独特な世界観でファンを魅了してきた川原泉の名作コミック『笑う大天使』がついに映画化!
監督を務めたのは数々の映画で我々にVFXの力を見せてきてくれた小田一生さん。なんと本作が初監督作品になりました。その記念すべき1本目で思い入れのある原作を映画化したと言う監督。その想いが、観る者を惹き付けずにはいられない作品を作り上げました。そんな魅力溢れる『笑う大天使』について、小田監督に聞いてみました。




——『笑う大天使』の世界は女の子らしくて魅力的ですよね。「緑化した」と聞きましたが、どれぐらいが本物なんですか?
「建物は完全に本物です。ただ周りが枯れ木ばかりで、どの木も葉っぱをつけていないんですね。芝生は茶色でしたし。実際は枯れ木の間にポーンと校舎が見えていました(笑)。撮影したのが冬で、煉瓦も色はこんな色ではなかったので全部色だけのせ変えているんですよ。ホントに地道な作業でした。建物に関して言えば、お祈りしている場所とガーデンパーティのちょっとしたやり取りの教室のシーンは池袋の自由学園で撮り、後は全部ハウステンボスで撮りました。司城邸の中なんかもハウステンボスの迎賓館なんです。予算的に厳しかったのでセットはないんですよ。周りに人や船があったのを消したり、最後のシーンでは白鳥を使いたかったので合成したりしました。」

——学園にいつも花が散っているのがホントに女の子らしいですね。あれは監督の”女の子の世界”のイメージなんですか?
「撮影をする時点から、絶対に花か綿帽子みたいなものを散らすと決めていました。やるんだったら徹底的にやったほうがいいと思ったんです。昔の80年代の少女漫画だからスクリーントーンを貼っていても、花なり何かキラキラしたものが舞っているじゃないですか。あれはやっぱりやるべきだと思いましたね。それと撮影時は雪も降っていたので補助的な役割も果たしているんです。気温が6度〜13度ぐらいで、寒いなんてもんじゃなくて。雪の合間に撮影している感じだったんですよ。」

——湖に浮かぶ島に学園があるというのは映画のオリジナルですよね。どうしてこの設定になったんですか?
「海外のでかい湖の上にあるという設定にしたかったんです。ネス湖の近くに古城があったりする感じをイメージしました。”湾に浮かぶ孤島に”と言うよりは”湖に浮かぶ孤島に”とした方が聞こえ方がいいじゃないですか。だから湖かな、と。電車であんな離れたところへ行くのは毎日だったら大変でしょうけど、少女漫画の世界なんで(笑)。特にあの70年代後半から80年代までの生活感も入ってくるけどウソくささもある、という少女漫画の世界を描きたかったんです。」

——制服がとてもかわいいですよね。
「そうですね。それでも賛否両論ありますけど。襟ぐりが開いていたりするから、厳格な方にはいろいろ言われたりもしました。実際制服をデザインして、それをどう撮るかだと思うんですよ。今回は厳格な女子校というイメージをわざとモードな感じにしました。今の制服はカジュアル化してしまってるからこそ、それをわざとモードにもってきた方がしっくりくるし、古典とも言えますからね。やっぱり原作の制服にもこだわりはあって悩みはしたんですけど、この原作の制服って実はもうすでにいろんな映画で使われているんですよ。だからこれを着てお嬢様学校を表せるかというと、昭和な感じは出ても厳格な女子学園というのは表せないと思ったんです。実際に撮ってみたら彼女達がものすごく清楚な感じに映るだろうし、透明感のある存在になるだろうと思ったので心配はしてませんでした。観てもらえれば全然やらしくないのがわかってもらえると思います。」

——原作のファンだったそうですが、どういうところに惹かれたんですか?
「当時としては川原さんの作品というのは、少女漫画の世界ではアバンギャルドだったんです。全く正統派ではなく、ある意味で漫画の技法と言うか王道で言えば全然真逆だったんです。話していることもすごくポップなのか、ものすごくハズれているのかわからなくて。そういう遊びまわっていて正統派ではないところにすごく惹かれました。そして根底に書かれている、あったかくてホロっとくるような話がものすごく優しくて。素直に訴えかけるものがあったから素直に好きだった。後は、くらもちふさこ先生とか川原泉先生とか、ひかわきょうこ先生が大好きだったんですけど、いろいろ読んでた中でもダントツに川原さんの作品が好きでした。」

——原作の中でも一番魅力的な3巻を軸に映画化したそうですが、その中でも史緒のストーリーに絞られたのは何故ですか?
「最初は欲張りで、どれもこれもものすごく書きたかったんですよ。ただ、現実的に表現していこうと思うとどれかに絞らざるをえなくて。1巻と2巻の内容を盛り込む時でも3人の話にしつつ泣けるところは史緒を軸に作ろうとしていたんですが、それでもバランスが悪くなって。史緒の目線で語っていって筋を通した方が、観る人にとっても一番素直に入ってくるだろうと思いました。3人とも魅力があるし、外伝はどれも捨てがたいものだったんですけどね。削りたくないところを主張しつつも、徐々に泣く泣く絞っていきました。僕にとって、”軸は史緒”というのは最初からブレてなかったので、3人を同等に扱うか扱わないかの問題だったんです。僕自身がそんなに器用じゃないし、群衆劇を書くにはまだ未熟だった。それに1本目だったというのもあって、できるだけ自分が自信を持って書けるものにしたかったんです。史緒の生い立ちなどはちょうど僕がこの映画を企画した頃に母を亡くしてたので、史緒の気持ちに入りやすかったし一臣の目線にも立ちやすかったんです。あの時、史緒や一臣の目線にたってちゃんと物語を書けると思った。逆に一臣の目線を省略して史緒の位置で書くことに意味があったんですけどね。自信をもって書ける、小さなところからやりたいと思ったんです。」

——二人で夜道を歩くシーンがとても印象的でした。
「月の綺麗な夜に家を抜け出して歩くのが好きだったんですよ。ものすごく月が綺麗な日っていうのは周りが本当に真っ青で、綺麗に影が落ちるくらいな夜になるんです。そういう夜の中を歩いていくシーンをとても撮りたかった。僕の中のイメージでは月はあれぐらい大きいだろうと(笑)。空のちょっとした星の瞬きとかも見せたかったので、実際はビルなんかも周りにあったんですけど、そういうのを全部切って星を入れたりなんかして。子供の頃に家を抜け出して、とことこ歩いてた空を表現したかったんです。」

——映画の後半がリアルなアクションシーンでビックリしましたが、どういうものをイメージされて撮られたんですか?
「昔の漫画ってリアルというよりは少し飛躍したところにもっていくのが上手くて、それが楽しめた時代でもあった。大きな流れでどんどん転がっていくような漫画がおもしろくて多かった。そういう感じを出したかったのと、リアルじゃないけどすごく正統派なアクションを見せたかったんです。イメージとしては史緒がジャッキー・チェンで和音がユン・ピョウで柚子がサモハン・キンポウだったんですよ。だから3人で決めるシーンは『プロジェクトA』をやりたかったんです(笑)。現場では僕とアクション監督が通じ合っていて、「ここは○○の雰囲気で!」みたいに言い合ってたんです。他の人はついていけなかったですね(笑)。若い人にアクションをやらせるには楽しい方がいいんですけど、僕らが楽しまないとそういう熱は伝わらないので。実は船上のアクションシーンは全て絵コンテを用意してあったので、前もって話をして撮りたいものを明確に伝えようとしました。後は現場で表情を引き出していって、勢いをつけて普通よりもコンパクトに撮りました。それに比べて史緒の内面的なシーンは逆にゆっくり待ちました。上野さんが自分の引き出しをいくつか開けてもらえるように、準備が出来るまで時間をかけたんです。」

——後半をほとんどCGにしたのはなぜですか?
「あれは『スパイダーマン2』なんかと比べても全然引けを取らないものになっていると思います。気付かない人は気付かないだろうと思いますし。今回昔の少女漫画のように血を出さないというのを決めていたんですけど、あそこはとにかく死んだという表現をするために冷たくなってほしかったんです。その冷たいというのを出したかったら血を出したりして生々しくなっちゃうんだけど、それはしたくなかった。それに加えて、命がものすごく儚い感じを出したかったのでCGを使いました。巨大化のシーンも、あくまで呼吸をしていないミカエルが動いたというイメージもあったのでCGにしたんです。」

——今新しい作品をやっていらっしゃるそうですね。
「『笑う大天使』のプロデューサーの方の初監督映画でVFXスーパーバイザーとして参加しています。監督としても次の作品を考えていて3本くらいプロットを書いています。忙しいのが落ち着けばようやく回り出す感じですね。プロモーションビデオはつじあやのさんと、サントラを担当してくださったMETALCHICKSさんのものをやらせていただきました。つじさんのものは”つじあやのバージョンのダミアン”をいっぱい入れたんですよ。」

執筆者

umemoto

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『笑う大天使』公式HP

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