2000年『ふたりの人魚』(主演:ジョウ・シュン)で高い評価を受け一躍話題を集めた中国第六世代を代表するロウ・イエ監督。本年度のカンヌ国際映画祭コンペ部門に、チャン・ツィー、仲村トオル主演の『パープル・バタフライ』が出品されたことなど、もはや中国国内だけでなく映画界全体においてもっとも注目される監督の1人でもあるが、その彼がインディーズ時代に資金調達のために製作していたテレビ用映画の中の「DON’T BE YOUNG」が本作『危情少女』として10年の歳月を経てようやく日本で公開されることととなった。
中国映画史上初のホラー映画ではあるが、ホラーというよりもどちらかというと幻想的なミステリータッチで描かれており、当時において、ナレーションを廃した先鋭的な彼の映像は中国テレビ界に衝撃を与えた作品であるともいわれている。
その中で、幻覚か悪夢かわからない奇妙な現象に悩まされる主人公・嵐嵐(ランラン)を演じているのは、いまや中国国内においてトップスターの座に輝いているチー・インである。自らをとりまく謎の出来事について真実をつきとめてゆこうとするランランの神秘的で鋭角的な存在感は、この作品全体に大きな印象を与えている。また、はつらつとした彼女自身の印象ともまったく異なる役柄にチャレンジしているところもみどころだ。出演当時演技についてはまだ新人だったという彼女に今回の作品について、ロウ・イエ監督について聞いてみた。

★『危情少女』は7月3日(土)よりテアトル池袋にて公開!





———十年前の出演作が日本で公開されますが、その感想は?
チー・イン「できればもっと早くに上映できればよかったですよね。」

———当時のご自分の芝居を見てどう思いましたか?
チー・イン「そうですね、あの頃はまだ新人で映画出演も5作目だったので、ひとつひとつに一生懸命に真剣に取り組んでいましたね。この作品はそれまでの出演作とは違ってて、それまで明るい元気な女の子の役が多かったんですけど、まったく逆の役柄なのですごく自分にとっても印象に残っている役でした。ただ、もう一度自分が演じることができたらもっとうまくできたかもって思います。」

———メイクなどもそうですが、実際にお会いした印象も全然違いますよね。
チー・イン「じゃああとでもう一度ランランみたくしてお見せしましょう(笑)」

———出演の経緯は?
チー・イン「ロウ・イエ監督が新人だった私のことをよく知っていたっていうのもあるし、自分にとってもすごく魅力的な役でした。監督の一作目を観ていたので作品に関しての理解はあったと思います。」

———夢か現実がわからなくなっていくようなストーリーですがはじめてシナリオを読んだときはどう思いました?
チー・イン「はじめの脚本はこれほど複雑ではありませんでした。ただ、ランランという女の子がお母さんを早くに亡くし、そのせいで幻覚を見るようになってしまうという簡単なあらすじでした。でもやはり撮影に入ってから、監督は新しいものを作りたいという思いが強かったので、撮りながらも脚本をどんどん変えていきました。人物の思いなんかも変わっていきましたし、それによてストーリーもより豊かなものになっていったんです。」

———現場でチーさんが出したアイデアが採用されたりとかアドリブでやったこととかはありますか?
チー・イン「今はもう十数年演技をしていますけれど、あのときは始めたばかりで監督や周りの人の意見を聞くことのほうが断然多かったですね。まだ自分から何かをこうしたいああしたいっていうものはありませんでした。役柄を詳しく分析していくのはちょっと苦手で、監督が何かを言ったらその意向を感じ取ってそれをすぐに演技に反映させるようなやり方が性に合っています。」

———中国映画では当時珍しいホラー映画ですが、怯えたり悲鳴をあげたりするシーンが多かったと思いますがいかがでしたか?
チー・イン「舞台となっている家の中で、みんながわざと恐い話をふざけてしてきたり、あと照明をチカチカさせて脅かされたり、そういうことが演技に入るときにより恐怖心を引き出すのに役に立ってたかも(笑)。1人であの家に入るのは恐いので歌を歌ったりしていました。」





———ホラー映画に出演するにあたって準備したこととかありますか?
チー・イン「うーん、特にホラーだからって準備したことはないけれど、事前に監督からは色々映画を見せられましたね。監督自身は、海外のホラー映画を観たりはしていたみたいですが、私たちに見せてくれたのはモノクロの映画でホラーではありませんでした。あとは、役柄のイメージ作りとして色んな写真を見せてもらいました。服装やデザインが、当時ファッション誌などで冷たいイメージのちょっと病的な感じのものが流行っていてそういうものもイメージとして参考にしました。実際に映画の中で着ている衣装も、日本のデザイナーの影響を受けているそうですよ。だからホラー映画だからといって固定せず、作品としてのイメージ作りに監督は一番重点をおいていましたね。」

———ロウ・イエ監督の演出は当時のテレビ映画界ではかなり先進的だったそうですが・・・
チー・イン「監督は私のことをある程度よくわかってくれている方でしたが、逆に私が監督との仕事で印象的だったのは、1つのカットを撮るのに1日を費やしたことがあったことです。そんなに資金がたくさんあったわけではないのでそういう撮影はかなりむずかしかったと思いますが、それだけ監督がこだわって作っている姿に私も共感しました。監督に言われたことは、「感じたことだけを表現しなさい」ということ。恐いとか不思議に感じたときはそれをそのまま出せばいいんだよってよく言われていました。」

———モデルや歌手などいろんなジャンルで活躍されていますが、その中で女優という仕事はどういう存在ですか?
チー・イン「いろんな仕事をしてきましたけれど、もとは学校で芝居を学んできたのでそこでかなり基礎を作った気がします。役者という仕事にはすごく誇りを持っています。『キープクール』を海外の映画祭で上映した時に、かなり自分の中でも意識が変わったと思います。それまでは、芝居が好きとか楽しいという思いが強かったけど、映画祭に参加したことで、俳優としての責任感というものがより強まった気がしました。私は中国の中ではまだトップとよべる実力ではないと思うので、まだまだ自分を磨いてトップになりたいと思っています。」

———では今後挑戦してみたい役や一緒に仕事をしてみたい監督、俳優は?
チー・イン「こういう役、とかそういう風に自分で固定はしないで自由でいたいと思っています。例えばごく普通で一般的な人間を演じることにも興味があります。それに脚本や監督などチームによってまた変わってくることだから、色んな役に挑戦したいと思っているんです。一緒に共演してみたい役者さんで、素敵だなと思うのはロバート・デ・ニーロさんです。日本の役者さんでは、木村拓哉さん、竹之内豊さんが好きです。あと金城武さんなんて言葉もできるし是非共演してみたいです。でも、有名無名に限らず才能がある方は沢山いるので機会があれば色んな方と共演してみたいと思っています。」

執筆者

綿野かおり

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