「『リバー・クイーン』と『ラスト・サムライ』は両方とも異文化に入っていく物語。実は構想を練っていたのはほぼ同時期だったんだ」、監督のヴィンセント・ウォードは言う。このコメントからもわかるようにウォードは『ラスト・サムライ』製作者の一人である。サムライ文化ならぬ『リバー・クイーン』で描かれるのはニュージーランドのマオリ文化。深い深い森の中に入っていくのはマオリに息子を奪われた白人女性(サマンサ・モートン)だ。彼女に出された条件は「首長の病を治せば、息子に会わせてやる」というものだったが……。壮大な自然と人間ドラマに心を奪われる2時間。先ごろ行われたニュージーランド映画祭でオープニングを飾ったのも頷ける美しさ。さて、インタビューでは監督のほか、首長を演じたマオリ人俳優、テムエラ・モリソンからも話を聞くことができた。ご覧の通り、気の合うコンビのようで取材中もお互いを茶化しあう姿が印象的だった。

 




ーー監督自身の経験が影響しているのだとか。
ヴィンセント・ウォード監督 27年前にマオリ社会で暮らしたことがあるんだ。電気もなければ水道もない、本当に原始の社会そのままの場所に入っていった。マオリ社会のなかでまったくのアウトサイダーだったわけで、善意に満ちた思い出もあれば、ネガティブな記憶もある。なにしろ、厳しいし、タフにならざるを得ないし、とても濃い経験だったわけだ。それをベースにいつか映画を撮りたいという思いはあった。現代の話ではなく、19世紀、英国との覇権争いが激しかった時代に舞台をうつせば、もっとドラマティックなものになるだろうと思っていたんだ。今回、製作にあたり、マオリの文化に入っていた英国人はいないかリサーチした。で、見つけたのがマオリ族の首長の病を治した白人女性の話だった。そう、劇中のヒロインと同じだね。これは実際にあった話をもとにしているんだよ。

 ーーあなたがプロデュースした『ラスト・サムライ』と対になる気がしますね。
ウォード監督 そう、この2本はほぼ同時進行で物語ができた。『ラスト・サムライ』も『リバー・クイーン』も異文化に入っていく白人の話だ。『ラスト・サムライ』の構想ができた時はリドリー・スコットやコッポラに話を持って行き、最終的にエドワード・ズウィックに決まった。『リバー・クイーン』は僕の故郷であるニュージーランドが舞台だから、これは自分で撮ろうと思ったんだ。

 ーーマオリの首長を演じたテムエラ・モリソンさんに。脚本を読んだとき、どう感じましたか?
テムエラ・モリソン ものすごくエキサイティングだったね。なにしろ、『スターウォーズ』(※エピソードⅡのこと)で何人かわからないような役をやったりしてたから(笑)。母国に戻ってマオリ人の役をやれるなんてそれだけでチャレンジングな気分だった。首長というのは神様みたいな存在なんだ。今回、出演にあたり、マオリ関係の書物を改めて読み直したよ。

 ーーヒロインを演じたサマンサ・モートンについて。
ウォード監督 彼女はなんというのかな、ものすごく、生の感情を持った女優なんだ。顔をアップにしたらスクリーンいっぱいに微妙な心情が立ち込めるタイプ。サラの役にはまさしくそういう女優を求めていた。サマンサ自身、母親が売春婦でストリートチルドレンとして育った。そうした経験があるせいか、怒りの感情や傷つきやすさだとかを表面に抱えている人だ。観客にとって心の表情が出せる女優というのはアクセスしやすいんだよね。
モリソン 演技をしていると相手のバイブレーションをまともに受けるときがあるけれど、サマンサのそれはすごかったな。ぐつぐつ煮えたぎる感じが伝わってくるんだよ。ただ、僕と彼女は病人とヒーラーの関係で直接的に熱いシーンがなくて残念。魅力的な女性だからね、自分の奥さんにしたいくらい(笑)。

 ーーテムエラさんはサマンサ・モートンの治療のもと、解熱のために川に沈められるシーンがありましたね。
モリソン あれは、監督を殺したいと思ったよ(笑)。凍えそうなんてものじゃない。
ウォード監督 まぁまぁ(笑)。でも、確かに寒かった。山から雪解けの水が流れてくる季節でね。

 ーーテムエラさん、映画が完成した今だからこそ、監督に言いたいことはほかに?
モリソン (ひるむ監督を見て)たくさんあるね。いや、でも、本当に楽しかったよ。特にマオリ族と協力しながら映画を撮れたことは嬉しかった。というのも、製作が発表された時、マオリ族の反応は決していいものじゃなかった。不安が多かったんだと思うよ。自分たちのストーリーを正しく伝えられるのかどうか。でも、結果的に彼らは僕らをサポートしてくれた。
ウォード監督 エキストラの中には自分のひいおじいさんが劇中の戦争で本当に闘ったという人もいた。マオリ族特有の本当の刺青を入れた人たちも参加してくれた。この映画にそういう力は本当に大きい。

 ーー観客に何かメッセージはありますか。
ウォード監督 今までのところ、特に女性に評判がいいんだよね。サラが息子を探す心情に自身を重ね合わせてくれる人が多いのかもしれない。これはアイデンティティの旅と言いかえられるかもしれないし。国や人種に限らず、シンパシーを感じてもらえる部分だと思う。

執筆者

寺島万里子

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