好きなことを仕事にする。
その難しさは生きていれば誰でも経験するもの。だからこそ、好きなことを生きがいにして生涯の仕事として、日々生きている人の姿は輝いている。プロスノーボーダー中井孝治さんもそのひとりだ。
「スノーボードをやる前は自分もいろんなことに妥協して生きてきました。でもスノーボードと出会って面白さにハマって、自分はもっとやれる!と思っていたら、いつのまにかプロスノーボーダーになっていました(笑)。」と屈託のない笑顔で語るその表情からは、彼自身の精神的な豊かさと強さが感じられた。

「『bd』では素の自分が出ていて恥ずかしい」と話してくれたが、彼の生きることに真摯な姿勢や、「そこまでやるか!」というほどの、技に対しての執念を燃やす様子が見られることはまずないし、好きなことを仕事にして輝いている人の生活を覗く事ができる『bd』は、無気力に働き生きる人々のカンフル剤として、存在する意味を充分に果たしているように思う。

苦しみながら自分の生きる道を貫くのはつらいこと、でも楽しいから続けている。生きるメッセージをまっすぐに伝えられる中井孝治さんの魅力にせまる。






『bd』を観ての感想をお願いします。
「素の自分が出ているので、照れますね(笑)。」

滑っている時はどんなことを考えていますか?
「滑っている時はかっこよく滑れるように、とだけ考えてます。無心になって自分が満足いくまで滑っています。」

映画の中で苦労したところはありますか?
「映画のために撮影したシーンは一切ありません。毎年自分がプロとして同じように過ごしている中に、映画を撮るカメラマンが入ってきて普段の自分を撮影してもらったという感じなので、特に特別なことはしてません。いつも通りの自分でした。」

映画の中でかなり痛そうなシーンがありましたね。
「事故を起こしたときスローになるっていいますよね。まさにそうなります(笑)。いろいろ考える時間があって、「これ絶対いたいだろうなぁ〜」って思いながら転んでます。あの時も「これはヤバいだろうな」と思いつつ、実際痛い思いをして現実に戻りますね。」

逆に技が決まるときは?
「技が決まるときは着地する前から、「あ、これは決まる」とわかりますね。ジャンプでももう、飛び出したときにわかります。これはイケるとわかると、着地する前から笑っていたりします(笑)。」

他のボーダーの方といる時はどういった雰囲気でしたか?
「いっしょに生活しているときはもちろん楽しいし、滑っているときはお互い刺激しあえる良きライバル、なくてはならない存在ですね。」

ビデオを作っていく上で、フィルマーとの関係性は重要ですね。
「自分でビデオを作るときは本当に信頼している人にしか声はかけません。と言うのも、自分のビデオで撮影してくれているフィルマーは自分の小学校からの幼馴染なんです。思ったことは何でも言える仲なので、とても信頼しています。」

ボーダーになった時からスノーボードのビデオを作ろうと考えていたんですか?
「自分が下手な時からRED EYES’FILMの方々に仲良くしていただいていて、撮影をしてもらっていたんです。で、自然と自分でも作りたいと思ってついに今年撮ってしまいました(笑)。人が決めるかっこよさではなくて、自分がかっこいいと思えるものだけを集めて作ったので、作品の出来には満足しています。」

自分が自分の基準となるとかなりハードルが高いですね。
「そうですね。でも、スノーボードを辞めようと思ったことはないです。撮影をしている時に自分がやりたいものができなかったり、もしくは何時間もかかってしまったり、痛い思いもしますが、それは常にあることだし、自分が好きでやっていることだし、当然いいことがひとつでもあれば嬉しいので。ポスターに使われているこのワンシーンも観ている人がいいと言っても自分じゃ納得がいかなくて、6時間くらいひとりで滑っていました。このときは満足したけど、今は満足してません(笑)。これで完成というものはないので、辛い部分もありますが自分が納得いくまでやりたいという思いが常にありますね。」

中井さんのスノーボードに向かう姿勢は、日々妥協をしながら生きている人たちにとっては理想と言えると思います。
「他の人と比べるとわかりませんが、今思えば前の自分は妥協していたと思います。でも、スノーボードを始めてから、「もっと頑張れる!」と考えるようになりました。」

スノーボードを始めるきっかけは?
「小学生の時に、地元の友達に誘われて始めたのがきっかけです。学校が終わってからでもすべりに行ったりしていました。」

高校2年生でプロ資格を取得するまでに、自分がプロスノーボーダーになるという確信を得たことってありましたか?
「スノーボーダーってみんな基本的に負けず嫌いなんです。「絶対あいつより上手くなってやる!」って心の中では思っているんですよ。でも、そんな風に思いつつもまだスノーボードを楽しんでいる延長線上でした。いっしょに滑っている仲間とプッシュしあっていたらいつのまにかプロになっていました。」

プロになる前とプロになった後での心境の変化はありましたか?
「プロでもそうでなくても楽しくやってることには変わりはないです。ただプロになる前は友達と競い合ったりしても楽しみの延長線だったのが、プロになってからは生活していかなくてはいけないので、辛い思いをすることもあります。体が痛くても痛み止めを飲んで我慢して大会に出場したり、鎖骨が折れても1週間後には大会があったり・・・辛いこともたくさんありますが、やっぱり「なんでスノーボードやってるの?」と言われたら、好きでやっていることなので、仕方ないと割り切っているところもあります。」

選手にとって怪我をすることは痛手ですよね。
「そうですね。でも自分は自分のことを“アスリート”だとは思っていないんです。アスリートって自分の定義では、結果がすべてになる、ということなんですが、自分はそうではないし、楽しくやらなければ意味ないと思っています。もちろん、プロとしてやらなくてはいけないこともありますけど、基本は楽しんでスノーボードをやってるので、自分のことをアスリートだとは思ってません。例えば、今から飛ぶところが急な岩場でも、「今飛んでもし怪我したら、オリンピックに出れなくなる」とか、そんな風には考えないです。怪我したらどうしようっていう意識はないですね。」

恐怖から自分を解き放つものはなんですか?
「見栄ですね(笑)。あと根性。「絶対できる!」といいイメージをするようにしてます。いったん怖いと思うと、その悪いイメージが膨らんでしまって、その結果いい思いをしたことはありませんね。なるべく考えないようにして、痛い思いをしたらやめます。それでも、恐怖を振り切れないときは無心で行きます(笑)。」

今行ってみたいところはありますか?
「アラスカに行きたいと思っています。スキー場もない大自然の中をヘリで登って行くようなところなんです。滑るだけで雪崩が起きてしまうようなところなので、スキルを上げるだけでなく、雪崩の勉強もして一度滑りに行きたいです。」

中井さんにとってスノーボードとは?
「自分の個性を出せるひとつの手段ですね。自分の人生のおいてなくてはならないものです。」

プロにとって必要なものはなんですか?
「トレーニングもそうですが、自分のスタイルを持っていないとプロにはなれないと思います。スキーとは違って、タイムや点を出せばいいスポーツではありません。もちろん、スノーボードの大会はありますが、自分がかっこいいと思うものをやって評価されるので、ただ滑るのが上手くても、「自分はこうしたい!」というものがないと、プロとは言えないと思います。」

今の目標はなんですか?
「スノーボーダーとしてもっと海外で有名になりたいです。もっとやれることはあるし、練習しながら、仲間とセッションしながら上手くなりたいです。」

これから観る方々にメッセージをお願いします。
「ドキュメンタリーなので、素のみんなが観られるし、自分もつくったところはありません、恥ずかしいですけど(笑)。観てもらって好きなことを仕事にしているのはいいことだと思ってもらえると嬉しいです。同じ好きなものを持っている同士でひとつのものを作り上げた時の達成感は口では言えないものがあるし、そう言った感動が伝わればいいと思います。ポスターに書いてある“俺たちのように、生きてみろ。”ってコトバは恥ずかしいですけど、共感できるかっこいいコトバです。」

執筆者

林 奏子

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=44895