世界中で話題になった『頭山』から3年、レオポルド・ショヴォーの『年をとったワニの話』を原作に映像作家・山村浩二さんに作品の魅力と制作エピソードを聞いてみた。今回も今までと違った作風で、見るものにほのぼのとした温かい映像感を残している。

今回の上映では、新作『年をとった鰐』ほか、山村浩二セレクト・アニメーションとして世界中から短編7作品をセレクトして上映される。

聞き手:Yumiko Hidaka




—–原作を映像化しようと思ったきっかけ
原作をちゃんと読んだのは30代で、漠然と読む前からイラストを見て気にはなっていました。『頭山』が終わって次の作品を準備していたのですが、2年ぐらいずっと撮れなくて、そのときにふっと鰐の事を思い出し、ちょっと空いた時間にやってみようと思ったんです。

—–ストーリーを読んでの感想
残酷描写もあったりしますが、自分としてはそれはリアルだと思いましたね。生きていくと言うのはこういう事なんだろうなもしくはと。鰐とタコとの関係にしても、男女の関係にしても、必ずしも純粋な愛じゃなかったり自分たちは隠してはいるけど打算的であったり肉欲であったりするものです。生きていく上でのストレートな事が表現されていると思います。
だからといってそれをグロテスクに描いている訳ではなく、どこか間の抜けたユーモアみたいなものもありアニメーションには適した題材だと思いました。

—–物語が淡々とほのぼのと展開していくので残酷さは感じなかった
後々噛み砕くと味が出てくる、見る側が読み取れば読み取るほど深み・苦味が感じられるような感じにしたかったんです。

—–原作に忠実だが、変えようとした事は?
『頭山』が自分の力と表現を駆使しし6年ぐらいを掛けた作品だったので、自分の表現に飽きたと言うか、作品を通して自分を出すと言うのではなく、純粋にアニメーションを作りたいと言う気持ちがありました。原作自体に味わいがとてもあるのでアニメーションの力でそれを広めたい、気づいてもらいたいと思ったんです。

—–「頭山」の時との意識上での違う点は?
『頭山』ではギリギリの所まで自分を追い詰めて作っていたので、今回作る過程を楽しもうと思ったので精神的には楽に作っています。
でも常に作る事が好きなので、作っている時が一番充実感がありますね。作品を作り終えたら抜け殻みたいになってしまうんです。
2年間作れなかった事もあり純粋に楽しみたくて『年を取った鰐』を作り始めました。

—–この鰐のキャラクターは好きですか?
好きです。タコと鰐が出てくるが、鰐の方が思い入れがあります。これを観た爬虫類好きの人に鰐の動きがリアルだとほめられましたよ。
犬童さんともやった『伝説のワニ ジェイク』や『パクシ』のバルタザールのように意識はしていなかったのですが鰐には縁がありますね。

—–セレクトアニメの中でおすすめは?
どれもオススメとして選んだので、そこからまた選ぶのは難しいです。
一番影響を受けた作家はプリートパルン(今回は「おとぎ話」と言う作品がセレクトされている)で、『草上の昼食』と言う作品が人生のベスト1、2を争うものになっています。
あとユーリ・ノルシュテイン(今回作品の参加はなし)。この二人が自分の中での2大巨匠ですね。『ビーズ・ゲーム』のイシュ・パテルは作家になろうと思ったきっかけでもある作品です。なのでセレクトアニメの中だとその二人になりますが、ただそれぞれに価値のある作品なので、順位はつけづらいです。

—–制作で煮詰まった時は?
比較的ゆったりしたペースで短編を作っているので、作っていると次から次へと作りたいものが出てきてしまうんです。
やりたい事が追いつかない感じで、やりたい事がなくて煮詰まると言う事はありません。絵を描いていると、こだわってしまってキリがないので、ある程度の所で割り切りが必要だと思います。
書き込めばいいものが出来るとは限らない。大事なのはいい精神状態で書けたかどうかと言う事。思考が絡まってきた時は少し間をおいて落ち着くと見つかる。
物づくりでは主観的な熱い部分と客観的なクールな部分のバランスが上手くとれていると言うことが必要だと感じます。

—–賞とかのプレッシャーは?
意識はしていないです。逆に賞を取って開放されていく感じがしています。若い頃と言うのは賞の為にがんばろうと言う野心がある程度必要だろうけど、賞を取ってしまえばその欲望が満足出来て本当に純粋に作品に没頭できる。でも賞は取ったけれどもそこまで自分が成就していないのでまだ修行が必要だと思っていますね。なので『頭山』が自分の作りたいものの出発点でこれから本当に自分をつきつめていくスタートだと思ってます。いつも自分の技量では無理かなと言う所から入る。そういう風に作者が試行錯誤しながら仕上げた作品と言うのはすごく良い出来になっている。一番恐いのは出来ると思って作ってしまう事なんです。

—–色々な技法に挑戦しているが、その中での[ヤマムラスタイル]とは?
作品ごとに技法や絵柄が変わるので、スタイルがないと言われがちなんです。スタイルを作ろうとは意識はありません。
自分としては作家に興味を持ってもらうのではなく作品は独立したひとつのアイデンティティなので作者は縁の下の力持ち、影の存在だと思っています。ひとつひとつの作品に思いを込めて作ると、その作品の良さを生かす為にあらゆる技法を用いてしまうのは物を作っていると自然な事であると思います。

—–無国籍と言う言葉にピッタリだ
『頭山』も絵のスタイルは実は無国籍で、和のテイストを売りにしようとしている訳ではないです。そのストーリーに合った絵柄を選んでいるだけで、基本的には色々な国、年齢層の人に観てもらいたいと思って作っています。

—–作家としてのこだわりは?
作品がよりおもしろくなる為に努力している。
こだわりの塊みたいです。

—–やってみたい技法は?
その時々で自分に揺れがあります。『頭山』の前は幼児向けのもっとかわいらしいテイストが多かったんです。
だんだん大人路線になってきたので、もう少ししたらもっとやわらいかい子ども向けのものをやりたいと思っています。
先の方向性を定めてはいませんね。表面的にみると色々な事をやっていると思われるんですが、客観的に観てみると自分の本質は変わらず根底にはスタイルと言うのが流れていて意外と同じものを作っていると最近感じます。

—–次回作は?
カフカの「田舎医者」と言う短編を原作に作っています。鰐の場合は絵も原作にあったのだが、カフカの「田舎医者」は文字だけなのでキャラクター造形しかり少し自分のオリジナルは入ってくる。大変だがそれも楽しですね。完成は来年の1,2月を目標にしています。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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ヤマムラアニメーション公式HP

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