今の日本映画界で他の誰にもない魅力を放っている女優、蒼井優。これまでの出演作を観て、スクリーンを通して伝わってくる彼女の透明感や存在感に魅了された人は少なくない。
そんな蒼井さんが今回挑んだのは、羽海野チカ原作の大人気コミックを映画化した『ハチミツとクローバー』のはぐみ役。監督の中では初めから蒼井優だと決まっていたにも関わらず、出演を断っていた時期があったというこの映画には様々な想いがあったと言う。しかしそうして完成した作品では蒼井さんの魅力が加わった”はぐみ”が生まれました。どんな世代にも「青春はいいもんだ!」と思わせてくれる本作は、きっと多くの方々の心のどこかに引っかかるでしょう。

そんな『ハチミツとクローバー』にまつわるエピソードに加え、蒼井さんの魅力がどんなところからきているのかインタビューしてみました。






—— 『ハチミツとクローバー』の原作は読まれてたんですか?
「私はあんまり漫画を読まないので読んだことはなかったんですけど、『ハチミツとクローバー』というのが今すごく人気だというのは知ってました。映画の話を頂いてから読んでみたんですが、これはあたしじゃないな、と(笑)。」

——はぐちゃんが蒼井さんとは違うと?
「この作品はすごく好きだし、高田監督もすごく好きなので一緒にお仕事できたら嬉しいけど、私じゃない方がいいんじゃないかなって思ってしまって。最初はお断りしようと思ってました。」

——では何がキッカケでやろうと思ったんですか?
「監督と何度もお話させて頂きました。何で映画化するのかとか、この作品を実写化して何を伝えたいのかとか、なぜ”はぐ”ってなった時に蒼井優が出てきたのかを教えて頂きました。それで監督と話していくうちに私が演る意味ってあるかもしれないと思うようになって。それから前向きに考えるようになって、はぐをどう消化しようか、どう自分の中に落とし込もうかを考えるようになりました。撮影に入る時は何の迷いもなかったですね。」

——はぐちゃんと似ているところはありますか?
「言葉が少ないところですかね。はぐも私も感覚で生きてるな、と思います。」

——撮影中に気を使われたところは?
「見た目は関係ないと思いつつも、やっぱり身長のことがすごくひっかかってましたね。145cmに見せることはできないけど、例えば横に立つ人との身長差で少しでも低く見えるように心がけたりしました。はぐには絵の中で存在感はあっても外見のどっしりしたのは必要ないと思ったので、少しでも体が小さく見えるようにカメラ映りを気にしました。後は声のトーンを高めにするようにしましたね。」

——漫画の中でどのキャラが一番好きですか?
「漫画を読む時点では、もうはぐを演らせていただくという話をもらっていたので楽しむ余裕がなかったです。でも出来上がったのを観た時は竹本君に一番共感して、あゆの恋を応援してました。竹本君が才能のことで悩んでいるのが伝わってきたんです。漫画を読んだ時から私は片想いに関することより才能に関することの方にすごく魅力を感じていて。それが竹本君を通してわかりやすく表現されていたので共感しました。」

——監督とお仕事されてどうでしたか?
「まだはぐを演るか決められなかった頃に監督と何度かお話させていただいた時に、すごく映画の研究をされてこの作品に臨まれているのがわかって。それに監督のCMもすごく好きだったというのもあって不安は全然なかったですね。すごく監督を信頼してました。」

——服とか小物がすごくかわいい映画でもありますね。
「私もはぐの衣装がすごく好きで、買い取りたかったんですけど絵の具でどんどん汚れていっちゃって(笑)。残念。シネマライズにはぐの衣装が展示されるんですよ。あと、映画でアップはないんですが、はぐがいつも穿いてるデニムの折り返しギリギリの見えるか見えないかぐらいのところにハチとクローバーの刺繍が入ってるんです。」

——映画の中で絵を描かれるシーンが結構ありますよね。あれは蒼井さんがご自身で描かれたんですか?
「はぐ一人で描くところは真っ黒に描くところ以外はMAYA MAXXさんが最終的な完成の絵を作ってくださってたので、私はそれになるように色を乗っけていきました。伊勢谷君とのアクションペインティングは最初から最後まで2人でやりました。すごく楽しかったですね。とにかく体の動きを止めないようにしようと思っていて。次乗せる色とか考えてるひまはなかったですね。頭で考えるんじゃなくて感じて描いてました。」

——描いてる時は”はぐ”というよりも蒼井さんが出てたんですか?
「実はあのシーンでは2人とも途中から蒼井優と伊勢谷友介になってしまっていて(笑)。自分の中では楽しんでいるつもりでも表情が真剣になってしまっていたので、表情だけ再撮だったんです。技術的なモノが必要な時にそういうモノに捕われてしまわないようにしなきゃいけないな、っていうのがこれからお仕事する上での自分の課題の一つになりました。そういうことを教えてくれた作品でもあるので、私にとっては『ハチミツとクローバー』はすごく大きな作品ですね。」

——女優の他に興味のある分野はありますか?
「今はもう自分が他のことをするのは考えられないですね。しばらくは役者をやって、もっと見てない世界を見たいと思っています。確かに他のお仕事も少し見てみたい気もするけど、そんな余裕はないですね。まだまだ見えてないところがあるような気がして。そこを見てからじゃないと他のものに移りたくないです。映画の中で絵を描くのは楽しかったんですけど、あれははぐとしてやったから楽しかったんじゃないかなとも思います。でも大きなキャンバスに描くのはすごく気持ちよかったです!」

——出演される作品は何を基準に選ばれているんですか?
「結構感覚で決めますね。誰とお仕事したいとかではなく、まず台本を読んでからということを考えていた時期がありました。最近は作品の持つメッセージを見ますね。自分が役者としてどうというよりも、その作品を皆さんに観て頂いた時にどういう意味を持つのかということがまず気になるようになってきました。」

——一緒にお仕事したい役者さんや監督はいますか?
「一緒にお仕事してみたいのは西田敏行さんと桃井かおりさんですね。西田さんは『タイガー&ドラゴン』という作品でご一緒させていただいたんですけど、ワンシーンも一緒のシーンがなくて。でも現場で西田さんが撮影されているところを見ると、すごく勉強になるというか(笑)。すごいという一言に尽きますね。一緒にお仕事させていただけたら楽しいだろうなと思います。桃井さんは、このお仕事を始めてからすごく好きなんです。でもいろんな人とやってみたいですね。」

——去年ハタチになられたということで、変わったことや気をつけられていることはありますか?
「自分の取る行動に対して責任をもつようになりました。ハタチになっていろいろ許されるようになることに意味があるような気がして。自分で最終的な責任を取らなくてはいけない年になったんだなっていうのは感じています。でも私が10代の頃に考えていたハタチよりはすごく子供のような気がして、これでいいのかなって思うときもありますね。」

——蒼井さんが普段から大切にしていることはありますか?
「私はお仕事している時とプライベートの時で人との接し方が違うんです。お仕事の時は、ちゃんと芯を持ちつつも柔軟性がないといけないと思っています。そして相手に対して好意ではなく敬意をもたなくてはいけないと思っていて、もう最初から敬意を持つつもりでいるんですね。その分プライベートではもっと感覚的で、一緒にいて楽な人としかいないんです。それは結構真逆なことなんですが、その中でもちゃんと自分というものを常に見ている。ブレないものがちゃんと自分の中にあれば変わらずにいられるんだと思っています。」

執筆者

umemoto

関連記事&リンク

『ハチミツとクローバー』公式HP

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=44109