「今の私達が無関心でいられない社会現象、それが移民なのです。」

北イタリアの裕福な家庭に生まれたサンドロは13歳の夏、父親と友人とクルージングに出かけた時に過って海に転落してしまう。落ちてしまったことに誰も気付かず、ヨットは遠ざかり、サンドロは海に漂い力尽きようとしていた。そこに通りがかった不法移民を乗せた密航船に救われ、サンドロは今まで見ることのなかった世界に直面することになる。

2003年に家族を描いた大作『輝ける青春』で注目を浴びたマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督が次に題材に選んだのは”現在のイタリア”。そして出来上がったのが、決して無関心でいることはできない移民問題に目を向けた映画『13歳の夏に僕は生まれた』である。移民たちを眺める無垢な視点が必要だと考え、主人公を13歳の子供にしたという監督にこの作品について語ってもらった。




——”生まれてしまったからには隠れることはできない”という言葉には何かメッセージが込められているのでしょうか?
「メッセージというのはありません。自分としては映画の中にメッセージを込めるということは
なくて、観た人が物語を通して自分の経験を豊かにして、その中から何かを学んでいくと言うこ
とを望んでいます。基本的には物語を語ることが私にとっては一番大きいのです。芸術というの
は広がっていくべきもので、一つのことに集中して小さくなってしまってはいけないと思うので
す。」

——日本ではイタリアほどは移民の問題がシビアではないのですが、どういったところを見てほしいですか?
「ヨーロッパはスペインとイタリアが海に突き出した国なので移民が特に多いのです。海から多くやって来るんですね。イタリアは地中海全体の方に出ているので、北アフリカからも中東からもアジアからもイタリアには押し寄せてくるので、イタリアにとっては移民問題は大きくなっています。特に最近では、アフガニスタンとイラクの戦争によって移民の流れが非常に大きくなってきています。しかし、ますます問題が大きくなっているのにも関わらず、政府側からのそれに対する対応というのは今まできちんとしたものがなされていません。映画がこの問題に対する答えを出すというのは非常に難しいのですが、少なくとも異なる文化を受け入れるとか、自分達との対話があって、その中で移民もイタリアの中に同化していくことができれば一番いいと思っています。観る人にもその点で私に賛成してもらえると嬉しいです。ドアを閉じることで問題が解決するということはないですし、開けることによって問題が増えてくるということもあるので、その中でどうやって答えを見つけていくのかということだと思っています。」

——最初の方はドキュメンタリーのような撮り方で始まり、ラストに近づくにつれて幻想的でロマンチックな映像になりますが、そういう風に描かれたのですか?
「最初の方はサンドロの目に好奇心があるのです。ドキュメンタリータッチに撮るということで、彼が自分の置かれている状況を掴もうとして物事のディテールを追っていく様子を表しています。そうして彼なりのビジョンを作っていくんですね。アリーナとは恋と呼ぶには早いのですが、実際に彼が抱いているのは恋愛感情であって、いずれはそういうものに変わっていくはずのものですが、その感情を失うことによって彼はいろんなことがわからなくなってくるんです。ビジョンを失うので、映像でもピントが合わなくなってくるという状況が起きてくるんです。ようするに、この映画ではサンドロの目や気持ちをずっと追いかけているカタチで撮っています。」

——サンドロ役のマッテオ・ガドラにはどのような演出をされたのですか?
「この映画は物語の展開と同じ順番で撮影することができたので、物語の推移をそのまま展開することが出来ました。マッテオに関しては、色んな場面でこういった状況に陥ったらどうするのかを彼自身に聞いて、答えによって映画の中でも変えていったりもしました。彼自身が直感的にどう演じるのかを考えるんじゃなくて、役の中に入って自分の中で経験を深めていくことができたと思っています。」

——アリーナが口ずさむ曲にエロス・ラマゾッティのUn’Emozione perSempreを選ばれた理由は?
「あのアイデアは撮影中に生まれたものです。移民のエキストラにイタリア人の歌手で誰を知っているか聞いたら3人の名前が上がって、その中に彼の名前があったんです。それでアリーナ役のエスターにどれだったら歌えるかを聞いたら、他の2人は無理だけどラマゾッティの曲だったらUn’Emozione perSempreを知っているということだったので、この曲を選びました。」

——身分の格差がある社会の中で、どういうふうに子供達を見守ればいいのだと思いますか?
「イタリアでも裕福さというのは一世代か二世代でなくなってしまうものなんです。自分の親が裕福だからと言って、当然自分達がきっちり働かなければ裕福さというのは守っていけないのです。例えばこれからイタリアで生まれてくる移民の子供は、もう外国人ではなくイタリア人ですす。だからイタリア人どうしの問題となってくるわけで、自分としてはその中で聡明で感情豊かな人間が勝ち残っていくことを望んでいるし、文化が混ざったところで育ってきた人たちはそういうものを持っているので生き残って社会を豊かにしていって欲しいと思っています。」

——冒頭の壁の絵は演出として作ったものなのですか?
「もともとあったものを再現したものです。92年にあったもので、最初は白で描かれていたものを写真で構成し直しました。」

執筆者

umemoto

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