テリー・ギリアムが7年ぶりの新作をひっさげ、10年ぶり2度目の来日を果たした。主演俳優の病気や悪天候で製作中止に追い込まれた『The Man Who Killed Don Quixote』(経緯はドキュメンタリー映画『ロスト・イン・ラマンチャ』に詳しい)などこのところのギリアムは不運続き。自作映画はなかなか完成にまで行き着かず、ファンは新作待ちにヤキモキしていたはず。さて、新作『ブラザーズ・グリム』はその名の通り、グリム兄弟を主役にしたファンタジーでギリアムの本領発揮といえる。いわく「現実と幻想世界の行きつ戻りつ」が自分のテーマ。「妻にもよく言われる。衣装だけ変えて同じ作品を撮り続けてるんでしょって(笑)」。テリー・ギリアム、65歳とは思えない茶目っ気でジョークを飛ばしつつのインタビューとなった。

※『ブラザーズグリム』は11月3日、丸の内ルーブルほか全国ロードショー!!






——最初に読んだ脚本をまったく気に入らなかったそうですが。なぜ、映画化を?
 『ブラザーズ・グリム』を撮る前に幾つか考えていた作品があったんだ。ドン・キホーテだとか小説を脚色したものとか。ただ、そのどれもが資金調達がうまくいかず、途中で頓挫してしまった。ちょうど4本目の企画がつぶれた頃に『ブラザーズ・グリム』の話がきた。御伽話は僕も好きだし、何しろスタジオ側はやる気満々だ。自分の企画がなかなかうまくいかない時だっただけに確実にGOが出る企画に参加したかったというのが正直なところ。まぁ、それで脚本を読んだんだけど君が質問した通り、まるで好きじゃなかった。ポテンシャルは感じるんだけど……うーん、アドベンチャー映画のようでね。それで、『ラスベガスをやっつけろ』の脚本家とともに全面的に書き直した。8割はいじっただろうな。残ったのは詐欺師の兄弟が血みどろの世界に飲みこまれるという部分だけだ。

 ——今回の撮影で「また製作中止か?」とヒヤリとしたことはありませんでしたか。
 実はね、『ブラザーズ・グリム』では珍しい体験をしたんだ。通常、脚本から製作費を試算するんだけどスタジオが提示した予算より1500万ドルほど多かった。もとの脚本はやたらとバトルシーンがあってね。大量のフランス軍が攻めてくるとか、どっかで見たような場面とか(笑)。僕は御伽話なりの、こじんまりとしたスケールで撮りたかった。で、「よし、わかった、お金のかかりそうなところをカットしていこう」って元の脚本をどんどん切っていった。まだ、高い、まだ、高いって言われるたびにスタジオが気に入っている場面もどんどん切ってやった(笑)。楽しかったよ(笑)。スタジオはびっくりしていたけどね。普通、監督はカットするのを嫌がるものだろう?だけど、僕は「いいです、いいです、どんどん切りましょう」って言ったんだ。

 ——自分のオリジナルと他人の作品とどちらが仕事はしやすい?
 他人の脚本の方がいいよ。なにしろ、執筆はたいへんだから(笑)。一から脚本を書くのとベースがあって直していくのは労力が違う。でも、考えてみれば人の書いた脚本を脚色するのは初めてだったかもしれない。『フィッシャーキング』や『12モンキーズ』は別に脚本家がいたけれど、すごく気に入ってたから何も手をつけてないしね。

——『12モンキーズ』などでも見られましたが、画面の端のネズミの動きなど細かい部分への目配りは健在です。
自分の世界を作ることが好きだし、その世界は細部にいたるまで信憑性のあるものであって欲しい。それにはディティールまで気を配ること。実は多くの映画ではディティールはそれほど大切にされていない。だけど、監督がそこに注意を払えばスタッフも自然そうなるんだ。ディティールにフォーカスすることでもっと大きな責任から、つかの間、逃げることもできるしね(笑)。

 ——主演のマット・デイモンもヒース・レジャーもギリアム作品に参加できることに大興奮したと聞きます。多くの若手俳優にリスペクトされることについて。
 彼らは若くて世間を知らないからじゃないか(笑)。もっと年を取ると世間を知ってしまい僕に見向きもしなくなる。だから、若いうちにゲットするのさ。

——森の中の拷問器具などプロダクションデザインにはどこまで関わりました?
とてもたくさん。すべてのプロセスに関わっているといっていい。美術も衣装も小物もそうだし、この作品に関して僕はCO−デザイナーといえるのではないかな。デザインの試行錯誤は終わることがない。毎日、毎日が対話の繰り返しだ。たとえば、森の中に大木を置いたとする。だけど、何かが足りない。「発砲スチロールを足してみようか」「まずまずだ。だけど、もう少し」「根っこを足したら」「悪くない。でも、もう少し足すか」「よくなった。でも、もっと足そう」、こんな具合だ。こんなことを毎日やっているから役者と話す時間もあまりない。だから、リスペクトされるのかな。演技の邪魔をしないからね(笑)。

 ——もし、本物のグリム兄弟がこの映画を見たら?
 タイムスリップした時に銃を携えてなければいいんだけど(笑)。ただ、この映画は史実に基づいたものではないから、本人たちが見ても自分だとわからないかもね。

 ——今回、10年ぶり、二度目の日本だそうですね。行きたい場所やお土産として買いたいものがあれば。
 実は観光にはもう行ったんだよ。京都が大好きなんだけど柊屋に泊まって東大寺に行って比叡山にも行った。今回は奈良と大阪にも行って、お好み焼きを食べた。お土産は……それこそ全部持ち帰りたいところなんだけど「これ以上モノを増やさないで」って妻に言われているからなぁ(笑)。

執筆者

terashima