「監督も役者も無名なら作品はモノクロ。資金調達は確かに難しかった。だからといって奇跡的に完成した、とは言いたくないんだよね。スタッフやキャストたちのおかげでこの映画は完成したのだから」、「ある日、突然。」のディエゴ・レルマン監督は言う。アルゼンチンの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』とでも評されそうな本作は若い女性3人(1人は太め、地味めな女の子、2人はレズビアン)の唐突な出会いと旅とを描く青春映画だ。俳優3人は映画初主演ながら流れるようなキャメラ同様、このロードムービーに空気のように溶け込んでいる。自らも演技を学んだという監督ならの演出か!?「そうなのかな(笑)。まぁ、俳優養成所に行ったのは演出のためではあったんだけどね」。アルゼンチン映画の次世代を担う、ディエゴ監督に撮影秘話を伺った。

※『ある日、突然。』は8月、シネアミューズにてレイトロードショー!!








——映画化までは長い道のりだったそうですが。
 シナリオが完成した後、少なくとも十人以上のプロデューサーには当たったね。でも、同じ数だけ断わられたよ。「シナリオはよく出来ている、だけど…」
ってことなんだ。役者も監督も無名、しかもモノクロ、ヒットするとは思えないってことで資金提供してくれる人は現れなかった。
 それで自力で資金を集めたんだけど、何度となく製作は中断した。お金の問題だけじゃない。役者のひとりは途中でヨーロッパに行ってしまった。それと国の問題もあった。撮影を開始した途端、反政府デモが起こって当時のデラルア政権が退陣し、アルゼンチンは混沌としていた。
 けれど、その頃になって最初は断わってきたプロデューサーが協力してくれることになったんだ。そして、映画は完成したけれど僕としては奇跡的だった、とはあまり言いたくない。スタッフとキャストの協力あってこそ完成したのだと僕は思っている。

——主演の女の子3人は素人だったそうですが。
 それは微妙に違うかな。実際には彼女達にはお芝居の経験があった。100%のプロフェッショナルではないという意味での素人、ということだと思う。でも、それなら僕だって同様だよ。出演者はほとんど知り合いだ。ブランカ役のベアトリス・ティボーディンとレーニン役のベロニカ・ハサンは個人的な知り合いではなかったけれど、芝居を見ていいかなと思いキャスティングをした。

——監督自身も芝居の経験があるそうですが。
 演技を学んだことは学んだけれど、自分が役者だと思ったことはないよ(笑)。大学で映画を専攻し、同じ頃に俳優の養成所にも通ったけど、あくまで演出をするための必要性だったんだ。

——今回、役者への演出は?
 共通のシステムが存在するとは思わなくてね(笑)。それぞれの役者に合わせてやることにした。例えばマルシア役のタチアナ・サフィルは役柄について理解し租借してから、演技するタイプだ。彼女との打ち合わせは頻繁にしたよ。マオ役のカルラ・クレスポはまったく逆でその時の感覚で動くタイプだったから、指示は大抵その場で出したね。

——ジャームッシュと比較されそうな作風ですが、影響を受けた監督は?
いっぱいいるよ(笑)。ジャームッシュはもちろんそうだし、アキ・カウリスマキ、ヴィム・ヴェンダース、ルイス・ブニュエル、デヴィッド・リンチ、ブリュノ・デュモン、フランシス・コッポラ…。ああ、小津の国なんだから小津の名前も出さなくっちゃ(笑)。

——本当に小津好きなんですか(笑)?
 うん、本当だよ。小津はジョン・フォードに匹敵する存在だと思う。

——フランスで次作を準備中とのことですが、アルゼンチンの映画製作事情と違いを感じることは?
 実を言うと、フランスにいたのは5ヶ月くらい。シナリオを書いただけで今は国に戻ってるんだよ(笑)。ただね、アルゼンチンの映画事情からいうと、若い作家、自分の視点、自分の映画文法を持った作家がどんどん出てきている面白い時期だと思う。それに法的助成のシステムも少しづつ、完成しつつある。僕が思うに、これはフランスの製作事情をモデルにしたものなんじゃないかな。フランスは大国だし、アルゼンチンと比べようもないけど、そういう影響は感じるね。

執筆者

寺島万里子