「ストレートな初恋物語ですから、あまり難しく考えずにひたってもらえればと思います」(磯村一路監督)。『解夏』のヒットも記憶に新しい磯村監督が今度は子供時代の初恋を貫くピュアなラブストーリーを撮った。北海道の雄大な自然を舞台にした『雨鱒の川』は天賦の画才を持つ少年と耳の不自由な少女の物語である。彼らを演じるのはブレイク真っ只中にある玉木宏と綾瀬はるか。これ以上ないという程のフレッシュなコンビに中谷美紀や阿部寛、柄本明らが脇を固める。役者の瑞々しさに心洗われ、北海道の大自然にまた癒される。慌しい生活の中で忘れかけていた初恋という感情と、母なる大地。現在、ストレスを感じている人もそうでない人もまずは必見である。ふらりと劇場に立ち寄って、ピュアな感情をチャージしていくべし。

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——原作小説は10年前のものですね。映画化の構想は長くから?
 僕が話を聞いたのは2年前のことですが、プロデューサーの頭の中にはずっとあった企画だったらしいですね。実際のところ、原作小説は僕にとっても感情移入のしやすいものでした。原作者の川上健一さんは同年代のせいか、小説を読みながら自分の少年時代と重なる部分が多かったんですね。

 ——原作と変えた点は?
原作の舞台は昭和30年代ごろの東北でしたが、プロデューサーと話し合って少し現代よりの話にし、ロケも北海道で行いました。というのも、原作に出てくる川が重要なモチーフになるわけですが、物語の情景を彷彿させるような川が今の東北には残されてなかったんです。それで、北海道の川の情報を集め、最初に夕張を訪れたんですが、10月というのに既に雪が積もっていた。欲しい自然はあるものの、夏の景色が想像できなかったんです。結局、春先にもう一度出向き、この川をメーンで使うことになりましたが。

 ——本作の映画のもう一つの主役は北海道の雄大な自然です。けれど、こうした自然は時として撮影の敵になることも。
 不必要な護岸工事などで自然を破壊するなとか言いますけれど、本当に自然のままの川は台風が起きたらひとたまりもないですね(笑)。撮影の前半で橋の上から少女が少年に呼びかけるシーンを撮ったんですが、すぐ後に洪水が起こり、橋が跡形もなく流されてしまったんですよ。川の形も変わりましたし。で、そこはあきらめて、別の川を探したんですけど(笑)。

 ——さて、主演の2人に玉木宏さんと綾瀬はるかさん。旬の2人を起用していますが。
玉木さんは『群青の夜の羽毛布』でもご一緒したことがありますが、どこか純粋でまっすぐなイメージのある役者さんです。『雨鱒〜』の心平に近いものを感じていました。ちなみに、撮影は子役のシーンが先だったんですが、玉木さんも子供時代の心平を参考にして演じていたようですね。
綾瀬さんの場合、台詞もなく、感情を表す手段は表情や仕草だけ。でも、学校に行って手話を勉強したりと、頑張ってくれましたね。

——中谷美紀さんが母親役にチャレンジしています。
中谷さんはロケハンの時も「役作りの参考にしたいから」と北海道に一緒に来てくれた。確かに、今回の演出で一番大切だったのは環境だったんじゃないかと思いますね。中谷さんと心平が暮らすのは使われていなかった建物を映画用に改装したもの。大草原の小さな家みたいなイメージの家屋ですけど、こういうところで暮らす人物の心情は掴みやすくなぅたんじゃないでしょうか。

 ——子役の演出で大変だったのは?
子役の2人はオーディションですが決まったのは最終の段階になってからでしたね。かなり絞り込んで、この2人は全員が気に入ったんですよ。
 子供たちのシーンで大変だったのはやっぱり川のシーンでしょうね。昨年は冷夏だったので川の水も冷たくて、入れない(笑)。震えてましたよ。スタッフが水温計を入れながら撮り終えたって感じですかね。

 ——雨鱒のCGも手間をかけたとか。
 本物の雨鱒は時期にもよるんですけど、あの川にはいませんでした。道内の別の川から捕獲したものを一部撮影して、少年の足をすり抜けたりの場面はいるものとして演技してもらいましたね。重要な場面ですから、そこがうそ臭くならないようにと魚を得意とするCGチームの手を借りました。彼らは撮影現場にも来てくれて、自分たちの仕事のない時は現場の作業を手伝ってくれたりもしたんですよ(笑)。

——ちなみに、心平の描く絵は?
音楽も担当した葉加瀬太郎さんが原画を描いたんです。そのイメージをもとにスタッフが描きました。

——最後に観客の皆さんへメッセージを。
ストレートな初恋物語ですから、ふらりと劇場に入って、あまり難しく考えずにひたってもらえればと思います。北海道の大自然に酔い、自分の初恋を思い出してください。

ヤマメとか近くにつりセンターみたいなのがあって、
釣堀みたいなレストランがあって、そこで釣ったものを料理して食べる。雨鱒以外にも魚は出てきますから、そこから魚を手配してもらってってこともやっていました。

執筆者

寺島万里子

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作品紹介『雨鱒の川』