「不夜城こと新宿に来れて嬉しい」ーータイの俊英タニット・チッタヌクン監督は『デッドライン』を引っさげて、東京国際ファンタスティック映画祭入り。新宿はミラノ座で行われた同映画祭だが、「どこを観光したい?」の質問で返ってきたのが冒頭のコメントだった。本作『デッドライン』の舞台は通貨危機を経た現代のバンコク。IMF(国際通貨基金)への借入金返済という社会的ニュースを背景にしたリアル・ガン・アクションである。または、過去あるテロリストと敏腕刑事の闘いを描くタイ版『インファナル・アフェア』といえるかも。さて、インタビューを行ったのは上映直前のこと。日本での初上映とあって監督は「緊張してますね」。「この作品のテンポはとにかく早い。日本の皆さんにとってはタイ語で字幕というハンデがあるわけですから、作品のメッセージがうまく伝わるかどうか心配。ただ、同じ理由から退屈だけはさせない自信があります」。今年49歳。ベビーフェイスも可愛いチッタヌクン監督であった。

※『デッドライン』は10月22日、銀座シネパトスにて公開!!




−−まず、本作を撮ろうとしたきっかけを。
本当に最初の最初のきっかけは製作会社から「アクション大作を撮って欲しい」と依頼を受けたからなんですけど、自分にはアクションならこう撮りたいっていうビジョンがありました。多くのタイ人にとって森の中でのアクションはもう見飽きたもの。その代わりに都会のど真ん中で事件が起こるという設定を思いつきました。それも普通の強盗ではなく、国立銀行を襲撃するくらいのダイナミックな話が撮りたいと。それをよりリアルな形にするために綿密なリサーチをしました。

 −−国立銀行に隠し金庫があることや地下にテロリストが隠れていたトンネルがあるなど機密情報を突き止めたとか。極秘だけに実際に映画で使うのは困難だったのでは?
 そう、さすがに考えましたね。映画化の際、タイ国立銀行から文句を言われることのないよう実際の外観もかなり変えています。実際の国立銀行は昔の宮殿を使ったクラシックな建物なのですが、映画の中ではモダンなオフィスビルに変えています。隠し金庫などのデザインについてはまったくの自分の想像で、情報についての細部はむしろぼやかすように描きました。

 −−テロリスト役のチャッチャイ・ブレンパーニット、刑事役のアムポーン・ラムプーンともタイ屈指のスターです。彼らの起用の理由は?
 率直にいってしまえば、投資する側がスターを欲しがったから。とはいえ、2人とも演技に定評のある、実力派の人たちです。彼らは目で感情を表すのが上手だったので監督としても有り難かったですね。ちなみにチャッチャイはこれまでどの作品でもヒゲを生やしたことはありませんでした。従来の印象を変えたくて、ヒゲを伸ばすようにお願いしましたね。一方、ラムプーンには坊主頭にしてもらい、腕力ではなく知性で戦う刑事という雰囲気にしました。

 −−参考にした映画などは?
 うーん、そうですねぇ、どうでしょう。これまでハリウッド映画も香港アクションもヨーロッパの作品もたくさん見てきましたから、知らず知らずにそうした影響は出ているのかもしれません。ただ、作品のプロットはまったくのオリジナルです。97年の通貨危機問題やIMFへの支援金返済問題など現代のタイ社会で起こったことを背景にプロットを編み上げていきました。本作はアクション映画ですが、政治の権力、その裏にはなんらかの力が働いているものだというのがテーマのひとつです。

 ーーこの数年、タイ映画が日本でもブームになっています。タイ映画界に従事し、海外への門戸が開かれてきたと感じることはありますか?
 タイの場合、映画の出資金には上限がありました。というのも国内市場のみを視野に入れた場合、はじき出される利益の上限が決まってしまうからです。ただ、最近は海外での上映も増えつつあります。そうなると当然、利益の上限も上がりますよね。若い世代の監督たちは製作費を増やすため、海外でも通用するメッセージを盛り込むことが多くなりました。

 −−来日は二度目だそうですが、今回、観光したい場所は?また、お土産に買いたいものがあれば教えてください。
 前回はお寺や神社を巡りましたが素晴らしかったからできれば今度も行きたい。ただ、滞在日数があまりないので、行けるかどうかは不明ですが。まぁ、ここ新宿(※東京ファンタは新宿ミラノ座で行われた)、不夜城といわれる場所に来れただけでも十分嬉しいですね。お土産は映画のスタッフにライターを買っていこうと思っています。僕は禁煙に成功しましたが、周りには相変わらずスモーカーが多くて(笑)。「日本のライターを買ってきて。安いのでいいから」って頼まれたんですけど、100円ライターでいいかな(笑)。デザインも豊富だし、たくさん買って帰ろうと思ってます。それと日本のお菓子。これを好きな人がやっぱり多いんです。

執筆者

TERASHIMA

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作品紹介『デッドライン』