『ワースト☆コンタクト』多胡由章監督 単独インタビュー!
ヤクザ×宇宙人という突飛な組み合わせ、さらに哀川翔×板尾創路というインパクト大のツーショット———。“極道SF”と銘打つ『ワースト☆コンタクト』が、8月6日(土)より公開される。
仲間に“死神”と恐れられている極道・生垣幸太郎(哀川翔)は、大事な取引で大役を任されることに。が、生垣の出世を妬む組長(団時朗)らから密かに妨害を図られる。そして人生最大のピンチに直面する幸太郎の前に、「地球を滅亡させにやってきた」という宇宙人(板尾創路)が突然現れて…。そのほか、二股をかけている幸太郎の恋人(有坂来瞳)や、昇進を狙い無謀な捜査を続ける刑事(佐戸井けん太)、離婚の危機に悩む幸太郎の幼なじみ・佐藤(酒井敏也)などが絡み、物語は思いもよらぬ方向へ展開する。
「昔は自分の演出の色に染めるタイプでしたが、今は俳優さんの動きを見るのが楽しい」と話す多胡由章監督。これまで大林宣彦監督、堤幸彦監督の作品や、最近では『木更津キャッツアイ』のメイキングを手掛けてきた気鋭のクリエイター。この『ワースト☆コンタクト』が長編第2作目となる。
$blue ☆『ワースト☆コンタクト』は2005年8月6日(土)よりテアトル新宿ほかにて公開!$
——実際にあった立てこもり事件をモチーフにしたそうですね。
そうなんですが……もうまったく残ってないですね(笑)。宇宙人出てきてますし。前の作品『Believer』は警察官やヤクザが出ない平和な話にしてくれと言われていたんですが、主人公が詐欺師だったのでけっこう苦労したんですね。で、次に何か企画はないかといわれた時に、今度は警察をヤクザをどんっと中心にしたものをやったらどうなるだろうと。昔あった立てこもり事件については、関係者の人には申し訳ないけど「え!」っていう結末で。二日間くらい立てこもって、結局犯人は自殺してしまったんですが「警察が先に発砲したことをちゃんと認めろ」と言っていたらしくて。極限の状況のはずなのに、結局人間が最後にこだわる部分って僕らが思っているようなことではないんじゃないかなと。そういうのがずっと頭の中にあったんです。だから『ワースト☆コンタクト』での争点は人の命でも仁義でも麻薬とかでもなく、宇宙人っていうのはどうかなーと思って今回やってみました。
——哀川翔さんと板尾創路さんの共演はそれだけでものすごくインパクトがあります。今までありそうでなかった組み合わせですよね。
お2人が決まった時はとっても嬉しかったですね。ヤクザと言えばやっぱり哀川さんだと思っていたんですが、忙しい方だし無理かなと。でも哀川さんが『Believer』を気に入ってくれて、決まったんです。そして板尾さんもダメもとでお願いしてみたら快諾いただいて。僕もびっくりです(笑)。
——哀川さんとのお仕事はどうでしたか?
哀川さんとは一番話し合いをしなかったかもしれないですね。主演100本をこなしてきただけあって、シーンになるともう役に入り込んでいました。哀川さんの役はすごいヤクザといわれているけど、宇宙人を一生懸命かくまったりする。自分の信念を信じる、実はかっこいい男なんですよね。今まで哀川さんが演じてきた役と、そこはあまり変わらないのではと。哀川さんがすごいのはブレないところですね。彼が演じているだけで、「彼がそう言えばそうかもしれない」って説得力があります。大嘘の話だけど、最後にはリアルな、人間の心の中の話になるので、下手に作りこむと説得力がなくなっちゃう。哀川さんや板尾さんのようにシンプルに、この物語を信じきってそこにいてくれるという俳優さんにとても助けられました。
——板尾さんは宇宙人というハマリ役(?)を演じています。最初の方に板尾さんが哀川さんを追いかけるシーンがありますが、あの時の板尾さんの目がすごく怖いんです。
あれは後の方に撮ったシーンで、板尾さんの中で役のテンションが上がってきたらしいです。あと、あの日徹夜の収録明けでそのまま現場に来ていて、カットになると現場の後ろで頭にアイスノンをのっけてたそうで…。でも僕はその時知らなかったので、「じゃ、全速力で走ってください!」とお願いしてました(笑)。今考えてみると、確かに目がいい具合に飛んでるかな(笑)? 走らせるの好きなんです、僕。『Believer』でも吉沢悠さんや伊藤歩さんにもひたすら走ってもらいました。
——いろいろな場所でストーリーが展開する中、宇宙人の若い頃の衣装、牛乳のエピソードなど、小ネタ的なものも散りばめられていて。そういったちょっとしたエピソードというかおふざけ部分は監督のアイデアなんですか?
板尾さんの過去の衣装は、僕が衣装合わせのときに決めたんですけど。あんな衣装が似合う人ってそうそういないですよね(笑)。牛乳の部分は俳優・演出家でもある脚本のサタケさんが当初小ネタとして書いてきたんですが、それをプロデューサーの渡辺さんが結構拘ったんですよね。「牛乳で怪我が治っちゃうっておもしろいよね」なんて言って。最終的にはみんなのアイデアを入れ込んでいたんです。板尾さんにも現場で細かいアイデアを出していただきました。
——例えばどんなアイデアを?
「宇宙人だし、まばたきしないってのはどうですかね?」とか(笑)。だからしてないと思うんですけど、ご本人は「しちゃったかなあ?」って話してましたね。真偽のほどは映画を見てください(笑)。あと、宇宙人らしい動きというのはだいたい板尾さんが考えています(笑)。『壊滅させる力を持っている』と説明をする時、有坂さんを突き飛ばし、帽子をカットうしろに回して、ある行動をするんです。見てて、ふき出しちゃって大変でしたね(笑)。板尾さんは阪神帽をかぶっていて、映画の中では細かく出てこないですけど、僕らの中ではかなりフューチャーしていて。実はこの阪神帽がすべての運命を握っていることになってました(笑)。あと、撮影の日現れたら、板尾さんは真っ黒に日焼けして、歯も汚して来てたんです。「無精ひげは欲しいですね」くらいしか話し合ってなかったので、驚きましたね(笑)。
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——他のキャストも個性派の方ばかりですよね。個人的には中国マフィアを演じるベンガルさんが片言の日本語を話すところが好きです。ベタなんですけど、存在感がすごくあって。
ベンガルさんの役柄は、もっと膨らませた方がいいんじゃないかって悩んだんですけど、脚本のバランス上できなかったんです。で、お決まりの片言を話すんですけど、とても面白いんですよ。確かに存在感がすごい。こちらで小細工しなくてもいいんだと、ベンガルさんのすごさを見せつけられましたね。哀川さんとか曽根晴美さんとかヤクザ映画の人達が出ているので、逆にそうでない人達もいて欲しくて。酒井敏也さんはもともと僕がファンで、哀川さんの親友が酒井さんだったら面白いんじゃないかなと。団時朗さんも、貫禄はあってもヤクザっぽくない人ということでお願いしました。でも登場シーンの8割が異常なことになっているので、やってくれないんじゃないかなと(笑)。でもご本人はすごく喜んでいて「どんな格好する?こんなパンツ持ってきたんだけど」とか(笑)。でもパンツだし、あんまり大写しできなかったんですが(笑)。本当に皆さんにはノリノリでやってもらいましたね。有坂来瞳さんは、あの瞳ですよね(笑)。実は一番重要で、一番お客さんに視線が近い役なのでキャスティングはかなり迷いました。その時有坂さんが日野日出志さんの映画に出て、トカゲの赤ちゃんを産む役をやっていると聞いて。僕、日野さんのファンですが、あの異常な世界にその年齢で有坂さんみたいな位置にいる人が出てるなんてと思って、お会いすることになったんです。あとはやっぱり瞳にやられましたね(笑)。
——登場人物が多く、物語の展開する場所も複数。さらに笑いと人間味を含んだストーリーということで、バランスを取るのが大変だったと思うのですが。
そうですね。3、4箇所の物語が短い時間でいろんな所をいったりきたりするので、お客さんが見ていて気持ちよく見られるように心がけました。場面を切り替えるときは、キメというかそういうものも必要ですし。撮影中も、編集中も悩みましたね。個性豊かな俳優さんの魅力をつぶさないようにしようと。舞台出身のサタケさんの脚本なので、やっぱり俳優さんが活きるような本なんです。それを哀川さんも板尾さんも気に入ってくれていて。最後はテーマ的な話も入るんで、ラストに行き着くまではとにかく面白い彼らを見せたいとずっと思っていました。
——ちなみに監督は宇宙人はいると信じていますか?
あー僕移り気なんで…。今は信じている時ですね。この映画をやりましたし(笑)。子供の頃は、盛り上がってるのが好きでした。番長グループともいじめられっこグループとも仲良くやれるタイプでしたね(笑)。
——今後撮りたい作品は?
いろんなことをやりたいですね。エロスだけは自信がないのですが…(笑)。この作品でSFに踏み出せたので、日本では弱いジャンルのSFをやっていきたいですね。宇宙戦争みたいな大きなものは難しいですが、今回のように俳優さんで魅せたりして面白いものを作っていきたいです。
執筆者
yamamoto