「人生でこれほどナーバスになったことはないね」、若干26歳の映画監督ダーレン・リン・バウズマンは言う。それは当然だろう。ホラー映画の常識を覆した『ソウ』の登場から一年。ストレス過多映画、けれど、見ずにいられないというジレンマのなか、本作は世界中に熱狂的なファンを生み出した。バウズマンは初監督にして、絶賛された映画の続編を、考えられないような短期間(契約時には公開まで一年を切っていた)で撮るという三重のプレッシャーを負った。「エンディングは次々と変わっていった。役者たちでさえ、いまだに結末を知らないんだ」。緘口令が命じられる中、映画は完成した。個人的にはあまり期待せずに見た。だが、実際は前作同様に、いやそれ以上に、イヤな気分になるけれどすごい映画だった。まもなく日米同時公開。本国での夥しい取材ラッシュをかいくぐり、監督は初来日を果たした。以下はバウズマンの単独インタビューとなる。

※『ソウ2』は10月29日、VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズほか全国ロードショー!!
 





−−『ソウ2』が監督デビュー作になります。もともとは別の作品を撮るため、スポンサーを探していたそうですが。
 そうなんだ。僕は『The Desperate』という脚本を書き上げたばかりでインディペンデント映画を撮ろうと思っていた。そんな時に『ソウ』の製作会社を紹介されたんだけどプロデューサーに気に入ってもらえてね。この脚本を少し変えて『ソウ2』を撮らないかと持ちかけられたんだ。

−−『ソウ』を見て、どう思いました?
 実は『ソウ2』を撮ることになって初めて見たんだよ。まだ、大ヒットする前でどんな映画かもよく知らなかった。それで、なんというか……圧倒された。すぐには言葉が出なかったね。すごい映画だと思ったよ。作り手が投げかけたトリックも、エンディングのダークなトーンもすごく気に入った。

 −−そういう映画の続編を、初監督作で、しかも、これだけの短期間で撮るというプレッシャーは?
 相当なものだったね。続編の契約を結んだのは昨年11月の第二週。1月には前作のキャストで脚本を書いたリー・ワネル(続編では製作総指揮兼共同脚本)に会い、2月には撮影が始まり、その後、6週間かけて編集した。ハリウッドのあるレポーターは「尋常じゃないペースで仕事をしないと『ソウ2』は完成しないだろう」と書いていたね。実際、人生でこれほどまでにナーバスになった時期はない。『ソウ』には何千人というファンがいて、毎日、そのうちの誰かがメッセージボードにコメントを書き込み、そのうちの誰かEメールを送ってくる。「ソウの世界観を壊さないでくれ」ってね。もし、インディペンデントで『The Desperate』を撮っていれば、プレッシャーもそんなに感じなかったし、ここまで注目されることもなかっただろう。だからこそ、素晴らしい機会を与えられたと感謝もしているんだ。

 ーー『The Desperate』と『ソウ2』、脚本の共通点は?
 基本的なプロットはほとんど同じだよ。次々に人が死んでいくのをモニター上で見ているというのはもとの脚本まま、より暴力的でよりグロいものだった。リーが加わったことで、どこの家かわからないという謎解きの感じ、『ソウ』色は強くなったと思うね。

 −−ラストは何パターンか撮影したそうですが。
 脚本は3、4日ごとに大きく変わっていった。最終的なエンディングは撮影の3日前に決まった。いろんなアイデアがあったので、ラストシーンはこの場面に関わった登場人物しか知らないんだ。未だにラストを知らない役者は多いよ(※10月17日現在。アメリカでの公開も日本と同じ10月29日)。

ーージグソウはホラー映画史上に残りそうな殺人犯ですね。演じたトビン・ベルは悪役で知られるアクターですけど、実際の彼はというと。
 スィートな人だね。トビン・ベルとは最初に会った日に彼の家族を交えて食事をしたんだけど優しいし、話していてすごく気持ちのいい人だ。ただ、ひとたび現場に入ってしまうと別人になってしまう。役にどっぷり浸かるタイプの人なので、現場ではジグソウになりきって、何か話しかけても頷くだけ。目が怖かったなぁ(笑)。
 
 −−日米同時公開ということで取材もいまがラッシュなのでは?記者からされた一番ユニークな質問を教えてください。
 うーん(笑)、たった今の質問がそうかな。あとは……そうだな、ユニークというか、笑ってしまったのが「この映画は『スター・ウォーズ』をベースにしているのか」って聞かれたこと。まったくそんなことはないし、どうしてそう思ったのか不思議なんだけど(笑)。
 
 −−好きな映画や影響を受けた監督は?
 いっぱいいるね。ジャームッシュも好きだし、タランティーノにロメロにジョン・フランケンハイマーに。常に高いクオリティを保っているという点でスピルバーグも好きだし、リスクを恐れず、自分の作りたいものを作り続けるという側面においてリンチも尊敬している。ダーレン・アフロノフスキーの作品は『π』も『レクイエム・フォー・ドリーム』も何度も見た。そして、そのたびに嫌な気分になる(笑)けど、大好きだ。

 −−日本は初めてだそうですが、行きたい場所や買いたいものは?
 ずっと来たいと思っていた国だよ。お寺とか神社は見ておきたいし、同時に僕はテクノロジー好きなのでその関連の商品は買って帰りたいね。

 −−最後に。『ソウ3』はありえる?あったとしたらまた、やりたい?
 パート3については観客がのぞめば。僕がやるかどうかは……うーん、迷信深い方なので今は答えないでおくよ。

執筆者

terashima