僕がこの映画のシナリオを気にいった理由——『TUBE』キム・ソックン単独インタビュー
韓国のアクション映画のなかには、ときとしてハリウッドを凌駕するのではないかと思わせるものがある。時限爆弾と多くの乗客を乗せて暗闇を疾走する地下鉄を題材にしたこの『TUBE』も、そんなスペクタクル・アクションの1本だ。密室状態の地下鉄車内での攻防も、緊迫感みなぎる中央制御室のシーンも一瞬たりとも気が抜けない。『シュリ』では脚色を担当していたペク・ウナクが、韓国式ハリウッド・ブロックバスターを目指した監督第一作である。
テロリストと化した元諜報員に恋人の命を奪われたことから、むしろ命をかけた危険な任務を好むようになった刑事チャンは、宿敵が仕掛けた地下鉄乗っ取り事件に自ら飛び込んでいく。チャンを演じるのは『燃ゆる月』のキム・ソックンだ。いまや韓国を代表するアクションスターのひとりに成長したと言える。そんな彼と共演するのは、車内で彼に協力する女スリにペ・ドゥナ、敵のテロリストとして悪の神髄を演じて見せるパク・サンミンらだ。
多忙ななか、プロモーション来日したキム・ソックンは、凛々しさのなかにも気安さを同居させたようなたたずまいで、ハードなアクションの裏話や映画観の合間に恋愛観もチラリ!? 多忙な来日日程のなかで行われた単独インタビューの模様をお届けしよう。
$blue ●『TUBE』は東劇にて公開中!全国順次ロードショー! $
——キム・ソックンさんの映画が日本公開になるのは「燃ゆる月」以来なのですが、あのころより精悍になられたなと思いました。トレーニングで体を絞られたのですか?
「この映画(『TUBE』)の撮影中は、今よりも痩せていたと思います。アクションシーンがとても多くて、そのために体を絞ったこともありますし、監督からひじょうに高難度のアクション演技を望まれ、立ち回りのために蹴りなどのトレーニングをたくさんしていましたから」
——今までいろいろ脚本を見てきたなかで本作の脚本にいちばん心が動いたそうですね。どういうところが気に入りましたか?
「まず、シナリオがひじょうにシンプルだったということがあります。映画の評価というものは観客自身がするものですけど、観客が理解し難い映画はたくさんあるんですよね。でも、私はそういった映画は好きではありません。とにかく理解しやすいというのがよかった。観客が観ていて理解しやすい、アプローチしやすい。だから、私もとても気に入ったんです」
——ハリウッドのアクション映画を見ているような、あるいはそれ以上の迫力を感じたのですが、演じてらっしゃる側としては何か意識した作品はあったのですか?
「うーん。監督がこのシナリオを書いているときに“韓国型のハリウッド・ブロックバスター”とおっしゃっていたんですね。ですから、構造的にはハリウッドの映画と似ているんです。いい人と悪い人がいて、いい人を愛する女性がいて、また、悪人というのも何故ということになったのか、そこにいたるまでの理由があって、そういうところが似ています。でも、ハリウッド映画との違いというのは、ハリウッド映画はだいたいハッピーエンドじゃないですか。でも、これは韓国人の情緒を考えて——韓国人は終わりが悲しいのが好きなんですよ。ですから、最後はハッピーエンドではないというのが違いです。どの映画を凌ぐようなと、そういったことは考えていませんでした。ただ、韓国でもハリウッドのアクション映画のようなものを作れる、そういった考えで臨みました」
——本当にすごいアクションの連続で、怪我も絶えなかったのではないですか?
「撮影が終わったのは2年前なんですけど、怪我をして腰を痛めました。今も腰が痛くて苦労しています。一生痛いだろうと医者に言われました。ですから、この映画は私の腰の中に残りますね(笑)」
——どのシーンでのことですか?
「過去のシーンで私が指を切るシーンです。難しいアクションのときには自分なりに準備もしますし緊張もするのですけど、簡単なアクションだったので緊張の糸が緩んでいて、相手が私を殴るのを避けようとして腰を痛めてしまい、ヘルニアのほうにまでいってしまいました」
——いちばん苦労したシーンはどこになりますか?
「苦労したのは、最後のシーンです。苦労したシーンと危険なシーンは違うんですよ。パク・サンミンさんとの最後の立ち回りシーンを撮るのには、五日間かけたんです。朝食を食べて撮って、昼食を食べて撮って、夜を食べて撮って、寝て、また次の日撮ってって五日間かけて撮って……それがいちばんたいへんでした」
——では、危険を感じたシーンは?
「この映画の特性上、走っている地下鉄の中で撮っているわけじゃないですか。その走っている地下鉄に、私が飛び掛ったり飛び降りたり、それを実際の地下鉄を利用して行うのは、ひじょうに危険でしたし恐怖も感じました。また、地上と違って地下はどうしても空気が薄いですよね。その中で走るので息が苦しかった」
——あれはセットではなくて、本当に走っている所でやってらしたのですか? 地下鉄の上だったり、下に潜っていこうとしたりするシーンがありましたが。
「それはセットです。それはセットなんですけど、いくつかのシーンは実際に走る地下鉄のところで撮ったんです」
——そういう激しいアクションがあって、ところどころにペ・ドゥナさんとの関係が出てくるのですけど、彼女とは共演してみてどうですか?
「とてもよかったと思います。彼女には表現しにくい魅力があるじゃないですか。特に顔がかわいいとかそういったことじゃなくて、なんとなく魅力があります。この映画も彼女にひじょうに合っていたと思います。共演も、ひじょうに気楽にできました。彼女は、人並み以上に映画に対する情熱を持っていますし、また、個人としての人間性もひじょうによいので、気分よく仕事ができました」
——刑事に恋をして付きまとうスリという関係が面白いですね。
「有り得るのではないでしょうか。いちばん最初のシナリオでは、地下鉄に乗っていた記者が刑事に恋をする設定だったんですけど、シナリオの修正をするうちにスリの女性ということになったのです。私としては妥当性が有ると思います」
——かわいい女性に惚れられるのなら、職業は関係ない?
「ハイ。私、こういったことも考えてみたんですよ。果たして私は娼婦を愛することができるだろうかと。できるだろう。そういったことを考えたことがあります」
——この映画を見た方は、キム・ソックンさんのことを韓国でいちばんのアクションスターと思うんじゃないかと思いますが、そう思われるかもしれないことについて、どう感じられますか? また、今後どういった路線でいかれるのでしょうか?
「今までにもアクション映画はたくさん撮ってきました。韓国のほとんどのアクション映画で武術監督をしてらっしゃる方が私に『今まで自分が見てきて中で、最高のアクションスターのひとりだ』と言ってくださいます。もしも、日本の観客の方が私に対してそのような評価を下してくださるのであれば、ひじょうにありがたいことだと思います。けれど、今後は、この映画みたいに最初から最後までずっとアクションという映画は難しいのではないかと思います」
——それは、腰のことが理由ですか?
「それもあります。運動神経がいいので今までこなしてきたのですけど、あまりにも無謀にやってきたので、その分危険と隣り合わせだったということもあるんです。危険な峠を何度も通り越してきました。今後はそうではなくて、もっと安全なことをスタントマンも大勢起用してやりたいと思います。この映画のときには、ほとんどスタントマンを起用せず、無謀なこともしましたし、体も酷使したのですけど、もうこういったことは嫌です」
——この後は、帰国されてテレビドラマを撮るそうですが、映画のご予定はいかがですか?
「まだありません。今現在シナリオを検討中です。たぶんアクション映画ではないものになると思います。このテレビドラマが終わったらたぶん映画ですね」
執筆者
稲見 公仁子