4人の監督がオムニバスで参加した『穴』。それぞれの監督が“穴”から発想したアイデアやテイストの違いや各作品の主演俳優の個性などみどころは豊富である。ベテランである佐々木浩久、麻生学の安定した作品の仕上がりもさることながら、本田隆一、山口雄大といった若手監督の才能も存分にかいまみることができる。
 現在、テアトル新宿で公開中の本田隆一監督『プッシーキャット大作戦』の公開記念トークイベントのゲストとして登場した山口雄大は、「『穴』に参加したのは本田さんも参加するって聞いたから。」と発言。せっかくなのでこのイベント終了後に山口雄大監督にアポなしインタビューをお願い。さらにせっかくなので、同席していた本田隆一監督にも(インタビューはすでに掲載済)ちょろっと参加してもらってお2人に穴トークをしてもらおうと画策した編集部。
 多くの映画人の登竜門的存在のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター部門で、応募しつづけるもいっこうに入選できなかった過去をもつ山口雄大、方や『東京ハレンチ天国 さよならのブルース』でグランプリを受賞した過去をもつ本田隆一。いまでは気のおけない飲み仲間といった間柄で親交を深める2人である。それぞれの「穴」作品、『怪奇!穴人間』(山口監督)、『青春の穴』(本田監督)を肴に映画について語ってもらいました。


—— 穴人間のアイデアは?
山口「前から『ガス人間第一号』のような東映の特撮もののようなのをやりたいと思っていたのがまずありました。それとは別に今回の穴の企画として別のものを考えていましたが、あんまり穴と関係なくなってしまってダメだしされまして・・・。そこでタイトルだけで思いついたのが「穴人間」です。これはもう開き直って出したようなもので、語呂の面白さのみだったんですけどね(笑)。そこからどういうストーリーにしていこうかなって考えたときに、『ガス人間〜』てすごく悲しい話じゃないですか。ああいったテイストは絶対に必要だと思って。それで、もうその段階で、知りあいでも何でもなかったんですけど主演には板尾さん!と想定していました。あと、「名探偵・一日市肇」ていう自主制作時代からの僕のシリーズで、天知茂の明智小五郎のパロディみたいなキャラクターを合わせようと思いました。悲しい話にしようとは思っていたけど、それだけじゃいやなので昔からやってきたようなナンセンスなギャグも入れたかったんです。「穴人間」て一言いわれても何のことか意味わからないでしょ?そのわけわからなさが面白いと思って、板尾さんもすぐそれを面白がってわかってくれたんです。」

—— 今回の一日市肇は洗練されてかっこよくなりすぎてませんか?
山口「たしかに、インディーズの頃とはちょっとキャラ違いますね。後半の話を転がす役割でしたしね。江戸川乱歩の本でも明智が最後にちょこっと出てくるだけの回とかもあるので、そういうことをやりたかったんです。」

—— たしかに実際乱歩の原作でも、何作品かにわたって明智がだんだん洗練されていくんですよね。最初は本当に書生風で頭とかぐしゃぐしゃで、でも成長してからはスーツになでつけた髪、みたいな。
山口「僕は江戸川乱歩の原作の明智というよりも、土曜ワイドの天知茂ですね。一日市のイメージはあれでしかないんです。スーツを着てびしっとしたあの感じ。だから乱歩の原作なんだけど、「井上梅次監督による土曜ワイドの天知茂の」明智、というのが一番近いです。」

—— 板尾さんを主演として選んだ一番のポイントは?
山口「穴移動は、移動前でも移動中でもなく移動後の顔が重要なんです。板尾さんは無表情な顔がすごく面白い人。マンホールの中から『なんで自分はここにいるんだろう?』て何にもわかってないようなこの顔が出てるだけでも面白いと思ったんです。
それよりなにより、役者としてもコメディアンとしても以前から大ファンで、ずっと一緒に仕事がしたいと思っていました。つても何にもなかったんですけど台本をお渡ししてお願いしました。
板尾さんて普段からあんまり笑わないんですけど、新作の『魁!クロマティ高校』にも出演してもらっているんですが、共演者のプロレスラーの高山善廣(竹之内豊役)とお芝居した時は吹きだして笑ってました。」






—— そうですね、板尾さんは『クロマティ高校』にも出演していますしもう山口ファミリーの一員ともいえるのでは?
山口「今回の穴人間を去年の夏に撮影してから仲良くなりまして、『クロマティ高校』の脚本にも参加してもらっているし、出演者としても重要な役ででてもらっています。脚本を書いたのは増本(庄一郎)さんで板尾さんは構成という形ですね。僕と増本さんと板尾さんの3人でずっと話し合ってそれを増本さんがまとめました。板尾さんがチョロッというアイデアはすごく面白くて、僕らには2人では今まででてこなかったもの。そういうのをかなり取り入れてクロマティは作っています。これからも板尾さんとは色々とやっていきたいですね。」

—— バカ映画というジャンルは商業映画にはほとんど手つかずの分野でしたし、雄大さんがいま少し開拓しているという感じはありますが・・・
山口「バカ映画というジャンルを作りたいというところから『地獄〜』も『ババア』もやってきましたが、思ったほど追随してくる人がいないな、っていうのが正直な感想です。いままでの2作もそうだしクロマティもそうだけど原作ものですよね。穴人間は完全なオリジナルなので自分のテイストがすごく出せたと思いますね。」

—— 雄大さんは雄大さんで独自のものを確立していますが、本田さんもまた60年代テイストという違ったジャンルにこだわった映画作りをされていますが、雄大さんの「穴」はいかがですか?
本田「基本的には僕と山口さんはなんとなく同じものやジャンルが好きでみていますよね。僕もやっぱりバカ映画とか大好きだし。『地獄〜』も『ババアゾーン』も「穴」もそうだけど観てきて思ったのは、同じバカ映画でも自分とは明確に違うなにかがあるんですよね。雄大さんはさっき「追随してくる人がいない」っていっていたけれど、たぶんある種のバカ映画としての完成された形を提出したんじゃないかなって思います。だから同じものをやろうとしても超えられないからそういう人が出てこないんですよ。」
山口「本田くんとは同じバカ映画とかが好きで、映画をつくろう!というクリエイティブな志しも同じなんだけど、出てくるものがまったく違うっていうのが面白いですよね。」




—— 鈴木則文とか石井輝男のような東映のある時代を賑やかした監督たちに近いですよね。なにか人を驚かせようという心意気とかそういう面で。
山口「誰もやっていないものを作りたいっていうのは常にありますね。」
本田「バカ映画というくくりでやってはいるけど、雄大さんの作品を見て僕とは違うバカ映画のあり方だと思いました。雄大さんを見て、逆にはっきり自分の道を認識したみたいな。でも『穴人間』はこれまでの作品のなかでも一番僕と近い感覚ではありますね。まぁ、それについては「怪奇大作戦」が好きっていうことが共通しているからかもしれないけど。」
山口「僕も「怪奇大作戦」大好きで、どう考えても岸田森なんですよ。もう亡くなっていますが、今彼のような感じを出せるのは板尾さんじゃないかと思ってキャスティングしたっていうのもありました。」
本田「森の真面目な顔っていうのが一番面白いんだよね。」
山口「そうそう(笑)。火山に落ちた人間が這い上がろうとしてどろどろになってアメーバになった、みたいなことを推理する岸田森、とか。ゆってることめちゃくちゃでも妙な説得力があって、そういうのは板尾さんにもあるんじゃないかと思うんですよね。「岸田森になってください!板尾さん!」て(笑)。」

山口「さっきの「追随する人がいない」っていうのはきっと同じことをやっても面白くないからなんだろうけどね。僕もバカ映画にしろ何にしろ変わったものをやりたいっていうのは一番ですから。」
—— でもインディーズにはなにわ天閣さんや酒徳ごうわくさんなど、雄大さんとはまた違ったバカ映画をつくる面白い人がいっぱいいますよね。そういう人がなかなか商業路線に上がってこれない現状っていうのはどうでしょう。
山口「そうですね。僕も実は「地獄甲子園」の特典映像(山寺宏一さんが声優を担当した「地獄小甲子園」。十兵衛vs番長の熱き戦いをKUBRICKで小さく再現した衝撃作。)を酒徳ごうわくくんにお願いしました。彼は1人でこつこつやるのような作品にすごく才能があって、僕よりも才能あるのかもしれない。人には合ってるかどうかというのはあるので、特典映像に関しては僕がやるより断然彼にまかせた方が面白いものを作ると思ったんですよ。」

—— 次回作など今後の抱負は?
山口「こんなものにこんな金をつかうな!っていうバカバカしいものをやりたいです。それには投資する側の信頼も必要だから、これまでの作品はそういう意味でも意識してセレクトしています。『オースティンパワーズ』みたいに大金つぎこんでバカやるってことは日本でもやりたいですね。」

執筆者

綿野かおり

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作品紹介『漫☆画太郎SHOW ババアゾーン(他)』