シネマコリア2004が東京会場・キネカ大森にて開催され、8月7日から10日までの4日間、大勢の韓国映画ファンで賑わい大盛況のうちに幕を閉じた。今年の上映作品4本も、それぞれ違った魅力をもつ かなりの秀作揃い。
 その中でも“都会の不真面目先生 meets 田舎の純情 Kids”『先生、キム・ボンドゥ』は、観る者に訴えるメッセージがハッキリとしている、真面目に観て笑って涙することの出来る映画だ。ある日、教育意欲ゼロの一人の不良教師がソウルからド田舎の分校に赴任してくる。生徒はたったの5人。ソウルでは当たり前のように受け取っていた、生徒の保護者からの“袖の下”も無い。なんとかソウルに戻りたい一心で あれこれと策を講じるが、徐々に純粋無垢な子供たちや素朴な村人たちと打ち解け、純粋な気持ちを取り戻していくハートウォーミング・コメディである。初監督作品を披露した他の3作品の監督とは異なり、チャン・ギュソン監督は2作品目。コミカルな流れの中でも、一貫して核となる部分を過不足なく丁寧に描いている点が素晴らしい!今回が3回目の来日というチャン・ギュソン監督に、お話をうかがいました。








——観客は皆、5人のガッチャマンたち(分校の生徒たち)の魅力に惹きつけられたと思います。子供たちはオーディションで決めたのですか?
「はい。シナリオのイメージに合わせて決めました。子役たちの地の性格と役の性格は全く違って、特にソソクを演じた男の子は、実際は女の子のようにおしゃべり好き。でもソソクという役は少し影のある感じでしょう?そういった点において、役の性格の説明や気を付けることなどかなり指導しましたね。」
——キム・ボンドゥ役にチャ・スンウォンさんをキャスティングされた理由を教えて下さい。
「まず都会の者が田舎に行くという作品として、都会と田舎の対比が必要でした。なので第一に、顔や雰囲気など外見が都会的である俳優を求めました。第二に、不良っぽい、いい加減な雰囲気を漂わせることが出来る俳優。第三に、個人的に助監督時代からチャ・スンウォンさんとは知り合いで、この作品のシナリオ執筆について いつも関心を寄せてもらっていたことが挙げられます。」
——キム・ボンドゥ先生は、幼い頃 教師にひどいことを言われたり叩かれたりして、それが傷になっていますよね。それなのに、なぜ教師になったのか。しかも、優しい先生になろうという志をもつならともかく不良教師。それが不思議に思うのですが?
「彼は、父親が用務員をやっていることを恥ずかしく感じる子供時代を送りました。教師になったのは、おそらく父親の願い。父親のために教師になったのでしょう。自分が先生にひどいことを言われたり叩かれたりしたことに対し「じゃあ自分はそうじゃない先生になろう」とは、人間なかなか出来ない。むしろ自分も同じことをしてしまうもの。そういうことだと思います。」
——そんなによく出来た、完璧な人間はいない、ということなのですね。
「ええ。父親は「我が子には素晴らしい先生になって欲しい」と思っているが、なれない。しかし、それが子供との交流を通して変わっていくという映画なんです。」
——監督自身はどんな子供だったのですか?
「ごく平凡な小学生。映画の中ほどではありませんが、似たようにお金を要求する先生もいて、子供心に嫌だなと思っていましたね。ソソクなど子供たちの名前は実際の友達の名前ですし、エピソードも自分や友達の経験をモチーフにしています。中1までは田舎で、中2からはソウルで過ごしました。やはり、一番記憶に残っているのは田舎で過ごした子供時代のこと。田舎の子供は純粋だったが、ソウルッ子は目先の利くところもあるし嫌でしたよ(笑)。」
——子供の親が教師にお金を渡したりするのは、昔から暗黙の了解みたいなものなのですか?
「今はかなり問題になっていますし、そんなにはないのではと思います。この映画の公開時、私は学校の先生から「こんなことはない!」という抗議があるだろうと予想していたが、一件もなかった。先生たちは自分たちでも悪いことと認めているのでしょうね。もちろん多数は善い先生でしょうし、そういった悪い先生は少数だと思いますが。」
——2作品目のテーマの軸に教育を選んだ理由は何なのでしょう?
「考えるきっかけとなったのは、96年に観た朝のテレビ番組の特集。田舎に行って、その風景だとか食べ物を紹介するものでした。学校へカメラが入っていくが、先生はいても生徒がいない。映画の中に出てくる白菜の畑のような、あんな感じの畑がその村にはあって、人手が足りなくて子供たちが働いているんです。ソソクのような一人の子供が悲しげに「廃校になっちゃうんだ。」とインタビューに答えていました。自分自身が田舎の出身ですし、非常に感動しました。」
——前半は、後半に比べてかなりテンポよくストーリーが進んでいきますよね。先生が分校に来たばかりの時、サッカーボールをあちこちに蹴り飛ばす想像をするシーンでは特に笑ってしまいました。
「あれは現場で思いついたんです。田舎にやってきて、なぜか子供たちはなついてくるが鬱陶しいというキム・ボンドゥの気持ちをどう表現したらいいのか、と考えました。韓国でも爆笑してもらえたシーンです。映画のはじめの方なので、観客にもリラックスしてもらえたらと思いました。」
——監督にとって一番思い入れがあるのは、どのシーンなのでしょうか?
卒業式から出てきたキム・ボンドゥに運動場でチェ老人が封筒を渡すところ。先生が初めて分校に来た時も、同じように運動場にひとり立っているところがあって、その反復になっているんです。来た時は嫌で嫌でたまらなかったのに、今では子供たちが大好きでこの学校でやっていきたいと思うのだが廃校になってしまって哀しい、という成長した気持ちが表されています。その後のスチールには、映画のテーマが込められています。こういった学校が廃校になって消えてしまう。なくなってはいけないものではないですか?皆さんはどう思いますか?と。
——韓国での公開前に、この作品のリメイク権・配給権をアメリカのミラマックスが獲得したとのこと。この話を初めて聞いた時はどんなふうに思われましたか?
「買いたいという話がきた時は、まだ撮影中だったんです。妙な気分でしたね。この作品は非常に東洋的情緒あふれるものなので、果たしてアメリカで通じるのだろうか?と。でも、もちろん悪い気はしませんでした。どんな映画になるのかという期待感はあります。」

監督の肌は日焼けして真っ黒!3作目『女先生vs女弟子』の撮影で、こんなに焼けてしまったのだそう。「学園コメディもので、中年教師と教え子の小学生が同じ若い先生を好きになるという話。テーマは先生の子供に対する無関心です。」先月撮り終え、帰国後編集作業に入るとのこと。また4作目のシナリオも執筆中で、「政治を風刺するようなコメディにしたいです。」とコメントを頂きました。次から次へと意欲的に制作活動を行うチャン・ギュソン監督。その秀でたセンスと情熱で、監督として確固たる地位を築いていくと思われます。今後の活躍が楽しみです!

執筆者

村松美和

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公式サイト:シネマコリア2004
作品紹介