目ぶりを見事に表現した演技力はもちろんだが、それよりももっと大事なことはイ・ボムス自身がカム・サヨンという人物と似た境遇にいたことである。15年前にはセリフがたった1行しかなかった彼が、初の1枚看板としての主演を務めた映画『スーパースター★カム・サヨン』。今回のインタビューでは、この映画の魅力にせまるために最も大事な、「イ・ボムス」という人物のルーツを探ってみた。
カム・サヨンさんは実在の人物だという事ですが、ご本人にはお会いになったのでしょうか。
もちろん会いました。撮影現場も含めて3,4回くらいですね。
どんな印象でしたか。
最初に会ったとき思ったのが、本当に素朴で、純情で、どこにでもいそうな隣のおじさんみたいな、ほんとに人のいいおじさんというような印象を受けましたね。なので、僕がカム・サヨンという25歳の青年を描く上で意識したのが、何が何でも1等でなくちゃいけないとか、勝たなくちゃいけないとか、そういうものではなくて、自分の夢に対して自分が最善戦を尽くすということでした。
イ・ボムスさん自身も、カム・サヨンという人物は自分自身だと語っていますが、イ・ボムスさんが役者を志したきっかけは何だったのでしょうか。
高校2年から3年のときに進路指導があるんですね。入試をひかえてどこの科にいくかという。僕はもともと美術が好きで美大のことも考えていたんですけど、絵描きとか美術に関する事に一生を捧げる自信も、本当にできるという自信もなかったんです。そういったときに突然ある友人が「演劇映画科でも行ったら」って本当に突然言ったんですね。そのときビビビ!と来たんです。ハンマーで頭を叩かれたような。マンガで言うと「!」がピカって光ったみたいな(笑)自分はそういうのが大好きだし、その友人には「才能もあるし、リーダーシップもすごくあるから絶対むいてるよ」って言われて。その一言がきっかけですね。それから勉強するようになって、そのとき一番認知度の高かった大学の演劇学科というところに入学できました。
ご友人が勧めてくれたということは、それまでにもお芝居などをなさってたんですか。
実はですね(笑)学生の頃から娯楽部長をやったり、応援団長をやったり、学祭のときはMC、またその学祭の時にそんなものないのに寸劇部なんて作っちゃったり(笑)そこでまたシナリオ書いて、演出もして主役もやっちゃうみたいな(笑)クラスでは委員長のようなこともやってましたしね。いろんなことやっていたんですよ。ですので、そういった能動的、積極的なところを見て、言ってくれたんだと思いますよ。ただ、今になってそいつに「お前の一言が俺の人生を変えたんだ」って言うと、「そんなこと言ったっけ?」って言うんですけどね(笑)
(笑)その一言がイ・ボムスさんを俳優への道に走らせるわけですけど、映画の中でもカム・サヨンが野球をやりたいと言ったときにキム・スミさん演じる母親はやっぱり反対しますよね。「野球の話なんてするな」って。でも反対はするけど、一番の応援者でもあって。イ・ボムスさんが俳優を志すといったときのお母さんの反応はどうだったんでしょうか。
やっぱり僕も反対されたんですね。俳優の道っていうものはそう簡単ではないですよね。本当に厳しい世界で、厳しい道で。親もやっぱりそう思っていて、できれば一般人のような普通の道を歩いてほしいと言われました。それに普段僕は役者になりたいというような素振りを見せたことが全くなかったので、熱でもでてるんじゃないかって心配もされました(笑)でも、僕がなぜ俳優に行きたいかということを熱心に伝えて。でも僕の行きたかった学校が、今でもそうなんですけどとても人気のあるところなんですね。倍率が45倍という。で、そのことで自信があるのかと聞かれて、自信あります!って言ったんです(笑)どこからその言葉が出たのか自分でもわからないんですけどね(笑)でもそれで浪人することなく入ったわけですけど、その後は本当に応援してくれています。
カム・サヨンはプロになったはいいものの、いつも敗戦処理ばかりさせられて不安も鬱憤も溜まっていって。でもそれでも野球を続けて1勝という成績を残しました。イ・ボムスさん自身も俳優になって、でも15年前にまだセリフがたった1行という状況で、この先大丈夫なのかっていう不安があったと思うんですが、それでも今まで続けてこれたっていうのはどんな理由があるんでしょうか。
1行のセリフで不安はもちろんあったと思うんですが、今まで持続してこれたのは大きく分けて3つの理由があると思います。1つは、演技が本当に楽しくて大好きで。だからこそ今まで耐えてこれたと思うんですね。2つ目は、明日なのか、1年後なのか、10年後なのかわからないけれど、僕には絶対成功するという信念がありました。信じようという気持ちがあってそれが、自信にもつながっていったと思うんですね。うーん、なんというか不確かではあるんだけれど、100%確かな信念というか。そういったものがありました。そして3つ目が、演技力には自信があったこと。いつも自分に言い聞かせていたのは「こんな上手い人が途中でやめちゃだめじゃないか」と(笑)それで僕はここまでやってこれたんだと思います。
その演技力について伺いたいんですが、毎回様々な役柄を演じられていますが、どれも本当に素晴らしい演技で。いつも役作りをしていくうえで共通して心がけることはあるんでしょうか。
世の中に人間はたくさんいて同じ性格を持った人は誰一人としていないですよね。その人なりの魅力があって。そういった個性というか、その人物がどういう人なのか研究することが大好きなんです。面白くて。その大事な作業が僕にとって楽しみであるから、その分、研究の深さも増えるので、どれも全く違う人物を演じられるのだと思います。
では、今後どんな役を演じてみたいとか、どんな作品に出て行きたいというビジョンはありますか。
最近入ってくるシナリオは、ヒューマンドラマからアクションまで、様々なものがあって大変嬉しいんですが、僕の今の気分としては男らしい強いものをやりたいですね。だから次回作はそういったものになるかもしれません。あと、僕はずっと映画ばかりでていたんですが、最近はテレビからもラブコールを頂いています。僕としては常に新しい僕を見せるというのがポリシーでもあるので、よりより姿で、テレビであれ、映画であれ、皆さんに姿をお見せしたいと思います。
執筆者
林田健二