これまで誰も語り得なかった光の存在を映像で探究する、まったく新しい形の知的エンタテインメントが誕生。光を追う。この難業に挑戦したのは、オランダを代表する映像作家ピーター-リム・デ・クローン。これまでその存在が取り沙汰されていたものの実証されていなかった“オランダの光”を、論文でではなくカメラを通して探究し、強力な映像体験として完成させた。そして彼のアプローチがどれもユニークだ。

『オランダの光』リム・デ・クローン監督に聞いてみた。

※2004年11月3日(水/祝)より東京都写真美術館ホールにて「探究」のロードショー!






——長編デビュー作で「光」に迫ったその理由は?
 私は80年代から映画館用のニュースフィルム制作に携わり、世界各国に出かけていました。取材を終え、フィルムを見る度にオランダの光と、他国の光が微妙に違うことに気付きました。これをある時、兄に話したんです。彼いわく「オランダの光は特別なんだ」と。18世紀にはその光を求め、あらゆる国から画家たちが集まったと。実際、19世紀のオランダの絵画は光が重要な要素になっています。美術家たちには当然よく知られていることですが、本格的に研究した人はいないに等しかったんです。

 ——絵画といいましたが、実際、本作の映像は全てが絵画的で、構図としても惹きのあるものばかりです。映像としてのこだわりを感じますが。
 自然のあるがままをフィルムに残そう、こだわったというならその1点でした。フィルターを使用したり、デジタル処理をしたり、なんらかの加工をしたり、そういうことは一切したくなかったんです。加工や処理をせず、あるがままの風景を撮るのには時間が必要です。時間とは物事を観察するための時間です。同じ場所である一定の時間、一年間通し、四季を追った場所もあります。光は刻一刻と変化します。1時間のなかで、青空だったのが急に曇って陰ることもある。だけど、撮影を通じて発見したのは美しい光と美しくない光は存在しないってこと。どんな光でも美しいのです。

 ——さまざまなフィルムを試した後、選んだのはフジフィルム。特性は?
 まずVTRで撮るのは細かいコントラストが全然表現できないので、除外した。そこで35mmのフィルムに絞ったのだけれど何度もテストしましたね。例えば、コダックだと色が明るすぎてハリウッド映画みたいになってしまう。一方、フジフィルムは絵画であれ、風景であれ、見たままの再現性がありましたね。

 ——有名な芸術家からトラックの運転手まで、光にまつわるコメンテーターが多数登場しますが。
 比較的、みんな協力的だったね。ヤン・アンティニ、ヤン・ディビットとは出演してもらうのに2時間くらい説得したけれど(笑)。トラックの運転手は全員その場でつかまえた人だ。全部で10人に声を掛けたけれど、そのうちの8人が光に関する何らかの意見を持っていたね。

 ——撮影で大変だったことは?
製作中の転換期は2つあった。一つ目はロケーションを限定したこと。当初はいろんな光を集めるためにさまざまな場所で採取するべきと思っていた。けれど、あまりにコストが掛かりすぎるのでこれを限定した。結果的にいい判断だったと思うよ。もう一つは編集段階での決断。現代の映像はMTV以降、情報の洪水でスピードが命とされるけれどその速さが観察物の意思をなくしてしまうこともある。敢えてゆっくりとしたテンポで映像に収めたかった。

——日本の光は?
今の季節は水蒸気で光が拡販されてしまっている気がする。やや褪せたパステルの光だね。

執筆者

寺島万里子

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