とにかく新しい!と話題を呼んだ『ラン・ローラ・ラン』や、ダニエル・ブリュールというスターを生み出した『グッバイ・レーニン!』、そして大人も児童文学を原作としながら大人も楽しめる上質なエンタテインメント『飛ぶ教室』。今回、まさに映画の黄金期を迎えているとまで噂されるドイツ映画を合計25作品集め、「ドイツ映画2005 映像の新しい地平特別編」が、有楽町にて開催された。ナチをテーマにした作品がそれぞれオープニングとクロージングに選ばれるなど、シリアスなイメージの作品の中で、1本だけキッチュなタイトルを見つけた。それも『弟が犬になっちゃった!』・・・日本ではまだ紹介される機会がなかったのだが、ドイツ人はコメディ好きということでずいぶん沢山の数のコメディが作られた時期もあったのだとか。デビュー作は1985年という20年ほどのキャリアを持つ監督に、ドイツ映画事情などを交えながら、お話を聞きに行っちゃった!






Q—今回のドイツ映画祭では、ナチを題材にした作品もいくつか見られ、その中で監督の作品はとても素直に心が和みました。この作品を撮った経緯を教えてください。

ペーター「この種の作品では、質の高いものが必要だと思って作りました。子どもの憧れや夢を心を込めて描くということが必要なんです。今回のテーマは女の子が自分の弟に対して、良く思ってなく、弟がいなくなればいいという決断を下します。ドイツの中にこのような感情を抱いている女の子は沢山いるでしょう。だから、主人公にアイデンティティを見出し作品の中に入っていけると思います。」

Q—豊かな表情、印象的なナレーションでかわいらしく大活躍するマリエッタ役のマリア・エーリヒ、彼女なしにはこの物語は成立しなかったのではないかと思うくらい、魅せられました。キャスティングについて聞かせてください。

ペーター「マリエッタ役を決定する基準として、“子役として持つべきではない条件”というものがあった。だいたい女の子の子役というと、どちらかというと男っぽくて、自転車をこいでいる様なボーイッシュなイメージが良いとされている。でも私はそれは望んでいなかった。今回は女の子らしい女の子を配役したかったんです。とはいっても、人形のような女の子ではなく、柔らかくてオープンで、楽観的でロマンチックで、暗いイメージをわかせるような子ではなく感情的なシーンをうまくコントロールできるような子です。」

Q—もう1人、気になった女優がいます。おばあちゃん役をコミカルに演じていたイルム・ヘルマンは、本国で大女優だと聞きました。

ペーター「イルム・ヘルマンは、ファスビンダー(監督)ファミリーの一員で、その頃よく演じていたのはクールで冷淡なタイプで、そういった役を得意としていました。今回の作品では、近寄りがたいおばあさんではあるが、彼女なりの夢を持っていることを表現したかった。登場人物の内面を見せたかったのです。彼女は実生活では快活でよくしゃべったり冗談を言ったりするタイプの人間なのです。だから、今回の役を演じたことは自分自身も驚いた、でもとても楽しかったと言っていました。」

Q—監督は“動物映画の第一人者”と呼ばれているように、豚を扱った作品なども撮られているようですが、今回も犬を使っていますね。動物映画を撮る苦労は?

ペーター「『豚ルディー』は娘に読んであげた作品です。1章が1ページという構成の話ですが、だいたい1ページで眠ってしまうんです。しかし、この『弟が犬になっちゃった』という作品では眠らなかったんです。それは、特別な作品だったからなのだろうと思います。その後、ドイツで最大手の製作会社からこのストーリーを映画化しませんか?と言われました。いつも読んでいたのでその場で「もう3回も読んでますよ。」と答えました。作品選びには子どもも関わっているんです。動物映画は撮るのが一番難しいんのではないでしょうか。推理小説やラブストーリーに比べてずっと困難です。というのも、それらの作品には優秀な俳優さえいればかなり助けられます。彼らが想像をたくましくしてくれればいいんです。そして私達が理論的な説明をすればいいだけです。動物と子どもは根気強くいないとだめ、態度を変えるとすぐに逃げて行ってしまうんです。」

Q—ヴォルフ・ガング・ベッカー監督やカロリーネ・リンク監督といったドイツ生まれの監督が元気です。20年のキャリアを持つペーター・ティム監督は、ドイツ映画界を現在どのように見ているのでしょうか?

ペーター「若い才能ある豊かな監督が数多く現れています。彼らは個人的に興味のあるテーマを題材に作品を撮っています。記録映画、劇映画など、数多くありますが、現在のドイツをテーマにした作品が多いですね。特徴的なのは登場人物の心の中にカメラを入れて描いていきたいというやり方です。表面的なストーリーではなく、内面を描いていこうとするやり方です。これはとてもいいことだと思います。社会の中で過去も含めて切れ目の部分をテーマにしています。例えばベルリンの壁、ポーランドとドイツの国境などです。それと同時に心の中の割れ目、壊れたかけらをテーマにしています。国境というのは人の生活に深く関わってくるものなので、国境をなくして平和な時代に戻りたい、という共通の想いを生み出すのです。ドイツには有能な芸術家もたくさんいます。才能豊かでよい題材を扱う監督がいる中で、商業的な成功がないとそれが続かないというところが問題でしょうか。」

上映後の舞台挨拶では観に来た子供へのサプライズ・プレゼントを用意して現れ、子供たちの人気をさらったペーター・ティム監督。撮影にあたっては子役のマリア・エーリヒへの演技指導をすべて自身の演技で教えていたと語り、「でも、時々笑われちゃってね。参考にしてくれたのかな。」と微笑む姿は、動物も、大物女優も、子役の女の子すら作品の世界へ惹きこんでいく監督自身の魅力が溢れていたのでした。そして、一方で現在のドイツ映画の活況を冷静に分析し、商業映画に走る某ドイツ映画の大作を非難する一幕も。優しい笑顔の裏に、長いキャリアのこの先も、社会性と上質な娯楽を追及するという監督の使命は尽きることはないという意思を感じさせてくれました。

執筆者

Yuko Ozawa

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