「ラブストーリーを撮りたい。それもできるだけシンプルなものを。発端はそこから始まったんだ」、新作『CODE46』を引っさげ、来日したマイケル・ウィンターボトムはこう語った。ロンドンのミュージックシーンを描いた『24アワー・パーティ・ピープル』、移民の旅を描いた社会派作品『イン・ディス・ワールド』に続き、ウィンターボトムが題材に選んだのは一瞬の相思相愛。舞台は近未来、同じ核遺伝子を持つ者の恋は許されぬ世界の話。タイトルの『CODE46』とはそれを禁じる法律のことだ。そう、ティム・ロビンス、サマンサ・モートンを主演に迎えた本作はSF世界のロミオ&ジュリエットの物語といえる。「悲劇的な恋愛は感情移入しやすい。なぜなら、僕たちのほとんどの恋愛は別れに終わるものだからね」、ウィンターボトムはイギリス人的なジョークを飛ばす。

※『CODE46』は9月11日、シネセゾン渋谷、銀座テアトルシネマにてロードショー!!







——初のSF作品ですが。
どうしてこういう物語になったのかは実際のところ、わからないんだ。ただ、発端はラブストーリーを撮りたい、そこのところにあった。オィディプス的な要素のある、それもできるだけシンプルなものを。誰しも人生に一度くらいは大恋愛をするものだろう?だからこそ、恋愛は感情移入しやすいテーマなんだ。悲しい結末ならなおのこと。大概の恋愛は別れで終わるものだからね。
近未来を選んだのは物語を作る過程でのことだ。そうすることでより幻想的な世界観を描けると思ったからだ。夢のなかにいるようなね。

——ティム・ロビンスとサマンサ・モートン。映画の成功のひとつはこのキャスティングでしょう。
主人公2人の組み合わせはなんといっても大切だった。この2人なら恋に落ちても当然だろう、観客がそう思えるような俳優たちだ。この2人なら遺伝子的につながっていても納得できる、そう思えるような俳優たちだ。その一方で、意外性も必要だった。2人が出会ったとして、だからといって簡単に恋に落ちはしないだろうってね。
結論をいうと、このキャスティングは本能的なものだった。ウィリアムはシステムを信じる調査員、いわば体制側の人間で、マリアは逆にフリースピリットの持ち主だ。キャスティングで一番重要なのはその俳優の資質を見出すことにあると思う。ティム・ロビンスもサマンサ・モートンも役柄の要素を既に備えていたんだよ。

——2人が劇中で「ノー・ウーマン・ノー・クライ」をヘタクソに歌う場面があります。あのシーンは偶発的?それとも当初から考えていた演出ですか?
2人とも上手に歌ってしまうから、ヘタに歌わせるのにとても苦労したよ(笑)。なぜ音痴にしたかというと…僕自身が音痴なのと(笑)、ヘタクソな歌ってのも可愛い気がしてね。2人は遺伝子的に共通したものを持ってるはずだから、それが音痴っていう資質でもいいんじゃないかって。

——現場でのエピソードを?
うーん、そう面白いことがいつも思い浮かぶわけじゃないからね…。ああ、そうだ。ティム・ロビンスは身長が高いんだよ。上海に降り立つと彼の姿は一段と目立つ。本人はそれを気にしてたみたいだけれど、その異邦人たる雰囲気が却ってよかった。身長の高さで彼を選んだわけではないけどね。ちなみにティムはアメリカ人だけあって、上海での撮影はとても遠くに来た印象があったらしい。常にボディガードをつけてたよ。僕らはチャイニーズを食べてたけど、食事もケータリングで頼んでたしね。

——劇中で描かれる外側の世界と内側の世界。これは何らかのメタファーでしょうか?
ああいう区分けは近未来に限らず、現代でも起こっている。これの前に『イン・ディス・ワールド』を撮ったけれど、あの作品の登場人物は言ってみれば『CODE46』の外側にいる人々だ。実をいうと、『CODE〜』の質感や肌触りは前作から借りてきたものが多いんだよ。

——今のお話と重複するかもしれませんが、監督の作品は光の使い方に特徴があるように思います。包み込むような感触がありますね。何か特別な手法を?
個人的にはなるべくシンプルな方法で撮影したいと思っている。既存の照明と手持ちカメラでね。もし、それが無理ならーー主にスタジオ撮影の時によく使う手だけど、カメラに合わせた照明にセットしておく。ロケーションの場合も同じ。どのアングルからでも撮れる照明にしておくんだ。そうすれば一つのシークエンスで一度に撮影が出来るからね。今回の上海やドバイでの撮影もそうだった。まぁ、今の時代はご存知のように偏執段階で色彩の調整はできる。劇中の町では環境破壊が進んでいるから、空を敢えて紫っぽくしているんだ。

——本作の撮影は何らかの心境変化をもたらしましたか?次作品への影響は?
どうだろう?ひとつ言えることは外国での撮影は非常に楽しいということだ。前作の『イン・ディス〜』は外部との関係を描こうとしたものだけれど『CODE46』は閉じられた物語だね。で、次の作品だけどやはりラブストーリーだ。それも、殆どベッドの中にいる『CODE〜』の後にはそういう映画を撮ったんだ。

執筆者

寺島万里子

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作品紹介『CODE46』