「ねぇ、知ってる? 人って生まれかわれるんだよ。」これが映画を通して送られてくる監督からの、今を生きる人々へのメッセージだ。人は生きている中で、たくさんのあやまちと後悔を自分の人生に落としていく。その時の無力感と、「あの時こうしていたら・・・」というやり切れない思いを味わったことがある人なら、きっとこの映画に魅了される。
観客が投影できるキャラクターがこの映画には存在していて、突然押し込まれた“ハコ”の中で、もがき、生きようとする姿が、映画館を出た人の背中を勇気づけるようにすっと押してくれる。そんな映画だ。
“ハコ”に閉じ込められる人々は、全部で9人。その中で、まったく“ハコ”に動じない人物、それが高野八誠さん演じる高野賢作だ。他のキャラクターとはまったく異なった価値観を持ちモノトーンの世界、黒い“ハコ”で生きる色男。高野賢作を演じて見えた色の世界、『colors』の魅力を語っていただいた。







—— 苗字の一致は偶然ですか。
「監督が狙ってつけました。深くは聞いてないですけど。「こういう人間だと思われたらどうするんですか!」って言ったら、「まあ大丈夫でしょ」って軽く流されましたね(笑)」

—— 自己を否定する色男・賢作を演じて苦労されたことはありますか。
「監督にはずっと薬をやっている設定と言われたので、自分のなかでどういう風に演じればいいのか悩みました。一番苦労したのが、ラジオに出演するシーンや、家の中で薬をやってるシーンの、賢作の表情です。表情の中に“発狂”ではなくて“静かな狂い”を見せるのが難しかったですね。あと話し方もゆっくりとしゃべるようにしました。」

—— キャラクターの中でも、ある人物に成り代わったりする不思議な役でしたね。
「山本浩司くんとの二面性がある役でした。すごく不思議な位置にいる奴なんですよね。でも、あまり設定にはこだわらないで、その場その場のテンションで『そういう人間なのか』と思って演じてました。あと誰かは言えないですが、ある人物のマネを今回はさせてもらいました(笑)」

—— 監督から山本さんとの二面性について説明はありましたか。
「一切なかったですね。自分の役の設定についてしか話してくれませんでした。自分の演じ方も、一度演じて「これでいいですか?」っていう風にディスカッションしながら割と自由にやらせてもらいました。」

—— 山本さんとはお話されましたか。
「ないですね。同じシーンはほとんどなくて。現場ではバックの色をかけ変えて、そこに役者さんが入る形なので。基本的にアップなので、誰かと話しているシーンでも一人で片方だけ演じるのがメインでした。でも、ある程度芝居ができるように反対側でつき合わせてもらいました。」

—— 演じる中でこだわった部分はありましたか。
「自分の思いをいれるよりはクリアな状態で演じることが重要なんです。個人的に『メメント』とか編集で見せる映画が好きなんですが、あの映画って話が錯綜していますよね。人によっていろんな見方ができる映画での、僕の見方っていうのは「あ ここで変わるのか」っていうすごく単純な見方に留まるんです。あんまり考えないでその映画を楽しみます。『colors』でも色男という生活の裏側が見えてこない設定なので、演じる時もあまり考えないでやりました。」

—— 記憶に残っているセリフってありますか。
「撮影が一年半前で、話もちょこちょこ切り替わるので実はあんまり覚えてないんです(笑)あえて言えば、初日で撮影したラジオのブースのシーンで言っていた「そんなのって意味あるのか」っていうセリフですね。」

—— みんなで写真を撮るシーンはどのように撮影されたんですか。
「みんな揃って、話しながら撮りましたね。でも大人数が好きじゃないのであまりなじめませんでした(笑)」

—— なぜ皆さんたばこを吸っているんでしょうか。
「なんとなくですね。自然に撮りました。みんな仲が良くて監督のことを信頼しているので。監督は絵にこだわる、アーティストなんだと思います。つながらないことでもできてしまうし、あとで見てもなるほどね、って思わせる力がある人です。」

—— 違う作品の舞台挨拶で、観客におせんべいを配っていましたよね。その時はすごく社交的な印象を受けたので、今回の役どころには驚きました。
「素を見られるのがはずかしいんです。そういうのをごまかすために、最近はおせんべいを配ったりして場をなごませて自分もなごむんです(笑)でも『COLORS』の時は登壇者も多いしできないかもしれないですね。」

—— 賢作は現実世界で希望を見出せましたね。でもあまり喜びを表に出すようなことはなかったですね。
「他のキャラクターのように、嬉しい感情を顕にすることはないですね。でもなんとなく一瞬幸せになったんです。そういうのが賢作で。いままで追われてきたものから解放されて、賢作は救われたんだと思います。」

—— 賢作は薬をやめたと思いますか。
「やめたでしょうね。っていうかやめてほしいかな(笑)」

—— 改めて質問しますが賢作の魅力ってなんですか。
「あまりないですね、この役に関しては。他の役に魅力を感じます。光石さんが演じた死刑囚とか。なぜ“ハコ”に入ったのかわからない人もいることは自分でもよくわからないことだけど、それぞれ救われた部分があるんですよね。」

—— もし高野さんが“ハコ”にはいったらどういう行動を起こしますか。
「冷静に周りの行動を見ると思います。どうしてここに入ったのかとか、どうやったら出られるのかとかあまり考えないかな。賢作が「居心地がいい」っていう気持ち少しわかるんです。あがくのは好きじゃなくて。よく「無人島に持っていくものをあげるとすれば」っていう質問あるじゃないですか。俺は煙草とライターと灰皿があればいいです(笑)」

—— ひとりでいるほうが好きですか。
「だれかと同じ空間にいたいという気持ちはありますね。いるだけでいいんです。何かを求めるんじゃなくて感じていたい、というか。」

—— 監督との仲は日頃から。
「そうですね。いっしょに飲みにいったり。このメンバーでもちょこちょこ遊びに行きます。ここに出てくる人ってみんな才能がある人ばかりなんです。天才で、感性もある。そういう人に囲まれて幸せでした。みんなで控え室で待っているときも、自分から積極的にしゃべりにいけないんですが、声をかけてもらいましたね。心地のいい現場でした。ひとつの作品携わってるムードがありました。」

—— 映画が持っているメッセージについてはどう思いますか。
「監督が普段から一貫して持っているものが、「救われる映画にしたい、ハッピーエンドにしたい」というものなんです。今回もそれがメッセージだと思います。現場にいても、あぁそこが伝えたい人なんだなあとつくづく思いましたね。」

—— 普段考えるのを避けるような人間の生きる意味をテーマにした映画でしたね。
「そうですね。そういうテーマであったからなのか共演者のみなさんも、自分からここはこうしたほうがいいんじゃないかって、監督に言ってましたね。逆に自分は役を演じてみて、試行錯誤するスタンスなので、話の内容をつなげようとはしませんでした。役を自分の中に持ち込むようなことはあまりしないので。」

—— 黒がモチーフになっていることに違和感はありましたか。
「ないですね。最近黒もよく着るので。でも自分の好きなカラーは青なんです。海とか空とか・・・。青に惹かれますね。ウルトラマンの時も青だったし。青に偏るんです、なぜか。」

—— 共演者の方々との交流は?
「よく話したのは光石さんです。一度いっしょに仕事をして以来、仲良くさせてもらってます。以前お会いしたときに、自分がすごく失礼なことをしていて、他の共演者の方に暴露されました。前、流行っていたチェーンメールを光石さんに送りつけてたんです。しかも、メールアドレスを会った初日に聞くっていうことをしてしまって(笑)」

—— 演じる上で、つながっている話とつながらない話だとどちらが好きですか。
「がっちり決まっているものも繋がっていないようにやります。そのシーンのカット割りを自分なりに考えてやるので、つながりは考えません。キャラクターという枠でがっちり決めることはないですね。」

—— お話を聞いていて、監督業にも興味をお持ちなのでは、と思いました。
「そういう気持ちもありますね。でも監督って全体のカラーを常に保つ意識を持っていないといけないので、役によって出せなかったりする自分にはまだ程遠い仕事だなと思います。あと俳優業をしているからなのか、セリフを決めるのってすごく難しいなって思うんです。俺なら一言で迷う部分も、脚本家ってどんどん決めていくじゃないですか。そういう所すごいですよね。」

—— 挑戦したいテーマはありますか。
「自分が見ていて考えないようなばかばかしい映画とか、親子愛を描いた映画を作ってみたいです。」

—— 最後に観る方にメッセージをお願いします。
「『colors』だけに監督がすべての映像にこだわって作った映画なので、すごくきれいな映画だなと思ってもらえると思います。感性のあるとても豪華なキャストに愛された作品です。自分は自分なりに役を追求してやることができた現場でもあったのでとても満足しています。キャラクターもたくさんいるので自分がどれに近いかあてはめて観れる映画としても、楽しんでもらえると思います。」

執筆者

林奏子

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