人を愛することは後悔しないことーー。『ジェニファ 涙石の恋』は孤独な少年と不思議なムードを持った異国の少女との出会いと別れを描いた、ファンタジックなラブストーリーである。主演女優ジェニファー・ホームズの実体験がベースにある本作で、メガホンを握ったのはこれが劇場映画三作目になる三枝健起監督だ。「『純愛』ブームは今年あたりが最後の年じゃないかな。この機会を逃したらあと5年くらいは見れないかもしれませんよ」と笑う。今回、プロデューサーや撮影監督をハリウッドの大御所が務めるなど、日米合作の作品としても話題を呼ぶ本作。三枝監督に撮影秘話を聞いてみた。

※『ジェニファ 涙石の恋』は6月5日(土)、テアトル新宿にてレイトショー公開。




——原案は主演を兼ねたジェニファー・ホームズさんがされたとか。
三枝監督 彼女は実際に10ヶ月くらい日本にホームスティをしてたんですけど、そこで、たかしって日本人の男の子に恋もしたらしいんですね。彼女が最初に持ってきた話は作り酒屋のちょっと可哀想な少年に英語を教えてあげて、という、学園ものだったんです。
でも、ジェニファさんって背も高い。この人を高校生にするのは難しいんじゃないかってことになった(笑)。それで、お寺さんの話に作り直そうじゃないかって。彼女が訪ねてきたことによって家族みんなが幸せになるっていうコンセプトはそのまま残しましたけど。

 ——ジェニファーさんは日本語もペラペラだったんですか?
 どれくらいできるのかって最初、心配だったんですよね。“てにをは”が抜けているような日本語じゃないかとかね。怒ってるのか、悲しいのか、微妙なイントネーションなんかは難しいじゃないですか。でも、会ってみるとかなりスムーズに会話のできる人でした。10ヶ月間いただけですから天才的な語学力を持った方だと思うんですけど。

 ——物語構築の上でいちばん大変だったことは?
 今回に限ったことではないのですが、男女が出会ってどう別れるかっていうのは一番頭の痛いところで…。恋愛ドラマじゃなかろうとホラー映画だろうと男女の出会いは90%近くの映画で描かれている。
昔は戦争があって別れるっていうのが常套的に出てきましたけど、最近は原因を探すのもたいへんです(笑)。国境を越えた恋愛だから、何がしかのヒントがないことはなかったんだけども、結局、ああしたファンタジーっぽいラストにしたんですね。





——とうもろこし畑は圧巻ですね。場所はどちらで?
 長野県・松本市の2つの町村にまたがった地域です。実はあれほどたくさんのとうもろこしが埋まっている畑はなかったんですね。農協に頼んだんですけど、植えたのを移すと実がならないらしく、1から畑を作りました。
それが5月の連休くらいのことですね。その場所は7月20日からわさび資料館として工事する予定の敷地で(笑)。つまり、それまでには撮影を終わらせないといけなかったんです。昼夜を混同させて急成長させる方法ですとか、ビニールをかけて温かくし、成長を早めたりして、なんとか間に合ったんですけど(笑)。

 ——ということは、撮影期間は梅雨のさ中?その割に晴れの場面が多いような…。
 スケジュールとしては最低ですよね。でも、僕は晴れ男でね(笑)。前に『MISTY』を撮った時、ロケが屋久島で9月、台風シーズンだったんです。でも、なぜかその時は屋久島を抜けて東京に直撃したんですよ(笑)。
 
 ——今回、日米のスタッフが集結していますね。
 いろいろとギョッとさせられることも多々ありましたよ(笑)。撮影監督が「ダイナソー」を撮ってた人なんですけど、アメリカって撮影監督システムがあるじゃないですか。コンプリメント(補色)っていう言い方をしていましたけど、そのために美術とか衣装も変えたがって(笑)、「なんだったら自分でお金は出すから」って。屋外でのシーンになるともう何も言わなくなりましたけど。
おもしろいなと思ったのが、なんでも撮っちゃうってこと。たとえば、我々日本人が外国に行くと全てが珍しいじゃないですか。それと同じように初めて日本に来るような人だと全てが珍しくてなんでも撮っちゃうんですね。

 ——これから映画を見る観客の皆さんに何かメッセージはありますか。
 この5年間くらい「純愛」ブームが続いてますけど、この路線のブームは今年が最後の年じゃないかな。この機会を逃したらあと5年くらいは見れないかもしれない(笑)。『ジェニファ 涙石の恋』はある種の謎を残して終わってしまいますが、お茶の間で見るのは成立しにくい、映画ならのお話だと思っています。そういう意味では実験的な要素もあるでしょうね。

執筆者

寺島万里子

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