「本を読んだとき、これは『ロミオとジュリエット』だなと思いました。僕がやったのは日本の時代劇というより、むしろ洋画のアプローチなんですよ」、下山天監督は言う。オダギリジョー、仲間由紀恵主演『SHINOBI』では敵同士の伊賀と甲賀、それぞれの跡取りが運命的な恋に落ちる。原作は山田風太郎の傑作小説「甲賀忍法帖」で長く映像化不可能と言われてきた。CMやミュージックビデオ、映画『弟切草』などを手掛けてきた下山監督にとってもこれが初の時代劇だ。何にも侵されていない大自然とVFXとのリミックスが観客を不可思議な世界に誘い込む。日本初の映画ファンドとしても話題を呼んだ同作品だが早くもDVD化が決定。発売に先駆け、下山監督にお話を伺った。

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ーー「今までの時代劇とは違う、新しいエンターティメントを作りませんか?」、松竹サイドに声をかけられたのが本作のきっかけ。けれど、監督自身は時代劇の経験がなかったとか。なぜ、依頼があったのだと思います?
『SHINOBI』は下山組が成立する4年も前から企画としてはあったらしいんですね。原作にある幾つかの表現は映像化不可能で本自体もどこを軸にするか、相当もめていたらしい。そうしたなか、自分に声がかかったのは時代劇の経験がなかったからではないかと。実際の話、時代もののルールブックがなかったからこそ、やれた部分は大きいと思います。僕は『SHINOBI』のプロットを聞いたとき、「ああ、これはロミオとジュリエットだな」と思ったんですね。僕がやったのは日本の時代劇というより、むしろ洋画のアプローチ。普段からスタッフには「和製ロード・オブ・リング」なんて言ってましたしね。

ーー下山監督が入るまでキャスティングも白紙でした。オダギリジョーさん、仲間由紀恵さんを起用したのは?
我々のなかで仲間さんは朧(おぼろ)そのままのイメージだったんです。朧は宿命を受け入れていくタイプの女性。仲間さんも僕にとってはまさにそういうタイプで、女優という十字架を背負っているみたいにも見えます(笑)。
ジョーくんの演じた弦之助は徳川家康がなんと言おうとわが道を行くという男です。これはオダギリジョーの俳優のあり方に通じる気がしましたね。自分のルールで突き進んでいくという……。

ーー現場での2人は?
仲間さんは目の前に高い山があったらズルをしないでまっすぐに登っていくタイプ。撮影後もずっと役のまま気持ちが続いてる人。カットをかけても表情が今やったお芝居から離れないんです。この人はすごいなと本当に感心しました。
ジョーくんはアメリカで演技を学んだだけはあり、数学的なアプローチをする人でしたね。飲みながら役について話したんですが「この場合、二通りのやり方があると思います」と具体的に提示してきたりしました。

 −−忍びたちが暮らす場所が見たことがあるような、ないような日本。ロケハンにはかなりの時間を費やしたとか。
 青森から九州まで探しましたね。世界遺産の白上山地にも足を運びました。僕がイメージしていた舞台は人を拒否しているような場所、人間よりも自然の方がずっと強い場所。日本にもまだ400年前からまったく変わっていない、人の手が入っていない場所があるはずだと思ったんです。撮影期間は2、3ヶ月ですが、短いストロークのなかでも四季の変化を画面に残したかった。(で、青森のどこか?

ーー伊賀、甲賀とも忍びの衣裳が素敵ですね。
 『キル・ビル』の衣裳デザインもした小川さんにお願いしたんですが、テーマはクールに行きましょう、と。朧たち甲賀は水の里で暮らしているので青、藍色のイメージ、彼らの衣裳は草染めを施したものです。一方、伊賀の住処は山の里、鉱山なので顔料は岩と土、自然と赤みがかった衣裳になりました。

ーー本作は日本初の映画ファンドですが。
ファンドが成功したか失敗したかは別として、この先は映画が投資商品になっていかないと産業として発展していかないでしょうね。『SHINOBI』がファンドになったのは製作途中のことだったんですけど、おかげでバジェットも増え、作り手としては有り難かったです。

ーー公式ホームページで監督自らブログを公開。反響は?
撮影に関するありとあらゆる質問が来ました。あの場面はどうやって撮ったんだとか、あれはCGなのか、とか。一番多かったのがジョーくんが夕闇を歩いていると鳥が飛び立つシーンについて。あれ、CGだとみんな思うみたいですけど実写なんですよ。実はあの鳥は意図していたものではないんです。スケジュールがなくてかなりバタバタで撮ったもので、鳥がいたのも、タイミング良く飛び立ったのも、本当に偶然でした。

ーーまもなく発売になるDVDは伊賀版と甲賀版、それぞれ特典が違うそうですね。
特典はすごいですよ(笑)。キャストのインタビューはもちろん、CGや撮影しなかった絵コンテのことまでとメイキングはかなり充実しています。キャストについてもっと知りたい人には伊賀版を、技術よりのアプローチを知りたい人は甲賀版をお薦めしますね。ちなみに豪華シークレットディスク付きのプレミアム・エディションには2つともついています(笑)。

ーーこれから『SHINOBI』を見る観客にメッセージを。
表現されていない行間を読んでください。朧と弦之助の恋愛ドラマとして、また、アクションドラマとして見方はいろいろあると思いますが、その背景には平和というテーマが秘められています。家康の時代の話ですが、今の中東問題にも通じるテーマを抱えているんじゃないかと。もし、パレスチナとイスラエルの男女が恋に落ちたら、朧と弦之助のような立場に置かれるかもしれないですよね。時代劇といえども世界情勢に通じるものを作品に込めたつもりです。

執筆者

terashima