角川映画の集大成であり、80年代ジャズムービーの傑作『キャバレー』(角川春樹監督、野村宏伸主演)がついにDVD化された。同作は場末のキャバレーでサックスを吹く青年の、ハードボイルドな青春映画だ。ヤクザの抗争あり、結ばれないロマンスあり、世間知らずだった若者が痛みをともなって成長していく。86年当時、角川映画10周年記念として製作された本作には主演の野村宏伸を始め、鹿賀丈史、賠償美津子、三原じゅん子、真田広之、原田知世、薬師丸ひろ子、千葉真一、宇崎竜童など錚々たるメンバーが参加。「セットから何から今では考えられないような贅沢な作りでした」、野村さんは当時を振り返る。「この世界に入る前から、日本映画は見なくても角川映画は見てましたし、自分にとっても代表作でもある。思い入れの深い作品ですね」。撮影から20年弱(!?)も経っているということもあり、当初は不安だったインタビュー。だが、思い入れ深いというだけに彼のしゃべりに大いに助けられた。「現場では監督に怒鳴られてばかりいましたよ」とも。




——『キャバレー』は86年の作品ですが、今見ても豪華ですね、美術からキャストから。当時のことはよく覚えていますか?
当時、芝居なんてできないに等しい状態でしたけど、思い入れのある作品です。映画はその前の『メイン・テーマ』とこれと、角川映画しかまだ知らない頃でしたけど、それでも贅沢な作りだなというのは当時にしても思ってました。キャバレーと町と、通りにしてもね、全部作って、それをワンシーン、ワンカットの長回しで撮ってるんです。ああいう撮り方はそうそうできないですよね。角川映画10周年記念作品で、社長(角川春樹監督)自身、かなり気合いを入れていたものでした。

——角川監督からゲキを飛ばされたとか。
毎日、怒鳴られてましたね。「気持ちが入ってない」って。それはわかっていても、うまく出来ないという歯がゆさがあって…。ワンシーンも撮らずに「今日は終わり!」ってこともありました。今じゃ考えられない現場ですけど(笑)。というのも、映画っていつまでにクランクアップしなきゃないけないとかあるじゃないですか。それだけの予算も時間もある作品だったってことですね。監督にしても、その分、いい作品にしたいっていう気持ちも強かったでしょうし。

——その分、野村さんのプレッシャーは相当なものだったでしょう。やめたいと思ったことは?
自分はやるって決めたら意地でもってタイプなんですよ、昔から。確かに辛かったですけど僕が怒られることによって、現場が絞まるっていうのもあったと思うし。

——若きジャズ・プレイヤーの役ですが、野村さん自身との共通点はありましたか?
いいとこのボンボンで何も知らずに育ち、キャバレーの世界で成長していくって背景があるんですけど、これには僕自身とオーバーラップしましたね。ちょうど順撮りだったこともあって前半と後半とでは自分でも変わったなと思えました。

——サックスの猛特訓も。
撮影に入る半年前から練習しました。このとき、全く初めてだったので指使いから何から。といっても、劇中で吹いてるのはプロの先生なんですけど、本番はそれに合わせて指を動かさなきゃならない。指を動かすってことは曲の終わりまでちゃんと吹けなきゃいけないんですけどね。

——『キャバレー』公開直後の全国ツアーではサックスの腕も披露してましたね。今でも少しは?
いや、以来、やってないですね。もったいないけど、サックスってどこで吹けばいいんだってのもあるし(笑)。





——『メイン・テーマ』でデビューし、今年は『丹下左膳 百万両の壺』など出演作も目白押しでした。ちょっとここで他の作品についても伺っておきたいのですが。まず、『メイン・テーマ』(84)から。
 初めての現場。映画を撮っているという感覚より、スタッフとのコミュニケーションが楽しくて。

——『恋人たちの時刻』(87)
 『キャバレー』の後で役者を志そうと思ったときの作品。澤井(信一郎)監督もシゴくって聞いてましたからそういう覚悟で入りました。

——『天と地と』(90)
 お芝居をしたというより、馬に乗ってたって記憶が・・・(笑)。久しぶりの角川監督作品だったので緊張感もありました。

——『学校の怪談』(95)
この頃の作品になるとだいぶ気持ちにも余裕が出てきてますね。ストーリーもお化けもの、子供たちとの共演なので楽しみながらやりました。

——『時をかける少女』(97)
これも久しぶりの角川さんの作品。僕が出たのは2、3シーンでしたけど「うまくなったな」くらいのことは言ってもらえました(笑)。主演の中村俊介さんが角川監督にシゴかれてて、自分を重ね合わせて妙に懐かしい気持ちになりましたね。

——『花と蛇』(04)
最初に本を読んだ時は「えっ!」と思いましたけど、石井監督ならギャグにできるかなと(笑)。それまで、ああいう作品に出会うこともなかったし、いい経験でしたね。

——『丹下左膳 百万両の壺』(04)
 やっていて楽しかった。時代劇ですけど、恵比寿ガーデンシネマで(日本映画では初めて)上映されるってことにも惹かれましたね。

——そして、もう1作品。再度『キャバレー』についてもお願いします。
 この世界に入る前から、日本映画は見なくても角川映画は見てましたし、自分にとっても代表作でもある。あれだけの作品にあの若さで関われたってことはすごいことだと思いますよ、やっぱり。

 どうも有難うございました。

執筆者

寺島万里子

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