映画とアクションに魅せられた男、シリル・ラファエリ。彼はCGの力に頼る映画が増えてきている現代に挑戦するかのように登場し、疑いようもない力を我々に見せてくれた。

輝かしい武道の記録を残し、そこから身を引いた後はスタントマンやアクション・ディレクターとして数々の映画に参加してきた彼は、『TAXi2』や『キス・オブ・ザ・ドラゴン』などで役者としても注目された。
そして初の主演作となるのが本作『アルティメット』。そこに映し出されたのは想像をはるかに超えた人間の可能性、そして美しさ。驚きの連続でスクリーンから目が離せなくなってしまうほどの迫力がそこにはあるのだ。

映画の中では圧倒的な強さを見せてくれたが、シリルさん本人から漂うのは意外なまでの紳士的な空気。彼の強さの秘密は一体何なのだろうか。
見る者が惹き付けられずにはいられない本作について、シリルさんに話を聞いてみました。





——『アルティメット』は全てがCGやワイヤーなしで撮影されたそうですが、シリルさんがリアルアクションにこだわったのはなぜですか?
「それしかできないし(笑)。一つ一つ具体的に見せられるような、全然トリックを使わない映画を作りたい!という気持ちがありました。それを見せることで観てくださる観客の方々への敬意を示したかったんです。後はやっぱり本物のアクションを心底見せたかったし、それで皆さんが本当に楽しんでいただけるものができたら、という気持ちが強かったんです。」

——映画ではとても息が合っているようでしたが、ダヴィッドさんとの共演はどうでしたか?
「実はいつも一緒にいるんですよ(笑)。一緒にトレーニングしたり、ちょっと時間があれば電話したりしてますね。深い友情で結ばれていますし、二人ともお互い大切に思っています。」

——映画の中でダミアンが「俺は信念を守っているんだ。」と言うシーンがありましたが、シリルさんが守っている”信念”は何ですか?
「映画を撮ることは、信念と言うよりも私の一番の目的と言った方が正しいのかもしれません。いい映画を撮って、いろんな方々に観てもらう。そして私達が作った映画を観ている間は他のことを考えないで楽しんでもらい、夢心地になってくれたら嬉しいですね。」

——映画俳優になるのが長年の夢だったそうですが、アクション以外にも興味はありますか?
「私としては可能な限り、ありとあらゆる役柄に挑戦したいと思っています。例えばいろんな人物像を描きわけたいと思うし、映画のジャンルとしてはコミカルなものや悲劇、アクションでも恋愛映画でも、お話を頂いて脚本に興味が持てればやりたいですね。」

——多くの映画でアクション指導として作品に参加されてきたシリルさんですが、アクションを実際映画の中で見せるのと、アクション指導として映画に参加するのはどちらが好きですか?
「やはり私としては俳優として自分で演じるアクションを担当するのが一番いいです。でも出演できない映画でも、監督から他の俳優のためにアクションを指導してくれ、と言われたら大喜びでやらせて頂いてます。」

——ビックリさせられるようなアクションが満載でしたが、ご自分で考えられたそうですね。
「そうです、自分で考えました。いろんなアイデアが湧くたびに書き付けておくんですが、全てが実現できるとは限らないです。”絶対できる”という信念を持つことと、”どこでも見たことのないようなシーンをやるぞ!”という意気込みが大事ですね。まずはアイデア段階のものを実際に練習してみてリハーサルをします。やっぱりいくら大変で難しくても練習すればできる、という気持ちを持つことが一番ですね。そうやって撮ったものを人々が映画で観た時に、ものすごく練習したんだろうな、と思っていただけたら嬉しいです。」

——あそこまで自由自在な体を持つというのはどんな感じがするんですか?
「筋トレをしてこんな体になった訳ではなく、情熱のままにいろんなことをやった結果こういう体が出来上がったんです。私は見た目にはあまり気を使わないんです。でもいろんなことで成功するためには軽くなきゃいけないし、筋肉がついてなきゃいけない。自分がやってみたいと思うことを成し遂げるには、体もちゃんとしていなきゃ出来ないんですよね。」

——アクションのエキスパートでいらっしゃいますが、シリルさんが感じるアクションの魅力は?
「アクションをやっているのは情熱に押されているから。2〜3日間何もしないでいると空白感を感じるし、どうしてもやらないではいられないんですよ。酒も飲まないし、タバコもやらない。だけど僕にとって麻薬に相当するのがアクションなんです。映画も演じることも捨てられない。それなしには生きていけない。そうじゃなきゃ空白感でいっぱいになっちゃうよ(笑)。」

——車に追いかけられて、それを飛び越えて別の車にぶつけるシーンにビックリしました。
あれもワイヤー、マットなしで撮影されたんですよね。
「あのシーンはいろんなテストをトライアルとしてやりました。ああいうスタントはタイミングが一番重要になるんです。あのシーンで車のスタントをやった方は有名なスタントの息子さんだったのですが、きっちりタイミングよく撮れるように一度実際にやってみました。そしてその後、カメラで撮るためにもう一度やりました。映画はカメラでいろんな角度から撮ったものを編集で繋げて作りますから、必要な部分を見つけるためにそうしたんです。」

——撮影最終日にリュック・ベッソンに隠れて撮ったシーンがあるそうですね?
「もう皆が知ってる話になってますね(笑)。保険会社の方に止められたアクションがあったので、撮影が全部終了した時点でリュックにも保険会社にも秘密で、監督とカメラマン少人数で集まってこっそり難しいシーンを撮ったんです。リュックに実は撮ったんだ、ということを告げると最初は不満そうな顔をしていましたが、撮ったシーンを見せると満面の笑みで喜んでくれました。」

——お気に入りのシーンは?
「カジノのシーンは随分リハーサルがいりましたね。周りの人達もワイヤーやマットレスなしでやりましたから、難しいシーンの一つでもありました。映画の中でも30人もの人間が一斉にスタントをするというのはあのシーンぐらいですし、とても楽しかったです。どの場面も皆で楽しみながら撮ってましたよ。私が一番気を入れて演じ、かつ重要だったシーンはダミアンとレイトの喧嘩シーンかな。あのシーンには2日間かかりました。かなり濃い撮影だったし、あのシーンは嬉しかったですね。」

執筆者

umemoto

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